1. おっさんの話よりは面白い物語の始まり
あたしの横におっさんが座ってる。
おっさんだけど体は屈強。
冒険者らしく、あちこちキズ跡だらけで腕はあたしのウエストぐらい。
身につけた鎧は使い込まれて元の色がわからないくらいにくすんでる。
おっさんは酒や料理を次々と頼んで、聞いてもないのに最近とれたての武勇伝を話してる。
つまんない。頬杖ついて適当に相づちを打ちながら、目の前の料理をつまむ。
おっさんとは知り合ったばかり。
後から店に入ってきたこのおっさんと取り巻きがえらく騒がしくて、文句言いにいったら妙に気に入られて今の状況に。
あたしのみてくれのおかげかな。
♧♧
あたしの名前はセリカ・ビスタ、18歳。
出身はここからすごく離れた村。何にもないただの村。
田舎すぎて、村の名前なんて言っても知らない人ばかりだから言わない。
田舎の村なんてほとんど自給自足であたしの家もそう。
小さい頃は土いじりや手伝いばっかり。周りの家の子もそんな感じ。王都にあるような学園に通う子なんていなかった。田舎には学園自体なかったし。
でも読み書きはできる。村にある教会で子供を集めて教えていたから。教養がないことは悲しいことだって神父が言ってたっけ。
うちの親は必要って感じてなかったみたいだから行かせてくれなかった。泣く演技までしてなんとか親を説得。
四六時中手伝いなんて気が滅入るでしょ。こう振り返ると宗教も悪いもんじゃないかもね。
神に祈るってもんが理解できないけど。
物心ついた頃、遠縁の親戚夫婦に預けられた。要は口減らし。
家は貧しかったし今では仕方ないとは思う。
でも当時のあたしは捨てられたんだってすごく悲しかった。たぶんあの頃はまだ親に、他人に期待する心はあったんだなって。
だから裏切られた気持ちになった。
預けられた先には子供がいなかった。
実の親とは違って甘えられた。特別扱いしてくれることが嬉しかった。
しばらくはおとなしいいい子を演じてたけど慣れちゃったのかな。やりたい放題するようになっちゃった。
物やお金をしょっちゅうせびり、家からお金を盗んだり、物を勝手に売ったりもした。
手に負えなくなった親戚夫婦から家から出て行くように言われたのが15のとき。
でも故郷に帰るなんて、そんな選択肢なかった。
それからあちこち転々とした。頼るものはなかったし、危ない目にもあった。
でも幸いなことに見た目抜群のあたし。自分で言うのもあれだけど天性の才能かも。行く先々の男から貢いでもらった。
でも人のものになるなんて勘弁。頃合いを見ていつも逃げ出してきた。男たちから言えば騙されたとか、たぶらかされたとか思ってるかもしれない。
あたしを自分のものにできると勘違いして勝手にしてきたことなのにね。
そんなことばかりしてたら恨みやら妬みやら買って流れ着いたのがここってわけ。
♧♧
おっさんの話が佳境に入ったみたい。飛ばすつばの量が増えた。おっさんの仲間たちも熱が入ってる。
ていうか話の中でおっさん何回死にかけてるんだよ、しぶとすぎ、とか思ってた。
その時、店の出入り口からすごい大きい音。扉を思いっきり強く開けた音。
店中の人間が何事かと黙り、おっさんも話を止めてそちらを見る。
子供の姿が見えた。
質の良さげなジャケットに半ズボン。服装から思うに男の子なんだろうけど色白で中性的な整った顔立ち。品がある感じで貴族みたい。
先に言っちゃうとこいつはあたしに運命を知らせにきた使者ってとこ。
でも運命じゃなくて宿命って言ったらいいかな。
運命は選択次第でどうにかできるって思ってるけど宿命は逃れられないもの。
これがあたしの物語の始まり。時間あるなら聞いてけばいいよ。おっさんの話よりは面白いから。