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2. 偉そうなガキ(使者)には痛い目にあってもらいましょ

そいつはまっすぐこっちに近づいて目の前まで来て、両手で強くテーブルを叩きながら言った。


「何してる。お前にはやるべきことがあるだろ」


目が合ってるのはあたし。

男に恨みを買ってきたとはいえ、さすがにこんな声変わりもしていないようなガキに貢がせた覚えはない。


「あたし?」


ガキはうなずきもせず見つめてくるだけ。

おっさんも取り巻きも店中のみんなもガキからあたしに視線を移して見つめてくる。まるで真実を問いただすように。

いや、本当に心当たりないんだけど。


「嫌でも思い出させてやる」


ガキがあたしに手のひらを向ける。

手からほのかに青白い光が見えた。


「えっ、それな…」

言い終わる前にまばゆい光が目の前を覆った。


その瞬間、思い出した。前世の記憶ってやつ。



♧♧



「きゃああああああ!」


あたしの声が店中に響き渡る。意図的に叫んでやった。

おそらくさっきの光で危害を加えられたってことはないと思うんだけど、こいつはあたしにとって望ましくない奴なのは間違いない。


「お前!何しやがる!」

おっさんはそう言うと立ち上がり、勢いよくガキの胸ぐらを掴もうとする。


ガキは微塵も焦るそぶりを見せず、おっさんに手を向ける。その動きはスムーズで、気品さを兼ね備えていた。


手のひらから光が見えたその時、吹っ飛んで窓を突き破り外に放り出されるおっさん。


唖然とするおっさんの仲間とあたし。

ここまでの体格差を無視して一方的にやっつけられるなんて反則じゃない。


あたしは咄嗟にガキに向けてテーブルを蹴り上げた。意表を突かれたような顔が見えた。

もちろんテーブルくらいでどうにかなるとは思っていない。ほんの少しでも時間を稼ぐため。


あたしは身を低くしながら脇をすり抜けて店の出入り口を目指す。とにかくこいつから逃れないと。


「ぺげっ!」


いままで生きてきて出したことがない声が出た。

説明が難しい。ただ、出入り口に目に見えない分厚い壁のようなものがあった。


不意を突かれた分、勢いよく顔面から思いっきり突っ込んだ衝撃で気を失ってしまった。



♧♧



気がつくとあたしは床に仰向けに倒れていた。

近くのテーブルの上に座ってあたしの顔を覗き込むガキ。

店内を見回すと客も店員も1人もいない、2人きり。


「契約履行の時だ。使命を全うしてもらう」



♧♧



「てかだれ、あんた」


見下した視線を外さずにあたしの言葉を無視する。


「名前を訊いてんのよ。な・ま・え!」


「名前は…マヤ・クリスエス」


「で、あたしに何をさせる気?」


マヤとかいうガキはポケットからメモらしき紙を取り出して見ながら言う。

「まずは…そうだな。ナオト・ギムレットから力を奪う」


「ナオ…、えっ、何言ってんの…?」


この国のこととか疎いあたしでも知ってる。

ナオト・ギムレットはこの国、パノティア王国の第8王子。


第8王子でありながら王位継承権第1位。

数年前の隣国との戦争の時に大活躍して次期国王の座にまで登りつめたって噂を聞いた。


「力を奪うってどういうこと?」


「これを使え」

マヤはそう言いながら1本の剣を取り出した。

その剣は剣というには短い気がしてダガーというには長いような気がした。


「この剣はスキルペイン。これはお前にしか扱えない剣だ」

剣を放るように渡される。手に取ってみると見た目より重さを感じない。


「なにすれば良いの?チャンバラでもしろってわけ?」


「対象の心臓に剣を突き立てろ。あとはその剣がやってくれる」


「簡単に言ってくれて…そんなことしたらあたし、大罪人になっちゃうじゃない!」


「どうやってナオト・ギムレットに接触するかだが…」

こいつ、あたしの話を聞いてない。

淡々と顔の表情を変えずに話を続ける。


「お前には明日開催される第8王子妃選考会に出てもらう」


「ちょっとまって…頭が混乱してきた」


あたしは頭を抱えて深いため息をついた。

混乱を通り越して頭が痛くなってきた。あと吐き気も。


「あと大罪人の件だが、スキルペインは命までは奪わない。国家反逆の大罪人には変わりないとは思うが」


「だから…!」


「だから俺がいる。残念ながらお前のサポート役だ。さっき力を見ただろ?あれは本来、防御特化型だが、使い方によってはさっきのような芸当もできる。ナオト・ギムレットが相手ならわからないが、有象無象なら問題ない」



♧♧



「とにかくお前にはやらなければならないことが山ほどある。まずは明日の選考会だ。ついてこい」


「あんたさっきからお前お前って、あたしはセリカって名前があんの」


マヤはあたしに背を見せて歩きだしながら言う。

「知っている。早くこい」


そう言った直後、立ち止まってあたしに向かって振り返った。

その表情は驚きと怒りと何かが入り混じっている。


スキルペインによってマヤの身体が貫かれたから。

あたしは笑顔で言ってやった。

「これでいいんだっけ?」

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