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031  作者: Nora_
3/9

03

 案の定というかなんというか茂木先輩は蓮花を優先している。

 私がこの人だって決めた人は絶対に振り向いてもらえない運命のように。

 おまけに長谷川くん及び三月からはどうすれば上手くいくかと相談されてるしなんのために友達やっているんだろうとすら思うんだけど。


「ただいま」

「おかえり。あれ、蓮花ちゃんはどうした?」

「まだ学校。お父さんこそ最近早くない?」

「最近はあまり忙しくなくね――あ! だからって心配しないでくれよ? リストラの憂き目に遭いそうとかそういうのじゃないから」

「そっか、ならいいんだけど」


「ってことはそういうことだと思われてたんだね」と呟いているお父さんをスルーしユキ君を愛でる。


「相変わらず君は鳴かないね」


 ゴロゴロと喉を鳴らしてくれていることから嫌われてはないだろうけど。


「ただいま!」

「やあ、おかえり蓮花ちゃん」

「あ、い、いつもお世話になっています」


 茂木先輩の前でもこんな感じなのだろうか。

 あんまり興味はないけどなんというか蚊帳の外というか。

 結局私は一度も呼ばれてない、それともまた私が勝手に線を引いてるだけ?

 ……分からないから現状維持だ、切り替えが早いと言っても傷つかないわけではないしね。


「いいんだよ気を遣わなくても。おやつ食べるかい?」

「あ、ああ……あ、はい」

「敬語もいいよ、それといつも通り話してくれればいい」

「あ、ありがとな」

「ああ」


 自室で制服から着替えつつ考える。

 自分は引き立て役にすらなれないってことを。

 いつだって自分と関係ないところで話が進んで、知るのは常に後からで。

 片付けるのが早いと言ったって、それは悩んだところでもうどうしようもないことだらけだからだ。

 自分がそうしたいんじゃなくてそうせざるをえない状況に追い込まれているだけ。

 強さなんてない、好きな人のために少しでも動くことすらできない弱者が私だった。


「瑠依、なんで今日は先に帰ったんだ?」

「なんでって蓮花は茂木先輩に呼ばれてたでしょ?」

「俺だけじゃないぞ? ちゃんと瑠依にだって――」

「いいから、気にせず楽しみなよ」


 次だ、茂木先輩が駄目なら他の子を探せばいい。

 楽な点は別に恋愛感情を抱いていたわけではないということだ。

 というかもう面倒くさい、誰かに選ばれるために努力しようと考えるだけで。

 三月と長谷川くんを見てると尚更そう思う。

 せっかく付き合ったっていつだって終わりへと繋がる紐も身近なところにあるんだ。


「ほら、お菓子を持ってきたよふたりとも」

「ありがとね。でも、私はちょっと外出てくるから」

「そうなのかい? あまり遅くにならないようにするんだよ?」

「うん、大丈夫。行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 貯めに貯めた三万円くらいあるお小遣いをぱーっと使って楽しむのもいいかもしれない。

 高校生になったらしたかった寄り道してなにか食べて帰るのもありかも。


「なにやってんだろ……」


 自宅と学校の中間地点辺りで立ち止まったらつい気持ちが漏れ出た。


「瑠依、あんたなにやってんの?」

「あれ、三月こそなにやってるの?」


 長谷川くんは野球部に入っているのだから応援とかしてあげればいいのに。


「ちょっとそこに座って話さない?」

「公園? というか、私のことが嫌いだったんじゃないの?」

「……無理ならいいわ」


 彼女は右手で左肘を掴んで俯いていた。

 ざまあみろと言ってた時もそうだったけどなんでこんなにスッキリしない顔をしているんだろう。

 好きな人と付き合えても苦い思いしかしないのかな。


「別にいいけど、気の利いたこととか言えないよ?」

「いいわよそんなの」

「分かった、じゃあ行こうか」


 中学二年生から付き合いはじめたということは三年目? いつ頃から付き合ったのか分からないからなんとも言えないけど。


「ほら」

「ありがと」


 キャップを開けて少しだけ飲むと甘さが口内に広がった。

 いまのこの苦い思いを中和してくれるくらいの勢いはあったけど当然そんなのでスッキリさせることができたらみんな悩まないよねって感じであまり意味はなかった。


「あんた、榛樹のことまだ好きなの?」

「そんなの意味ないじゃん、長谷川くんは三月の彼氏さんなんだから」


 第一、そんなこと気にしてる人がざまあみろとか嫌いとか言わないと思うけど。


「あのさ、名前呼びしてない時点で分からない?」

「名前呼びくらい付き合ってなくてもするでしょ? あんただって私のことや蓮花のこと、名前で呼んでいるじゃない」


 そういえば親戚だからってなんで名前で呼んでるんだろう、なんで三月のこと呼び捨てをしているんだろう、実際は全然仲良くなかったのになにを調子に乗っていたんだか。


「……こんな話、どうでもいいわよね。私が言いたいのは……付き合い続けたいのか別れたいのか、どっちなのか分からないってことなのよ」

「付き合い続けてよ、このままだと私は惨めな人間で終わっちゃうし」

「あんたのためにこのモヤモヤと付き合っていかなければならないの?」

「そうだよ? だって振られた理由は三月と付き合ってるからってことだったけどさ、それがなくても私、断られていたと思うんだよね。けど、三月と付き合っているということなら諦めもつくわけ。だから付き合い続けてよ、それで三月が苦しい思いをしたって興味ないもん」


 結局のところ彼女が選択をするのなら迷惑をかけることもない。

 私はしっかりこのまま片付けられて、彼女達は多少モヤモヤと戦わなければならなくなるかもしれないけど悪いことばかりではないはずだ。

 どうせ過ごしてればやっぱり大切だって気づく、そうでなければ一年だって続かないだろう。


「あんたって、私のこと嫌いよね」

「そんなことないよ、嫌いならこうして話してないよ。私はね、三月くらいはっきりしてくれる人が好きなの、なにを考えているのか分からない人は全然駄目。長谷川くんはきちんと『三月と付き合ってるから』って言ってくれたよ、なにをそんな不安がってるの?」

「これは不安というか……」


 五月の中盤――ということは中間テストの時期。

 その時は例えどんな部活大好きお馬鹿さんであったとしても活動することはできないわけで。


「じゃあさ、一緒にテスト勉強をしようよ、図書室でも図書館でも三月の家でもどこでもいいからさ」

「あんたも……来なさいよ」

「私? せっかくふたりきりになれるチャンスなのに?」


 そこまで空気の読めない人間じゃないんだけどなあ。

 一緒にいてもこんな理解度か、仲がいいと思っていたのはやはり私だけか。

 常に三人でいたというわけではないけどそれなりに共にしてきたはずなのに。 


「ふたりきりになっても会話だってぎこちないし……榛樹も変に遠慮するからさ」

「それってさ、三月がそんな態度だからなんじゃないの? そりゃ不安になるよ、急にぎこちなくなったりしたら。――ここだけの話だけどね、もう駄目かもしれないとまで長谷川くん言ってたんだよ?」

「榛樹が……?」


 だから私も焦ってるんだ。

 興味がないとか言いながらふたりをなんとかしたいと。

 なにをしたって自分が報われるわけでもないのに、はっきり言って無駄なのに。


「なんとかしないと私が取っちゃ――」

「駄目! あ……」

「ははは、それくらいでいいんだよ、そうじゃないと困るもん」


 なんでこんな馬鹿なこと言ってるんだろう。

 最近の私はなにがしたいんだ? なんでメリットもないことをしようとしている?


「ね、三月はいつからあの人のこと好きだったの?」

「小学一年生から」

「なら言ってくれれば良かったのに」


 そういうことを言えないくらい信用していなかったということか。


「とにかくテスト勉強ね」

「蓮花も呼んでくれる?」

「そうだね、言っておくよ」


 茂木先輩が来てくれればもっと楽になるか。

 年上の人がいるだけでぎこちなさというのもなくなるかもしれない。


「ごめん、嫌いとか言って」

「別にいいよ」


 謝ったところで嫌いなのは変わらないんだから。




「来たわよ」

「ありがとうございます」


 遅くまで残っても問題ないように金曜日を選んだ。

 場所も同じようにしっかり考えて三月の家のリビングを選択。

 問題なく長谷川くんも茂木先輩も蓮花も目当ての人がここに集まっている。


「蓮花は勉強大丈夫なの?」

「い、いや……雫に教えてもらおうかと思ってな」

「いいわよ、教えてあげる」


 蓮花は茂木先輩と。


「み、三月、一緒にやらないか?」

「そ、そうね、せっかく集まったんだからやるわ」

「おう」


 三月は頑張って彼と。

 ひとり外れた私は黙々と自分のそれと向き合う。

 別にひとりだからって帰るなんてことはしない。

 発案者は私なのだから最後まで残るのが筋というものだろう。


「中野」

「うん?」

「なんでいるんだ?」


 なんでって言われても理由を伝えることなんてできないでしょ。

 けれどまるで邪魔者みたいな言い方は流石に堪えた。


「あーお菓子でも買ってこようか?」

「別にあるわよ家に、休憩時間に食べればいいじゃない」


 ここは空気を読んでそのまま出してほしかったな。


「あ! 別に邪魔とかって思ったわけじゃないぞ?」

「どうでもいいよそんなこと、ふたりはとにかく仲良くしてよ」

「あんた、やっぱり気にしてるんじゃないの?」


 振られて気にならない人なんているの?

 違うか、発案者だからいるのが筋とか言って仲間外れにされたくなかっただけなのか。

 ひとりになるのを恐れていたんだ、でも、いることでも苦しいだけなら、


「今日は帰るね、頑張って」

「あ、おい中野っ」

「なに?」


 死体撃ちはやめていただきたい。

 そういえば私、中学生時代の時まともに彼と話をしていなかった。

 なんでだっけ、あ、なんか恥ずかしいとか相応しくなるまで距離を置くとかそんな馬鹿なことをやっていたからか。

 動けなかった私と勇気を出して踏み込もうとした三月。

 そもそも勝負をできる立場にもいなかった。

 選ばれるとか選ばれないとかって次元ではないということを今更分かるなんてと内心で苦笑する。


「……いや、やっぱりなんでもない。気をつけろよ」

「うん、そっちも帰る時は気をつけて」


 家に帰る気にもならなくてこの前の公園で時間をつぶす。


「ふぅ」

「あなたらしくないわね」

「私らしくないって言うけど、茂木先輩は私のこと知らないじゃないですか」


 ベタに「も、茂木先輩!? どうしてここに……」なんて驚く可愛さはない。


「あのふたりと喧嘩でもしたの?」

「いえ、好きだった人が友達の恋人だったというだけです」


 喧嘩は仲良くなければできない。

 思えば三月や長谷川くんと衝突したことなんてなかった。

 

「蓮花といないのは? 私が誘っても来ないのは?」

「私、茂木先輩から誘われたことなんてありませんけど」

「そういうことね、拗ねているということかしら?」


 少しだけ体を動かすとギキィと悲しそうな音を響かせた。

 もしここにユキ君がいたのなら音が鳴るということに興味を示して移動及びストップを繰り返すことだろう。


「蓮花の勉強、教えてあげてくださいよ」

「あなたはいいの?」

「私ですか? いいんですよ、自分ひとりでできますから。今回のそれだってあのふたりが仲良くできるように仕組んだことだったんです。状況の分かっていないあの人にとってはなんで三月の家にこんな集まってるんだって不思議に思ったでしょうけど」


 それかもしくは自力で彼女を誘ってふたりきりになりたかったのか。

 もしそうだとしたら「なんでいるんだ?」って聞かれてもおかしくない。


「あなたは強いのね、ひとりでも大丈夫だなんて」

「どれだけの人と一緒に勉強をやったところで本番にはひとりじゃないですか、だからその練習ですよ」

「分かったわ、戻るわね。あなたも早く家に帰りなさい」

「はい」


 段々と遠くなっていく彼女の背をぼけっと眺めた。


「なんか面倒くさいなあ」


 人間関係に面倒くささを感じてしまうともう終わりみたいなものだ。

 仲良くしたい人間とだけ仲良くしておけばいい。


「ぷはぁ、あ、あれ、ここどこですかね……あ、学校近くの公園ですね!」


 急に現れたよく分からない女の子。

 彼女はキョロキョロと辺りを見回していたけどブランコに腰掛けている私の方に近づいて来た。


「あなた!」

「うん」

「友達がいなさそうですね!」


 お辞儀をしてから公園をあとにする。


「待ってくださいよっ、なんで無視するんですか! あ、まさか図星だったってことですか? ぷふふ、まだ五月ですよ?」

「あなたも一年生?」

「はいっ。私、あなたのこと知ってますよっ、中野瑠依さんですよね!」

「うん」


 そんな無益な情報を得てもなにも意味ないけど。


「気になる人を友達に取られる気分ってどうですか?」

「うーん、驚いたかな」

「なのにその人たちから上手くいかないって相談されるのはどんな気分ですか?」

「うーん、そんなの上手くやれよ、贅沢なんだよって感じかな」

「うっはっ、不満溜めてますねー」


 私からすればなんでもかんでも知ってるこの子が気持ち悪くて仕方ないけども。


「ムカつかないですか? そういう感情、発散させたくないですか?」

「発散させたいって言ったらどうするの?」

「そうですねー、ムカつく相手をぶっころ――溜まり溜まった気持ちを代行でぶつけちゃいますよー」

「あーそういうのいいんで、それじゃあね」


 もしやるなら自分の口でしっかりと言う。

 三月、長谷川さん、蓮花、茂木先輩。

 別に恨みなんて全然ないけど、そこまでクソな人間でもないしね。

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