第三夜:旧友の来訪
更新が遅れてすいません。ここ最近は、スランプ気味で良い文章が書けない始末です。
私が何時も通り仕事を片付けていると来訪者が来たと部下が告げた。
「ガブリエル様が来ました」
「・・・・ガブリエルが?」
心を許した唯一の親友だったが、数百年前に袂を断った。
理由は飛天だ。
数百年前に飛天は天界に捕まり拷問を受けていて、私が助けて自分の城へと連れて帰り傷の手当をした。
罵声を浴びせられて私は一人で泣いていたがガブリエルの気を感じて部屋に走った。
しかし、既に飛天の姿はなく黒い鴉の羽根が一枚と、それを大事そうに握るガブリエルの姿だけがあった。
私はガブリエルに詰め寄った。
ガブリエルは飛天を魔界に帰したと言って自分も飛天が好きだと言った。
『復讐の手助けでも良いから、彼の傍に居たい』
それを聞いて我慢出来ずに平手打ちを喰らわして、袂を断った。
それから数百年が断った今になって尋ねて来るなど・・・・・・・・・
「・・・・もしかして」
私は思い当たる節があるのを思い出し、ガブリエルを通すように言った。
数分ほどしてからガブリエルが現われた。
茶色のジーパンと焦げ茶色のTシャツに茶色のロングコートを羽織った女性がガブリエルだ。
腰まで伸びた茶色の髪はポニー・テールに纏めてある。
顔も切れ目で何処か威圧的な雰囲気を出していて飛天の女バージョンに思えた。
とれもじゃないが、天使とは思えない。
「・・・久し振りね。ガブリエル」
私はデスク・テーブルに両手を組んでガブリエルに出来るだけ感情を殺した声で喋り掛けた。
「数百年ぶりね。最後に会ったのは、飛天を逃がした時だったかしら?」
ガブリエルは無表情に近い顔で喋ると勧めてもいない椅子に勝手に座った。
「何の用?」
私は飛天の事を言ったガブリエルに危機感を感じて部下に去る様に言い部下が消えてから尋ねた。
「用なんて野暮な質問ね」
肩を竦めて返答するとガブリエルは煙草を取り出して口に銜えた。
「煙草は嫌いだと言った筈よ」
「そうだったかしら?」
首を傾げながらガブリエルは許しも得てないのに煙草にジッポー・ライターで火を点けた。
煙草の臭いが鼻を突く。
私は煙草の臭いが嫌いだ。
硫黄のような臭いがして地獄のマグマのようだからだ。
「煙草が嫌いな割には、煙草の臭いがするのは気のせい?」
煙を吐きながらガブリエルは部屋を見回した。
「・・・・・・・」
「この煙草、セブンスターね。私が知る限りでは、この煙草を吸うのは一人しか知らないわ」
『飛天が居るでしょ?』
暗に告げていた。
「一週間前に、地方で開かれた夜会に私も出席したのよ」
「その時、飛天の煙草臭がして行って見たら、夥しい血痕後だけが残っていたわ」
「誰かが連れ去った後で歯軋りをしたけど、現場にこれが残っていたわ」
懐から私が夜会の時に付けていた髪飾りを取り出してテーブルに投げた。
「・・・・・・・・・」
「貴方が飛天を連れ去ったのは明白。さぁ、答えて頂戴。飛天は何処?」
ガブリエルは冷たいブラウンの瞳で私を射抜いた。
「・・・知らないわ」
飛天は渡さない。
私は心の中で言いながら首を横に振る。
「天使が嘘を吐くの?」
「知らないものを知らないと言って、嘘になるの?」
「知っているのに知らないと答えるなら嘘よ」
互いに一歩も引かずに睨み合う。
「・・・あくまで白を切るなら力づくでも飛天を探すわよ」
「貴方に権利があるの?」
「権利なんて必要ないわ。私は好きな男が偽善者の塊でしかない天使の城に幽閉されているのが我慢できないの」
偽善の塊と言われて私は怒りが込み上げてくるのを感じた。
「怒っているの?私は事実を言っただけよ」
「・・・帰って」
私は必死に込み上げる怒りを抑えて帰るように促した。
ガブリエルは溜め息を吐くと椅子から立ち上がり背を向けた。
ドアまで行くと立ち止まり振り返った。
「今回は昔の友情に免じて引いて上げる。・・・・・・・だけど、次は飛天を頂くわ」
冷たい抑揚のない声で告げたガブリエルは二度と振り返らずに去って行った。
彼女が去ってから私は歯軋りをした。
どうして、あんな女にぼろ糞のように言われなければならないの?
彼女は飛天に何をしたの?
復讐の手助けをして彼を悪魔にした。
そして恋をしている。
どう考えても彼女に貶される筋合いはない。
思い直せば彼女だって飛天の憎むべき天使。
それなのに、何で彼女は飛天に嫌われていないのか。
飛天の手助けをしたからだ。
私はしていない。
復讐なんて空しいだけ。
仮に復讐を遂げても達成感は無く、死んだ者も返らない。
ただ、悲しさと空しさだけが残るだけだ。
復讐などせずに天に、神が裁く時を待てば良い。
新約聖書にも記されている。
『愛する者よ、自ら復讐するな、ただ神の怒りに任せまつれ。主いい給う。復讐するは我にあり、我これを報いん』
悪に対して悪で報いてはならず悪を行なった者に対する復讐は神がおこなう
こう記されているのに、ガブリエルは飛天の復讐に手を貸す。
どう考えても神の教えに反する。
私は復讐など止めて飛天を癒したい。
傷ついた飛天の心を大いなる愛の力で飛天を癒して幸せにして上げたい。
ガブリエルが行った事は神に反逆したばかりではなく飛天を不幸の道に歩ませるだけでしかない。
「飛天は渡さない」
ガブリエルに渡せば飛天を不幸にするだけだ。
それよりも、傷を癒して静かに余生を全うさせた方が幸せだ。
私は自分に言い聞かせるように心の中で言いながら書類に印を押し始めた。
昼食を取った後で私は、体調が悪いと言って執務を無理やり終えた。
それから何も食べたくないと言って寝室に閉じ籠り飛天のいる秘密の部屋へと向かった。
ガブリエルが素直に引き返したのが信用できなかったからだ。
秘密の部屋に行くと飛天は包帯を解いて筋肉トレーニングをしていた。
人差し指だけを使った指立て伏せをしている飛天に私は駆け寄った。
「まだ動いちゃ駄目よ!」
しかし、飛天はもう治ったと言ってトレーニングを続ける。
背中の傷は確かに塞がり多少の運動は問題ないように見えたが、私は強引に止めさせた。
「お願いだから、じっとして」
私は懇願した。
そうでもしないと彼は倒れるまで止めないと思ったから。
「いや。早い所、身体を戻して消えないと」
飛天の言葉に私は頭の中が真っ白になった。
「さっき、聞こえたんだが俺が居ると迷惑だろ?だから、早く身体を治して消える」
「そ、そんな迷惑なんて」
私は震える声で必死に言った。
「いや。出て行くよ」
まぁ、まだだけどと言う飛天。
私は焦った。
これではガブリエルが力づくで動く前に飛天は自分から出て行ってしまう。
「そんな顔をしないでくれ」
飛天は私の髪を少し乱暴だが撫でた。
「俺は、何れ出て行く事になっていたのさ。だから、悲しむ事はない」
「・・・・・・・・」
貴方は何れ出て行く事になっていたと言った。
私は何も言えなかった。
私がどんなに彼を止めようとしても彼は止まらない。
それを忘れていた。
どうすれば良いか?
考えに考え抜いたが何も良い案は思い付かなかった。
結局、何も思いつかず私は寝室に戻りベッドに身体を投げて悩み続けた。
何とかして飛天を私の傍に置いておきたい。
どうすれば良いか?
必死に考えても私は何も思いつかなかった。
その時、控えめにドアを叩く音がした。
「ラファエル様。お身体が悪い時に申し訳ございません。急用が・・・・・・・・・」
私はドアを開けて使用人を中に入れた。
「急用とは?」
「は、はい。実は、その魔界からの使者が来ております」
「魔界から?」
動揺したが表情には出さない。
使用人の声は小さく私も小さな声で返答する。
飛天に声を聞かれない為だ。
「一体どういう用なの?」
敵対関係の魔界から使者が来るなど、どういう事か?
部屋を出て廊下を歩きながら聞く。
「そ、それが、ラファエル様に会わないと話さないと言って・・・・・・・・・」
「使者は誰?」
「じ、地獄帝国総軍のバール王です。共にベリアルとアスタロス公爵が一緒です」
三人とも魔界で最高位のクラスだ。
「使者への対応は」
「きゃ、客室で茶を出して待たせています」
使用人は震えていた。
魔界でも上級クラスの悪魔が3人も来たのだから震えるのも理解できる。
バール王、アスタロス公爵は元地方の神、ベリアルは元主天使。
かつて飛天に一人で壊滅寸前まで追い詰められたが都も3人なら数分で壊滅させられるだろう。
『一体、何の用かしら?』
考えながら客室に足を進める。
客室に入ると3人が使用人から出された紅茶を飲んでいた。
「私が、ラファエルです」
3人は紅茶を置いて立ち上がると名乗り出した。
「地獄帝国総指揮官、バール王だ」
左側にいた壮年の風貌をした男性がバールと名乗ると真中にいた女性がアスタロスと名乗り一番端にいた青年がベリアルと名乗った。
「この度は遠路はるばる天界まで足を運んで下さり、ご苦労様です」
社交辞令として一礼してみせる。
「別に大した事ではない。我が王の子息を迎えに来るのに苦労など感じない」
バール王が言った王とは地獄帝国の現皇帝で飛天の父に当たる蝿王、バアル・ゼブルだ。
「貴方達の王である子息とはサタナエル殿の事ですか?」
呆けた答えを出すとバール王は鼻で笑った。
「あのような屑などではない。飛天夜叉王丸様だ。知らないとは言うまい」
自分の都を壊滅寸前まで追い詰めて彼を悪魔に仕立てた貴方なのだから、とバール王は金色の瞳で問うた。
「夜叉王丸様は、天界に近い土地で天使軍と戦い消息不明になったのではないですか?」
「消息不明ではなく暗殺されそうになったのです」
ベリアルが口を開いた。
「貴方も知っていると思いますが、夜叉王丸様は敵が多い方です」
飛天は人間から悪魔になった。
つまり純血ではなく混血だ。
だから魔界でも飛天を軽んずる悪魔は多く筆頭がサタンの息子で愚者と呼ばれているサタナエルだ。
私の予想は当たっていたようだ。
飛天の傷痕から推測すると背後から斬られた。
背後は仲間がいる筈だから、誰かが裏切ったのだろうと直ぐに理解できた。
「今回の戦でも夜叉王丸様を亡き者にしようとサタナエルが刺客を送りました」
「そして夜叉王丸様は消息を絶った」
「ご明察です。刺客は直ぐに夜叉王丸様の軍が八つ裂きにしました。捜索も試みたようですが、天界に近い事から断念ざる得なかった」
しかし、とベリアルは続ける。
「ある情報が来たのです」
夜叉王丸様はラファエル様の城に幽閉されていると。
私は直ぐに直感した。
『ガブリエルの仕業ね』
大人しく帰ったと思っていたが、魔界に情報を流すとは・・・・・・・・・・
「何処から来た情報か知りませんが、生憎と私の城には夜叉王丸様はおりません」
表情を変えずに平然と言い放ってみせた。
「そうですか?先ほど魔力を感じたのですが」
「知りませんね。第一もしも魔力を感じたら私が気付きます」
「・・・・・これは忠告として受け取ってもらいたい。夜叉王丸様を隠しているなら速やかに出して下さい。しかし、嘘を吐いたなら直ぐにでも報復手段に移ります」
バール王は温くなった紅茶を飲み干すと立ち上がった。
「今日は貴方の顔に免じて引き上げます。しかし、必ず夜叉王丸様は取り戻させて貰います」
3人の使者は城を後にした。
私は寝室に戻り飛天を止めるよりも先ずはどうやって3人を納得させるか悩んだ。
ガブリエルと言い、バール王たちと言い、どうして飛天を静かにしておいてくれないのかしら。
千一夜と書きながら、千話も書けるか分からない状態になってしまいました。(おいっ)




