9-1
この章、本当に難産でした。泣
展開が前と少し変わってます。
ご了承ください。
さぁ、役者は揃った。
舞台の幕を上げようじゃないか。
何年もかけて準備した、この世界の大舞台。
運命の歯車はとうに狂い始めている。
その背に幾つもの役割を抱え、それぞれの目的のために役者は舞台に上がる。
たったひとつを探し求める者、
己の意味を追い求める者、
大切な者の復讐に燃える者、
この世界の唯一を欲する者、
そして、ただ何もなく、流離う者…
その結末を握るのはただ1人。
その結末を目にするのは果たして…
すべてはここからはじまり、ここからすべてが終わるのだ。
これは、この世界が迎える、
終焉のはじまり。
"Procursator"
私は、この狂った世界に崩壊を与えよう。
***
すぅーっと自然と吸い込んだ冷えた空気が、肺いっぱいにその温度を伝えてくる。
それはみるみるうちに体の細部へと伝わり、己の倒れる地がとても冷え切った場所なのだと伝えていた。
揺蕩うように眠りという湖面に浮かび微睡み、そこからなかなか進みたがらない意識を半端強引に引きずり出す。
まだ寝たいと重圧を課してくる瞼を開けば、天から降る白が花のように舞っていた。
そのひとかけらが俺の頬に落ち、そっと肌の熱で姿を溶かして消えていく。
自分よりずっと先に伸びる縦長な木も、それよりもさらに高くそびえる岩の壁さえも、白い。
ゆっくりと体を起こした。
何不自由なく動く自身の体に漠然と思う。
懐かしかったのか。
だから、この思い出の土地で寝てたかったのか、と。
軽く握った掌は土よりも柔らかく、それでいて心地よい冷たい感触。
それを上へと向ければ、そこにあったはずの白はまた僅かな時間をかけ、消えようとする。
その美しさをこの手に留めておくことは難しい。
雪に閉ざされた純白の森。
人々はここを北の森と、凍える森と、
忘れられた白き大地と様々に呼ぶ。
10年前、ここを発ってから1度も訪れなかった俺の故郷。
そこは美しい雪に閉ざされた、白銀の世界。
この地には普段音がない。
大地を包み込む白い雪に音が吸い込まれるのか、はたまたこの地で生きる生き物たちが一様に息を潜めているのか。
しかし、その事実に気がついたのはアベルと共に音の溢れかえる人里へと降りた後だった。
唯一空気を激しく震わせるのは、生き物同士の食うか食われるかの争いが起こるその時のみ…
-シレーヌはどこだ?
冷たい空気ですっかり回転を取り戻した頭で、周囲をぐるりと見回す。
腕の中にしっかりと抱き込んだはずの存在を探せば、俺と距離を少し開けた雪の上にその姿を見つけることができ、安堵からホッと息を吐き出す。
人間族も亜人も住みつかない、魔物たちだけで形成されたこの森の生態系はとても厳しく、常に死と隣り合わせだ。
種族で集落を作り、共同生活することに慣れた者たちが好き勝手に歩き回れば、決してただでは済まない…ここはそんな辺境の土地だ。
純白な地面に座り込んでいたシレーヌの白銀の髪と色味のないドレスはこの地によく馴染む色合いなのに、それでいてハッとするような美しさを放っているように見える。
彼女が自分より華奢な女性だからだろうか?
今にも儚く散ってしまいそうな…そんな危うさを纏った美しさがそこにはあった。
「シレーヌ、」
名を呼び、シレーヌの元へと駆け寄る俺に、粉雪を被った華奢な身体が緩慢な動きで反応を示す。
俺より先に意識を取り戻していたのだろう。
地に伏していた身体を半身だけ起こしたような体勢で固まっていた彼女はゆっくりと俺の方へと振り返る。
そうして現れた横顔はどこかぼんやりとした様子で、その無防備な様子が少し気怠げにも見えて、少し艶かしい雰囲気に動悸がする。
しかし、それも一瞬…
いつもは陽の光を受けキラキラと輝く碧の瞳が、生命の灯火を亡くしたように濁っていて……
それと目があった時、言いようもない恐怖が全身を突き抜けた。
俺の本能的な部分が、けたたましく警鐘を鳴らし始める。
「…ねぇ、テヤン?」
泣き出したいくらい美しい声で空気を震わせながら、シレーヌが俺に笑い掛ける。
真っ白な世界に座り込んだままの弱々しい彼女の姿が、美しいのにとても恐ろしい。
「もう、ここでお別れしましょう?」
何を言われているのかわからず、俺は一瞬、その息を詰めた。




