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第六夜:偽善者

ダハーカは話し合いが2日後に迫った夜の日にラファエルが支配する都、ラピスに一人で来た。


夜空に紛れて都へと入った彼は真っ直ぐラファエルが居る城へと行くと静かに音を立てず潜入しラファエルの寝室へと忍び込んだ。


事前に鵺が調べた結果、ラファエルは援軍に駆け付けたウリエル、メタロンと軍議を開いていて留守だと聞いている。


「女じゃなくて男の寝室に行くなんて・・・・ゲイの夜這いじゃあるまいし気が滅入るぜ」


軽く愚痴を零しながらダハーカはラファエルの寝室へと潜入し例の隠し扉を開けて下へと階段を降りた。


木製の扉がありダハーカは慎重に開けて中に入った。


中には豪華なキングサイズのベッドと本棚にテーブルだけが置いてありベッドには一人の男が座っている。


上半身を包帯で巻いて黒いズボンを穿いた男は右を黒い眼帯で覆っていた。


彼こそダハーカの相棒、飛天夜叉王丸。


「誰だ?あんたは」


夜叉王丸の口から出た言葉に彼は少なからずショックを受けたが、直ぐに肩を落として笑った。


「鵺の言う通り記憶が無いようだな」


「鵺?ああ、あの男か」


俺を殿とか言っていたから驚いたという夜叉王丸。


「あいつはお前に拾われたんだ。だから殿と言っても間違いじゃない」


「それで、あんたは俺の何だ?」


「背中を護る相棒さ」


「で、その相棒が何の用だ?」


「お前の記憶を取り戻しに来たんだよ」


「俺の記憶を・・・・・・・・・?」


「あぁ。自分の過去を取り戻したいだろ?」


「まぁな。ここに来てから必死に思い出そうとしたが、まったく思い出せない。ラファエルに聞いても思い出すのは少しずつと言って良いと言われた」


『あの女の考えそうな事だ』


心の中でラファエルを罵倒するダハーカ。


ラファエルなら夜叉王丸に優しい言葉を掛けながら、懐柔させようとするのは目に見えていたとダハーカは思っていた。


案の定というか夜叉王丸も少なからずラファエルに好意を抱き始めた様子だった。


「お前の記憶は少し荒治療だが、方法がある。どうする?」


「荒治療だろうが、方法があるならやってくれ」


「そう言うと思っていたぜ。相棒」


ダハーカは口端を上げて笑うと夜叉王丸に眼帯を取るように言った。


「眼帯を?」


「それを外して俺が力を流せば、過去が取り戻せる」


かなり負担が来るとダハーカは言ったが、夜叉王丸は何の躊躇いも無く眼帯を外してみせた。


「俺の過去が解り俺が何者なのか分かるなら屁でもない」


「流石は俺の相棒だな」


ダハーカは笑うと夜叉王丸の右眼、紅の瞳に人差し指と中指を合わせて近づけると力を注いだ。


「ぐっ」


夜叉王丸は呻き声を上げたが、歯を食い縛り我慢した。


「まだまだ掛るが大丈夫か?」


「・・・大丈夫だ」


いいから続けろと言う夜叉王丸にダハーカは力を注ぎ続けた。


暫くの間、夜叉王丸のうめき声が部屋に響いた。


ダハーカが指を夜叉王丸の右眼から外すと夜叉王丸は意識を失い、ベッドに倒れた。


「・・・1日くらいは眠ったままだ。それまでには記憶は戻る」


明日は話し合い。


つまり彼は記憶を話し合いの最中に目覚めるようにしたのだ。


そうする事で、ラファエルの心をズタズタに引き裂き彼女の天界での地位を陥れる。


「これ位の復讐で、こいつの無念が晴れる訳ないが、ちょっとは良いよな」


誰に言うでもなく呟いた彼は夜叉王丸に毛布を掛けて眠ったように見せて部屋を出た。


部屋を出て城を出ようとしたダハーカはラファエルの部屋にあった、在る物に眼が止まった。


机の上に無造作に置かれていたのは龍の首飾り。


シルバー色だったようだが、赤錆が付いたように鈍っていて汚れていた。


それは、彼の相棒である男が愛した女が持っていた龍の首飾りだった。


「あいつが、彼女に渡した物をどうして天使が・・・・・・・・・」


少し悩んだが、思い出した。


「・・・そうだ。あの女が持って行ったんだな」


夜叉王丸が愛した女を殺して、その首にあった首飾りをラファエルが毟り取ったのを思い出す。


赤錆は彼女の血だ。


血だらけに染まって冷たくなった彼女の首から、強引に毟り取ったラファエルの光景をダハーカは思い出し吐き気がした。


「・・・・・・・」


彼は龍の首飾りを机から取るとポケットに入れて部屋を出た。


そして、思った。


「・・・八つ裂きにしても飽きたり無いな」


ダハーカは月が消えた暗い空を飛びながら呟いた。


そして何としても夜叉王丸に仇を討たせてやりたいと思う。


自身の部屋でそんな事が起こったのを知る由も無いラファエルは、ウリエル、メタロンと軍議を開いている最中であった。


「明日の昼にここで会談を行う」


メタロンの意見にラファエルは眉を顰めたが、ウリエルは賛成だと言った。


彼女から言わせれば、ここで会談を開けば夜叉王丸の部下が感づいてしまうのではという危機感があった。


しかし、それは言えないため彼女も了承した。


「ラファエル。しつこく訊くが、本当に夜叉王丸は隠してないんだな?」


メタロンはラファエルが夜叉王丸を隠しているのではないかと薄々は感づいていた。


彼も夜叉王丸の過去は知っている。


人間界でも不幸な末路を辿り、悪魔に転生してからも自国から爪弾きにされている夜叉王丸を哀れに思うと同時に、ラファエルとサリエルがした天使に有るまじき行為には激しく憤りを感じていた。


しかし内輪揉めを起こす訳にもいかず、出来るだけ良好な関係を築くように努めているが、彼女が夜叉王丸を隠していると知ればどうなるか自分でも、分からない。


「貴方もしつこいわね。知らないわ」


ラファエルはしつこいメタロンに痺れを切らし睨んだ。


「・・・もしも夜叉王丸を隠していたなら俺は、お前を殺す」


メタロンの言葉にラファエルとウリエルは驚いた。


「仲間で争うのは嫌いだが、お前が嘘を吐いているなら問題だ。お前は夜叉王丸と切っても切れない関係だ」


お前が彼の大切な者を殺したからだというメタロンにラファエルはテーブルを叩いて唸った。


「メタロン!幾ら貴方でも言っていい事と悪い事があるわよ!?」


「事実を言っただけだ」


メタロンは平然とした顔でラファエルを見る。


「だけど、メタロン。仲間内で争ったらミカエルが許さないわよ」


「その時は罰を受ける。天界を去れと言うならガブリエルみたくなるまでだ」


「・・・・・・・・」


ウリエルはメタロンの眼が本気だと知り、ラファエルもメタロンの性格上の事を考えれば本気でやりかねないと知り口を閉じた。


「話が逸れたが明日の昼、ここで会談をする事に異議はあるか?ラファエル」


メタロンは未だ怒りを噴出させているラファエルに訊いた。


「・・・好きにしなさい」


もはや投げやり状態のラファエル。


「分かった。では、会談はここでやる」


メタロンは頷くと椅子から立ち上がって斥候を呼びに部屋を出て行きウリエルとラファエルが残った。


「・・・・彼、本気で貴方を殺すわね」


暫く沈黙だったがウリエルが口を開いた。


「まぁ、それだけの事を、貴方達、二人は、したものね」


氷のように冷たい言い方ではあるが、所々に棘があり明らかに攻めていた。


「・・・私は彼を愛しているのよ」


苦々しい表情を浮かべながらラファエルは答えた。


彼を愛して止まないから、出した行動だと言う。


「あの人の大切な存在を奪って置いて愛しているなんて・・・・・・・・よく言えるわね」


しかし、ウリエルは冷たい言葉を言い放った。


「貴方達は、彼の愛した女を奪った。しかも目の前で、ね。そんな貴方が彼に愛される訳ないでしょ」


馬鹿も休み休みに言えと言い続けるウリエル。


「貴方もサリエルも夜叉王丸様に愛される存在ではないわ。・・・嗚呼、違うわね。貴方の方が愛される訳がないわね」


サリエルは正義や道徳と言った建前に捕らわれないが、貴方は正義や道徳を建前に生きる“偽善者”だからと言うウリエル。


正義や道徳を建前に生きる者を全て彼は、夜叉王丸は心の底から嫌悪し憎んでいる。


そんな偽善者であるラファエルを夜叉王丸が愛する訳が無いと、ウリエルはねめつけた。


「・・・私は・・・・・・・・・・」


何かを言おうとしたラファエルだが、ウリエルは最後まで彼女が言い切る前に席を立った。


「お休みなさい。ラファエル。貴方が嘘を言ってないと、形上は思っておくわ」


冷たい口調で言いながらウリエルは部屋を出て行った。


・・・だが、ドアノブに手を掛けた所で立ち止った。


「貴方が夜叉王丸様を、閉じ込めているなら私も貴方を殺すわ」


自由の代名詞とも言える、あの方を閉じ込める者は、誰だろうと、それが“創設者”であろうと殺すとウリエルは言い、部屋を出た。


一人、残されたラファエルは何も言えずに黙ったまま暫く席から立ち上がられる事が出来なかった。


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