4. とにかく使命ってやつをやります
「なんてことを…」
マヤは呻きながら声を振り絞る。
誰が好き好んでこの国の王子をやっつけにいくって言うのよ。
はるかにマヤをやっつける方が簡単。現にうまくいったし。
あたしの人生あたしのもの。
1秒たりとも他人の思うままなんて嫌。
前のめりに倒れ込んだマヤの体から白いもやみたいなのがスキルペインへ流れ込んでいく。
まさに何かを奪ってるっぽい。こんな代物があるなんて世界は広いのね。
でも、もう必要ない。
「じゃあ短い付き合いだったけど、バイバイ」
うずくまるマヤの隣を通り過ぎたとき、胸元に違和感を感じた。
見ると初めて見るアザのような模様。こんなのなかったのに。なにこれ。
少しの間に違和感から異変に変わる。
苦しい。汗が吹き出し、息苦しくなっていくとともに強烈な圧迫感と焦燥感。
「かっ…はっ……」
声にならない声。視界が暗くなってきた。
やばい。なんなのこれ。あたしがなにしたってのよ。
逆らったから?なにに?
罰なの?なんの?
意識が遠のいていく中で答えの出ない自問自答。
時間がゆっくり流れていく。
♧♧
目を覚ますと天井が見えた。大の字になって気絶していたみたい。
そばには地べたに腰をおろしているマヤがいた。既視感。
「…あたしは1日で何回気を失えばいいのよ」
「今回のは反逆行為に対する警告。2回目はないと思っておいた方がいいよ。ちなみにその胸の模様は使命を果たさない限り消えない。アザは時間とともにどんどん広がっていく。セリカにどのくらいの時間が残されているのかはわからない危険な状態だよ。僕と同じでね」
マヤはシャツの上のボタンをいくつか外してあたしに胸元を見せつけた。
そこにはあたしと同じようなアザ。
厄介なんてもんじゃない。思わず頭を抱えた。
「何者なのよ。あたしをこんな目にあわせる奴は」
「僕もわからないよ。神なのか。それとも別の存在なのか…」
マヤは口元に手を添えて考え込む仕草をする。
こいつ、なんか話し方変わった?
「で、あんな目にあわされて気絶してたあたしにあんたは何もせずただ見てたってわけ?」
あたしの視線の先にあったスキルペインをマヤは手に取りながら言う。
「僕のスキルの一切はこのスキルペインに奪われてしまったからね。正直腹立たしい。でも僕もセリカと一緒で使命を果たさなければならない。運命共同体だ。仕返したって何にもならないし」
「あんた、見た目の割に大人の考えね」
「僕もセリカと同じ転生者だよ」
こいつも転生者なんだ、あたしと同じ使命を課せられた。
「とりあえずここをでなきゃ。明日なんでしょ、選考会。とりあえず動かなきゃ。あんたも付いてきなさい」
「あんたじゃない。マヤ・クリスエスだよ」
「はいはい、マヤちゃんね」
「ちゃんはいらない!」
とにかく今は使命ってやつをやるって心に決めた。
いつかこんな目にあわせた奴に何倍にしてやり返してやるために。