第七夜:涙が枯れても
突然、噴出した魔の気に会談をしていた私を始めウリエル、メタロンは驚いた。
しかし、バール王達は落ち着いていた。
・・・・・・まさか!!
私は飛天の相棒であるゾロアスターの悪龍を見ると、彼は口端が裂けた笑みを、残酷な笑みを浮かべた。
『・・・お前の目論見は消した』
彼の笑みはそう言っているように見えた。
「これは、飛天殿の魔力ではないか」
しかも途轍もないほど怒りに満ちた魔力だとバール王は言う。
「飛天様は居ないって言っていたのに、どうして城から噴出しているのかしら?」
バール王の隣に座っていたアスタロス公爵は蝮を愛でながら私を見てきた。
「ラファエル。貴様、やはり・・・・・・・・」
メタロンは私が飛天を隠している事に気付いたのか、椅子から立ち上がった。
「大天使ラファエルも堕ちたものね」
ウリエルまでも私を見放したような口調で喋り立ち上がってしまった。
だんだん魔力が近づいて来ている。
『・・・・お願い。飛天ではない者が来て』
心から願ったが、私の願いは無残にも打ち砕かれてしまう。
ドアを蹴破り入って来たのは、眼帯を外し紅の瞳を見せる飛天だった。
両眼は殺気立ち今にも全員を皆殺しにしそうな勢いで私は身震いしてしまった。
「よぉ。相棒。ご機嫌は如何かな?」
ダハーカは口端を上げた笑みを浮かべながら飛天に尋ねる。
「最悪な寝起きだ」
飛天は怒りを隠さないで答える。
他の従者たちは飛天の無事な姿を見て喜びバール王たちも安堵している。
メタロンとウリエルは黙って飛天を見ていた。
「・・・久しいな。夜叉王丸よ」
メタロンが重い口調で飛天に話し掛ける。
「メタロンとウリエルか。こんな偽善者の城によく来たな」
飛天の口から放たれた言葉に私の胸は張り裂けそうになった。
偽善者・・・・・・・・・・嗚呼、飛天は記憶が戻ってしまったのね。
「まぁ、な。ところで今まで何処に居たんだ?」
メタロンの質問に私は覚悟を決めなければならないのかと思った。
彼は昨夜、言った。
『夜叉王丸を隠していたなら俺は、お前を殺す』
飛天が現われてメタロンの質問に答えたら私は殺される。
いやっ。それだけは嫌!!
飛天と共に生きたいのに殺されるなんて嫌!!
私は震える身体を抱き締め何とか震えを止めようとした。
「答えろ。夜叉王丸。何処に居たんだ?」
「・・・ここより北にある森に身を隠していた」
幾分か殺気を抑えながら答える飛天に私を始め皆は驚愕した。
どうして、そんな嘘を言うの?
飛天がここに居たのは、もはや明確になったと言わざるとえない。
それなのに敢えて嘘を吐く飛天に疑問を抱いてしまう。
「ラファエルの城ではないのか?」
「冗談を言うな。こいつの城に匿われているなんて考えるだけ虫唾が走る」
飛天は唾を床に吐いた。
「・・・こいつは俺の人生を滅茶苦茶にした女だ。例え、どんな状況に陥ろうとこいつの伸ばした手は取らないって決めてるんだよ」
「・・・・・・・・・・」
メタロンは黙り代わりにウリエルが口を開いた。
「では、私から質問するわ。どうして眼帯を外したの?」
「外したんじゃなくて、外すしかなかったんだよ」
「外すしかなかった?」
「傷が深くて意識が朦朧としていたから眼帯を外して力を最小限に抑えながら癒していたんだ」
「・・・そう。分かったわ」
ウリエルは真っ直ぐ飛天を見ていたが、直ぐに視線を私に移動させた。
「貴方を誤解していたわ。ラファエル。貴方は嘘なんか吐いてなかったわね」
冷静な口調で私に謝罪するウリエル。
しかし、事務的な声に聞こえた。
「貴方と夜叉王丸様は切っても切れない関係だから、疑ってしまって悪かったわ」
「・・・別にいいわ」
私は無理やり落ち着かせた声で返す。
「バール王。夜叉王丸様は見つかりました。今回は、お互い剣を交えずに退くのは如何ですか?」
ウリエルは私から視線を外すとバール王に双方、無駄に血を流さずに治めようと話を持ち掛けた。
「結構ですよ。私共の目的は飛天殿を魔界に連れ帰ること。飛天殿が無事である事が分かった以上、速やかに兵を引きましょう」
バール王達は椅子から立ち上がると飛天に話し掛けた。
「飛天、いえ。飛天夜叉王丸様。この度は大変な目に遭いまして誠に心配しました」
「悪いな。バール。お前らに迷惑を掛けて」
「まったくです、と言う所ですが貴方様の為ならば苦になりません。では、魔界に帰りましょうか」
「あぁ」
飛天は殺気を抑えたまま頷いた。
「あ、思い出した。おい相棒」
何か思い出したのかダハーカはポケットから何かを取り出すと徐に飛天に投げた。
「・・・・こいつは・・・・・・・・・」
飛天が持っていたのを見て私は、驚愕した。
龍の首飾り。
あれは、私の部屋にあった物だ。
ダハーカを見ると彼は人の悪い笑みを浮かべていた。
『・・・あれは“彼女”の物だ。お前の物じゃない』
誰かにそう言われた気がした。
「無くしてたものとばかり思っていたが・・・・・・」
「たまたま見つけた」
大事な物だろ?と問うダハーカに飛天は頷いた。
「あぁ。俺の大切な物だ」
龍の首飾りを大事に手の平で覆いキスを落とす飛天。
私は、それだけで、ここには居ない・・・・・・当の昔に死んだ女に嫉妬を覚えた。
死んだくせに未だに飛天を捕らえて放さない憎き女。
飛天は私の嫉妬に気付かないのか龍の首飾りを抱き締め背を向けた。
バール王たちも後に続いた。
私は黙って彼が去るのを見ている事しか出来ない。
戻って来て欲しかった。
もう一度、私を抱き締めてキスをして欲しかった。
だけど、もう駄目・・・・・・・・・
飛天の記憶が戻った今、それは叶わぬ事だと解っていたから。
しかし、ドアの手前で飛天の足が止まった。
「・・・・今度、会う時は・・・・・・・・ラファエル。お前の首を神流の墓前に供える時だ」
私は泣き崩れた。
やはり、もう戻れない。
飛天の言葉でそれが痛いほど思い知らされた。
私の飛天が去って行き私とメタロン、ウリエルだけが残った。
「・・・どうやら飛天は無事に戻ったようね」
3人だけが残った部屋にガブリエルが突然、姿を現した。
「・・・・・ガブリエル」
私は彼女を睨んだ。
彼女が飛天の居場所をバール王たちに言わなければ、飛天は記憶を戻さずに私の元で幸せに暮らしていけたのに・・・・・・・・!!
「涙眼で睨んで来るなんて差し詰め男に捨てられた哀れな女って所ね」
ガブリエルは冷やかな視線で笑った。
「・・・何しに来たのよ」
メタロンとウリエルが居るのに私は怒気が籠った声で訊いた。
「飛天が無事に帰ったのを見届けるのが一つ。それから飛天に無残にも振られた哀れな偽善者を笑いに来たの」
私は我慢出来ずにガブリエルに襲い掛かった。
右手を掲げて黄金の剣を出す。
私の愛用している剣、ローズ・マリー。
ガブリエルは私が斬りかかるのを予想していたように笑いながら懐に手を入れた。
「相変わらず猪突猛進ね」
笑いながらガブリエルは懐から出した黒い銃で私の剣を狙い引き金を引いた。
乾いた音が部屋に響いた。
私の剣はガブリエルが撃った銃で二つに折れた。
「逆上して斬りかかるなんて、とことん貴方って馬鹿よね」
ガブリエルは冷たい笑みを浮かべて銃を仕舞った。
「貴方が私に勝てる訳がないじゃない」
私には飛天の加護があるというガブリエル。
「・・・どういうことよ」
折れて砕けた剣を握りながら私は問うた。
「気付かない?」
愉快そうに笑うガブリエルに私は眼を見張った。
「・・・まさかっ」
「やっと分かった?」
ガブリエルは懐から煙草を取り出して銜えた。
「貴方・・・・飛天と・・・・・・・・」
「えぇ。そうよ。キスもして抱かれもしたわ」
「!!」
予想していたが、自ら言われると衝撃が来る。
ガブリエルを飛天が抱くなんて・・・・・・・
どうしてなの?
彼女だって私と同じ天使で飛天の仇なのに。
「貴方とサリエルみたいな小娘と一緒にしないでもらいたいわね」
ジッポ・ライターで火を点けながらガブリエルは私の考えを遮断した。
「私は飛天の協力者であり理解者よ。貴方達とは違うわ」
「まぁ、せいぜい飛天に残酷に殺されなさい。出来るならサリエルも一緒に死んでくれると嬉しいんだけどね」
ガブリエルは煙を吐きながら私に背を向けた。
「あー、そうそう。言い忘れていたわ」
立ち止まると振り返りメタロンに言った。
「飛天からの伝言よ。メタロン。『ラファエルを殺すな。殺すのは俺だ』だ、そうよ」
「・・・承知した。そう夜叉王丸に言っておけ」
メタロンの返事を聞いてからガブリエルは部屋を出て行った。
「・・・・夜叉王丸と約束をした以上、お前を殺すのは奴に任せるとする」
メタロンは私に背を向けると音も無く消えウリエルと私だけが残った。
「ラファエル。この事は、私の胸の内に収めておくわ」
「・・・・・・・・」
「貴方を処罰しようと思えば出来るけど、今回の件で貴方も相当の痛手を受けただろうから止めておくわ」
ただし二度目はないと彼女は言い残し消えた。
一人となった私は飛天が去って行った方向を見続けて涙を流し続けた。
ずっと、涙が枯れ、声が掠れても私は泣き続けた。




