もう一人の天才魔女
見慣れた自室の天井。
目覚めた朧気な瞳がそれを捉えた後、顎と側頭部から鈍い痛みが伝わってくる。
「やっぱり夢じゃないんだな…」
そう呟いた。
そんな痛みが、全て現実で起こったことなのだと証明していた。
「というより…」
ぼんやりと時計を見た。
「完全に遅刻…いや、欠席だよな…」
正午を過ぎを示した針を見て、そう呟いた。
受験を終えた三年生の授業は午前で終わる。一応志望校に合格している僕は、欠席扱いになるだろう。
「なにもかも、あの貧乳のせいだ…」
痛む顎と側頭部を撫で、隣に横たわる少女に、そう恨み節を吐いて瞼を閉じた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
「流石は勇者と大魔女の娘!!」
何をしてもそう称賛される。
純粋な才能も、努力も、全て血筋としか見て貰えない。
誰も本当の私を見てくれない!!
評価は全て血筋。
じゃあ、私は何なのか!?
それじゃあ、あの人は何なのだ!?
−−−−−−−−−−−−−−−−−
瞼を閉じた僕の頭の中に、そんな少女の泣き叫ぶ映像が否応なしに流れた。
この少女は何者なのだろう…
少女の記憶なのか、その最後に映った影は、あまりにも美しかった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
−−−−−−−−−−−−−
−−−−−−−−−
「勇者も、その仲間たちも倒れた。神の加護を持つ者が我の前から消えた筈…」
圧倒的な、邪悪なオーラを撒き散らしながら、片膝を付き、呻く巨大な黒き存在。
そんな存在を冷ややかに見る者。
白銀の長髪、スラッと長い脚とくびれた腰、豊かに実った胸部に、永久凍土の如き冷たさを感じる美貌。
白銀の美女が邪悪な存在を降していた。
そんな彼女が装備しているのは、その辺で拾ってきた様な木の枝一本と防御力皆無の普段着。
「神界さえ破壊する我、邪神ドグラが…小娘に屈するか…」
息も絶え絶えに笑う邪悪な存在。
そんな余韻に浸る邪神に、美女は一歩近づく。
「妹を何処に隠した?」
ゴミを見る様な目で邪神に問う。
「さあな…しかし、愚かな貴様の妹のお陰で、我は滅びぬ!!」
地の底から響く様な邪神の笑い声が響いた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
「もう一度だけ聞く。妹を何処に隠した?」
「ごめんなさい、嘘です!!勝手に何処か行きました!!恐らく、ゲートを使ったのだと…」
美女の問いに、威厳の欠片さえ無くなった邪神は、命乞いしながら答える。
「ゲート…転移魔法をあの子が使ったってこと?」
木の枝を振り上げて問う美女。
「そ、その通りです!!わ、我が降臨した際に生じた魔力磁場を利用したのだと思います!!」
ヘコヘコと土下座しながら答える邪神。
「転移先は?」
そんな邪神の横っ面を木の枝でペシペシと叩きながら、再度問う。
「わ、分かりません…す、すみません!!命だけは御容赦を!!」
そう答えた自分を見る、氷の刃の様な美女の瞳に、邪神は?無様に命乞いするしかなかった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
「私の可愛い妹…お姉ちゃんが見つけるからね…」
命乞いする邪神を容赦無く滅ぼし、そう呟いた美女は、魔法で門を創り出す。
「何処に居ても、お姉ちゃんは見つけるよ…」
そう言って門を潜った。