9. 大義名分を手に入れた!
城、と一言で言えばそれで済んでしまうんだけど、間近で見るとそのスケールの大きさに驚くもの。
他国に国力を示す意味もあって立派に作ってるんだろね。
これほど大きな建造物は他にないから尚更そう感じるんだろうけど。
♧♧
砦のような城門にまで着いたところでパレードは終わり、と思ったらあたしとマヤはすぐ馬車から降ろされ慌ただしく世話役らしき人たちに手を引かれる。
お色直しして、次は晩餐会に出なきゃいけないみたい。
城に入り大広間を抜け、多くある部屋の一室に連れていかれる。
世話役に服を脱がされ赤いドレスに着せ替えられる。
1人でできるのにわざわざどうも。しかしこのドレス、すごく高価そう。やっぱりいいもの着てるのね。
隣の部屋からかマヤの断末魔が聞こえた。ほっといて大丈夫…よね。
「セリカ妃が着られるとより赤が映えますね。お似合いです。」
世話役にお世辞にも褒められた。
鏡を見て確認する。うん、お世辞じゃない。やっぱりあたしって似合っちゃうのよね。
ありがとう、と世話役に返事をしたとき、初めてまじまじと顔を見た。
地味めな服を着てたからわからなかったけどちゃんと見て気づいた。
稀に見る美人。村一番の美人とかじゃないレベルで。
「もしかしてナオト様は世話役の人まで選んでたりするの?」
あたしは冗談のつもりで言った。
世話役は伏し目がちにためらいながらも話し始めた。
「…いえ、実は、あたしも選考会で選ばれた妃だったんです」
「じゃあなんで…」
「ではなんで今は世話役なんてしているのか…ですね。結局はナオト様の寵愛を受け続けることができなかった。それが理由です」
「要するに飽きたからってこと?」
抑えられず語気を強めて訊く。
「飽きた…言葉を飾らなければそういうことだと思います。私以外にも同じ境遇の方がいらっしゃいます。みなさん、私と同じ理由だと思います…」
淡々と話す言葉を聞きながら、自分の髪が逆立っていくのを感じた。
「あまりこのようなことはお伝えしない方が良いと思いますが…なんでしょうね、まだ何か未練があるのかもしれません。でもナオト様の恩情で今もこうして側でお仕えさせていただいていますし、私は感謝の気持ちしかございません」
世話役は目を潤ませながら軽く指で涙をふいた。
ふつふつと湧き上がってくる感情を感じながら、あたしは世話役の肩にぽんと手を置いた。
「任せて。あたしがまとめて仇をとってあげるから」
世話役は何を言われたのかわからないって顔。
しかしナオト王子は女の敵。気に食わないと思ってたけど、これで大義名分ができた。
♧♧
そういえば肝心のスキルペインはどこに。
今の今まで忘れてた。あれがないとナオト王子をやっつけられないじゃない。
たしかパレード前の馬車に乗るときに取り上げられたんだった。
「あの、すみません。パレード前に持っていた、あの…剣なんですけど、どなたかに預けたままになっちゃってると思うんですけど」
「ええ。セリカ妃の私物はたしかにお預かりしてます」
「スキルぺ…、あの剣をここまで持っていただけませんか?」
「構いませんが、今ですか?もちろんご承知ではあると思いますが、晩餐会に持ち込むことはできませんけど…」
「いえ、あれは父の形見でして…。あたしの…今の晴れ姿を父に見せてあげたい…見せてあげられる気になりたいだけですけど…お願いできませんか?」
もちろん嘘。とっくの昔に家をでてるから父親なんて生きてるか死んでるかわからない。
「…わかりました。そういうことでしたら。少々お待ちください」
そう言って世話役は部屋から出て行った。
さっき仇をとってあげるなんて変なこと言っちゃったから変な気起こすんじゃないか疑われたな、これは。
しばらくして世話役が小さな剣を両手で持って部屋に戻ってきた。
スキルペインを受け取り、晩餐会まで1人にしてほしいと伝える。父に2人きりになりたいだの訳のわからないことを言って。
かしこまりました、時間になったらノックさせていただきますと言い、再び世話役は部屋から出て行った。
それを確認してあたしはさっき部屋にあった裁縫道具を取り出す。
堂々と持ち込めないなら隠して持ち込むまで。
ドレスを脱いで内側にスキルペインを縫い付けようとする。スキルペインならそんな長くないし重くないから大丈夫かなって思ったけど、ゆったりしたドレスで見た目に違和感はなさそう。
なんでそんなことするのか、まさか晩餐会の場でナオト王子を襲うつもりはない。
けど、チャンスがあるのであれば逃したくない。
それにそもそもこんな大それたことしたくない。
嫌に決まってる。王子に剣をぶっ刺すなんて。
妃として生きてくのも悪くなさそうだし。
でもあたしの命、自由がかかってる。その場の状況に流されないように。
わざわざこんなことをするのはそのため。
そうこうしてるうちにドアがノックされた。
まだ縫い付け作業は終わってない。あたしが反応しなかったからか、世話役が声をかけてくる。
入られてきたら困る。
あたしはまるで号泣してるかのような嗚咽混じりの声をあげた。
ドアの向こうに聞こえるように。
察してくれたのか、それ以来はそっとしてくれた。
たまに泣き声の演技を挟みつつ、なんとかドレスにスキルペインを縫い付けることができた。
ドレスを再び着て違和感がないか確認。大丈夫みたい。
涙を拭うフリをしながら部屋を出る。
世話役は不安そうな顔をしてドアの前に立っていた。
神妙な顔つきで静かにうなずき、では晩餐会へ参りましょう、と彼女の案内で晩餐会の会場へ向かった。