Yくんとの再会
私は中高一貫の女子校に通っていたため、高校生までは恋愛とは程遠い生活をしていました。
まわりの人はアルバイトをしたり他校の学祭に行って彼氏を作ったりしていたけど、超がつくほど真面目だった私は校則違反はしたくなかったのでアルバイトもせず髪を染めたりピアスを開けたりもせず、なんならスカート丈も規定通り。
携帯も所持していませんでした。
Yくんとメールのやり取りをし始めたのは携帯を買って大学生デビューする直前でした。
近所で久々に再会し、アドレス交換したことがきっかけでやり取りを始めます。当時はまだスマホは普及し始めた時代で、ガラケーが主流。赤外線を使ってメールや画像を交換していた頃でした。
高校を卒業して久しぶりの再会、そして仲良く気兼ねなく話せる男子というその2つの点において私の心はワクワクしていました。
ただ彼は私より頭があまり良くないという小学校時代のイメージが抜けず、親も彼に対してのイメージはあまり良くなく私はYくんと仲良くすることに対して複雑な気持ちを抱いていたことを今でも覚えています。
久しぶりに再会したから仲良くしたいしたくさん遊びたい。きっと色々経験して少し大人になってるはずだから、色んな話をしてみたい。でも親に怒られるかな、という気持ちをずっと抱きながら関わる日々でした。
もしかしたら若干の箱入り娘だったところはあるのかもしれません。私は7歳離れた弟がいますが、両親からしたら私は大事な大事な娘。変な人とは関わって欲しくないという親心があったのだろうと思います。
私も私で親を悲しませることはしたくない、と。親の言うことを素直に聞く性格はときに自分の気持ちさえ押し込めてしまいそうになるものなのです。
小学生の頃は私と身長差がほとんど無かったはずのYくんは背がぐっと伸びて私を優に超え、ちょっと格好よくなっていました。
私は1人で出かけると称して、親の目を盗んでYくんとよく近くの公園で散歩をしながら色んな話をしました。
ずっと私に片思いをしていたことも久しぶりの再会で知りました。仲のいい男子としか思っていなかった私はとても驚きましたが同時にこんな私を好いてくれていたのだと知り嬉しかったことを覚えています。
メールも驚くくらい毎日していました。
ところで大学に入学してすぐのころ、大学1年生全員が2泊3日の合宿で親睦を深めることが名目のフレッシュマンセミナーというものがありました。参加必須でした。
学科ごとに内容は様々でしたが、私は保育科だったためクラス対抗のゲームがあったり座学なんかもあったりと新しく過ごすことが出来ました。
合宿中は部屋がもちろん男女別になっており女子部屋ではいわゆる女子トーク、恋愛系の話に花が咲きます。
気になる男子または彼氏がいるか、過去の恋愛などなど王道ですが盛り上がる話題。
私に振られたときにYくんの話を出すと、すごーい!いいねー! と言われちょっと嬉しくなる私。恋愛したことない私でも話題についていけたことに安堵していました。そして合宿中もYくんとはやり取りを続けていました。
ある時、メール本文の最後の方に「好きだ」と書かれたメールが届きました。
私は好きと言われたことが嬉しくて、私も「好きかも」となんとも曖昧な返事をしました。
彼からしたらずっと片想いをしてきた相手にメールという手段ではあるものの思い切って告白をしてそれが受け入れられ一気に春が巡ってきたことでしょう。一方の私は、好きの意味が恋愛感情として言われたものとは気付かずその辺り転がる通りいっぺんの "好き" と同じものと思い込んでいました。その時点で既に齟齬が生まれてしまっているのですが、そんなことはお互い知る由もなくYくんとの関わりが増えていきました。
手を繋ごうとしてきたことがあったのも、確かこのメールのやり取りのあとだったと思います。
Yくんからしたら私とは付き合っていると思っていたのでしょう。ただ、私は恋愛対象か分からずに接する日々だったので私の中では付き合っていないという状態。
私は彼と手を繋いだ記憶は無いので、多分なにか理由をつけて断ったのでしょう。
哀れなりYくん。
秋になり大学祭のシーズンへ。
親友の大学祭に誘われた私はYくんを誘って一緒に行くことにしました。
私が親友にYくんのことを友達と紹介した時にYくんはもしかしたら何か悟ったのかもしれません。
仕舞いには帰りの電車の中で「Yくん、好きな人いないの? 合う人いると思うけどなぁ」と私に言われる彼。
その辺から少しずつ距離を置き出したのか、メールはこなくなっていきました。
私も私で大学のサークルでいいなぁと思う人を見つけ出した時期だったのでそのまま自然消滅のような形になっていきました。
好きで付き合っているかもと思っている人から友達と言われ、まるで脈ナシ状態とわかった時はきっと彼はショックだっただろうと思います。
今ならもっと気付いて動けたかも、とか違う声のかけ方があったかも、とか思いますが恋愛経験ゼロの私にはどうすることもできずどうしていいかも分かりませんでした。
これが私の恋に到達しないまでも、恋っぽく楽しんだ初めての出来事でした。