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5. ゴリラ女は妃になる夢を見る

あたしとマヤは広場へ向かった。

途中にたまたまあった武具屋に寄って、適当に剣の鞘を見繕ってもらった。

刀身丸出しで持ち歩けないしね。


意識してなかったからか、今まで見過ごしてたけど王都のそこら中に妃選考会の宣伝チラシが貼ってあった。

チラシのキャッチコピーにはこう書いてある。


『君が16人目のプリンセスだ!』


16人目ってなに?ナオト王子って既に15人も妃がいるってこと?



♧♧



チラシに書いていた申し込み受付がある広場に着く。

広場にはすでに特設会場が設置されてて、演劇用の舞台みたい。広くしっかりとしたステージに屋根までついてる。

周りには露店もあって明日はお祭りみたいな賑わいになるんだろう。


辺りを見回すと妙な長蛇の列を発見。

列に並んでいた人に訊いたらビンゴ。ここが選考会の受付場所。


マヤと一緒にあたしは長い列の最後尾に並ぶ。


しばらくして、待つイライラを紛らわすためにマヤに話しかける。


「しかし、すっごい人の数。ナオト王子ってそんな人気なの?」


「この国の英雄だからね。人気があるのはもちろんだけど、王族が庶民の中から妃を選ぶなんて他で聞いたことないよ。きっとみんなこの機会を逃さないように必死なんじゃないかな」


「人生一発逆転のチャンスってやつね。嫌いじゃないけどハイソってあたし、なんか苦手なのよねぇ…って全然前に進まないじゃない」


あとどれくらいか確認するため列の先頭の方を見ようとしても前に並んでるでかい人が邪魔で見えにくい。


でかいというか異常にでかい。

いや、でかいを通り越してる。

あたしの身長の2倍くらい。

横幅なんて3倍はあるんじゃない。

すぐにこの異常なでかさに気づかないあたしもなかなか異常。


「ねぇマヤ。前に並んでる人、でかすぎない?でかい通り越してめちゃくちゃでかくない?本当に列に並んでるの?この人。これ妃を選ぶんでしょ?女じゃないでしょ絶対」

マヤに小声で話したつもり…だった。


「あんたねぇ、聞こえてんのよ!」


振り返ったその顔にあたしは恐怖した。

まったくのゴリラ。

一応女だろうしオブラートに包んでサル。

やっぱゴリラ。怒ったゴリラ。

急いで言い逃れしないと。


「…ってマヤは言ってたけどあたしは全然そんなこと思ってないよ?」


「ええっ!僕はそんなこと言ってないよ!全部言ったのセリカじゃないか!」


マヤのばかっ!いくじなし!なんで否定すんのよ!

ゴリラがさらに怒りの形相で言う。


「あとハイソが苦手だのなんだの聞こえてたわよ!じゃあなんで並んでんのよ!あんたみたいな品のない女、妃になれるわけないじゃない!」


あったまきた。あんたにあたしの何がわかるってのよ。


「うるさい!ゴリラ女!」


「悪口のレベル低っ」

マヤが小声で言う。


我慢できずに言い返しちゃったあたしにゴリラ女は狼狽えながら叫ぶ。


「あ、あ、あ、あたいのどこが……ゴリラなのよ!」


ゴリラ女は腕を振り上げる。逆鱗に触れちゃったらしい。

あたしを殴るつもりだ。


たしかゴリラって人の7倍以上の腕力って聞いたことある。瞬時に理解した。あたし、このままじゃ死んじゃう。


体が反射的にスキルペインを鞘から抜いて、かざした。

防ごうと無意識に。


ガィン、と鈍く響く音が鳴った。


ゴリラ女の拳はあたしに届く手前で止まっていた。

まるで見えない透明の壁がそこにあるみたい。見たことがある。これはマヤの能力。


でも次の瞬間、ピシッと空間にヒビが入った。

あれ、これやばくない…?


「いったああああああい!」


ゴリラ女は大声で言いながら手を抱えてその場にうずくまる。

まさかそんなとこに透明の壁があるなんて思ってもなかっただろうしかなりのダメージのはず。

あたしも経験したからわかる。



♧♧



その場は騒ぎに気づいた衛兵たちに囲まれ事態は沈静化。

列に並び直した後もゴリラ女はこっちを睨んできたけど。

あたしはひと時もスキルペインの柄から手を離せなかった。


「奪った能力を使えるとは…破られそうになったのが気になるけど…でもあのゴリラの力が強すぎたって可能性も…」


マヤはさっきから後ろでぶつくさ独り言。並んでいる間、ずっとこんな調子。



♧♧



やっと列の先頭になった。

受付にある用紙に名前やら年齢やらアピールポイントやら記入してその場で提出するみたい。


事前に用紙を書けるようにしとけばこんな行列にはならなかったんじゃないのこれ。だからお役所仕事って言われんの。


自分の分を書いたあたしは続けてマヤの分を書き出した。

「セリカ、何をしてるの…?」


「マヤも出るのよ。少しでも王子に近づける可能性上げたほうがいいでしょ」


マヤはだんだん青ざめた顔になり、目に涙を浮かばせてあたしを見つめてる。


その眼差しは何かを訴えているよう。


「いや、そんな顔されても出場してもらうから」

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