9-4
後日、要加筆対象。
書いたけど、なんか上手く表現出来てない気がして…
テヤンの思考が魔物思考強すぎて、作者も完全に理解はできてない。
時が一日、一日と過ぎ、半月が過ぎたその日、突然そいつは現れた。
「なんじゃ?そちら、ここに居つくつもりか?」
洞窟内へと差し込む日の光を背にし、濃紫の目立つワンピースを身につけたその姿は見ればすぐ気がつくはずなのに、俺は声をかけられるまでその気配に全く気がつかなった。
藤色のベリーショートにペリドットの瞳。
服装が違うだけであの王宮で見たのと全く同じ姿をしたターニャが、愉快そうに口元を歪め、笑っている。
「……いや、」
「ターニャッ!」
なんとなく居心地悪くなった俺とは違い、俺の膝の上にいたシレーヌは再会を純粋に喜ぶように、満面の笑みを浮かべている。
「おおっ、シレーヌは快い出迎えをしてくれて嬉しいのぉ。狼の子とは大違いじゃ。」
そんな言葉を口にし、嫌味っぽく俺をジッと見てくる視線。
それを正面から受け止め、ため息を吐く。
「…なんの用だ。」
「なんの用とは随分じゃのう。行方知れずの旅の友を、妾直々に探しに来てやったのに。」
その言葉に俺も、シレーヌもそれぞれ何も言えずに押し黙る。
触れられたくない話題。
そんな言葉がぴったりなくらい、互いに旅のこととその後のことを話そうとはしなかった。
俯いて、上から見えなくなってしまったシレーヌの顔の代わりに、つむじをジッと見つめてみる。
「…まぁ、そちらがここに住むにしろ、旅に戻るにしろ、どちらでも良いがの?この地には珍しい雪なき日じゃ、散歩でもどうだ?」
急に何を言い出すのかと、2人して顔を上げれば、ターニャはそんな俺らに向かって自信満々の子供のような、キラキラした笑顔を見せる。
「どうせまだ、村の跡地にも湖にも、行っておらんのじゃろう?」
ターニャのその言葉に、俺は目を見開いた。
***
日が射したこの真っ白な森は、いたるところに真珠を散りばめたようにキラキラとした光を纏っていた。
歩くたび、ザクッ、ザクッと雪に刻む音が、なんとも新鮮で面白い。
道もない、足跡もない、そんな道のない森をターニャに先導され、テヤンに手を引かれ進んでいくのは、未知の世界に迷い込んだようなワクワクと不安の入り混じった高揚感がある。
-そういえば始めて大陸に上がった時も、こんな気持ちだったなぁ…
まだそれほど昔でもないことなのに、妙に懐かしい気持ちになる。
洞穴に篭りっきりだった私にとって久々の運動となった"散歩"が、心地よい徒労感をもたらした頃、目的地である今までの地面より小高くなった丘に着いたようだった。
「変わっとらんのぉ〜」
ターニャの染み入るような感嘆を耳に、目の前の景色に言葉を失う。
小さな村跡だ。
真っ黒になった小さな家の残骸。
それが4軒だけ、ポツポツと残っている。
もう長いこと、他の生き物も立ち入らなかったのであろう。
私たち3人以外、何者の気配を感じることのないこの場所は、まるでそこだけ世界から忘れ去られたように、何もないガランとした土地に見えた。
「…テヤン、これって……」
「狼牙族の集落の跡地。」
なんの感慨も感じさせないその声とは反対に、私の心はざわざわと不安が募り始める。
「…なんで雪に埋まってないんだ?」
「…さぁ、なぜであろうなぁ〜?」
テヤンの淡々とした声と、ターニャの戯けた声、それを耳にしながら、意識は無残な惨状の焼け跡を残したままとなったそこから切り離すことができない。
-なぜ、テヤンの故郷はこんなことに…
答えを求めるように傍にある温もりに視線を向ければ、陽の光でキラリと光る琥珀色の瞳とかち合った。
「俺が物心つく以前にここは燃えている。」
「………燃えて…い、る?」
「当時の種族間、部族間であった小競り合いだろう。」
なんてことない事実のように、同じ種族の悲しい出来事を口にするテヤン。
「悲しく…ないの?」
思ったことがそのまま口から出てしまった。
そのままハッとした表情を出してしまった私に、テヤンは困ったように目尻を少しだけ下げる。
「それは妾も気になるところじゃの〜?」
些か無神経とも取れるターニャの発言にも、テヤンは気にした様子はなく、無言で私たち2人に座るように促した。
おずおずと座った雪の上。
お尻に感じる冷たい感覚が、落ち着かない気持ちを少しだけ和らげる。
「俺は…物心ついた時にはあの洞穴に住み、ひとりで生きていた。」
予想外のテヤンの言葉に、言っていいものかと視線を彷徨わせたのち、ゆっくりと口を開く。
「…村でのこととか家族のことは覚えてないの?」
「断片では覚えてる。よく俺の怪我を薬を塗ってくれたお婆さん。誰かと囲んだご飯。村の中心で行われる焚き火。…そして、そんな村にいるのが居心地悪くて、いつもあの洞穴にひとり逃げ出していたこと…
全部がぼんやりとした幼い記憶で、懐かしいとか悲しいとか、そういうのから遠い記憶なんだ。ただ、そこにあったという"事実"が存在しているだけ…
だから、狼牙の集落を襲ったのが人間だと知った時も、俺は何も思わなかった。」
「えっ……」
「………」
衝撃的な事実。
それさえもなんの感情もなく語るテヤン。
複雑な感情が渦巻く私同様に、ターニャも珍しくテヤンの最後の一言には険しい表情を浮かべる。
「…狼の子よ、なぜ何も思わんのだ?そちからしたら、人間はいわば仇であろう?」
「その事実を知る前に、俺はアベルという人間を知ってしまってたからな。それに、例えどんな形であれ、戦いに負けた方が命を取られるのは自然では当たり前のことだ。」
-…なんて声をかけたらいいのだろう?
戸惑い。
そんな困惑の感情が今、1番強い気がする。
テヤンはたぶん、本当に自分の故郷であった村のことを気にしていない。
それなのに私が勝手に悲しむのは、憤るのは違う気がする。
だけど、だからといってそれでいいというのも違う気がして…
「どうした?」
何も言えず、ただ隣に座るテヤンに抱きついた。
自分から触れることをあまりしない私からの突然の抱擁に、テヤンは驚いた様子もなく、ただ優しい声で訊ねる。
…返事は、できなかった。
何か言えば勝手に泣き出して、彼を困らせてしまうから。
ずっとひとりで生きてきた貴方を思い、どんなに寂しかったかと、勝手に昔の自分と重ねているなんて…
テヤンがこの地でひとり生きてきたことは、憐れんでいいことでは決してないのに。
わかっているのに、孤独であった幼い彼を、思わずにはいられないのだ。
例え、彼が気にしなくとも…
「…種族で群れをなして住む我らのような種族には理解できない感覚なのであろうな。」
ターニャのいつもより真剣みを感じるその言葉に納得しながら、何も言えずただもう大人になってしまったテヤンをギュッと強く抱きしめる。
「…だから、俺は何も気にしてない。ここは俺の生まれた場所で、俺の故郷はこの森、ただそれだけだ。だから…シレーヌも気にしなくていい。」
-そんなわけ、いかないわよ…
言えるわけのない、言ってはいけない言葉を心にギュッと押し込めながら、私は気が済むまで大事な人を、強く強く、抱きしめ続けた。
結局、私はそのままテヤンにしがみつき続け、湖はまた後日見に行こうという話になった。
そのことに申し訳なさを覚えつつも、心の中でホッとしている気持ちが大きかった。
今は正直、現実から逃げたい自分がいる。
勝手にテヤンの過去に悲しく、憤る気持ちを覚え、平静さを失っていたとはいえ、それに重ねるように儀式に関係する湖に行くのは精神的に辛かった。
だけど、やはり現実は逃してくれないのだと、嫌でも理解することとなった。
次の日の朝、
アベルがもう1人見たことのある人物を連れてこの森へとやってきた。
一応、改稿リニューアル版はここで終了。
次の章から新規連載話となります。




