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Procursator   作者: 来栖れな
第1章 はじまりの出会い
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1-3

相変わらずのエセクオリティー。

階段の手すりに腰掛け、こちらに笑いかけたその女性は、妖艶で婀娜っぽい人だった。

萌黄色の長いくせ毛、深い緑を写した大きな瞳、赤く色づいた唇…

曲線のはっきりした女性らしい体に、ピッタリと沿った赤いワンピースがとても似合っている。

同性である私でもドキドキしまうような綺麗な人だ。


「久しぶりやねぇ〜テヤン。」


「…ギルド空けすぎだぞ。何してる。」


「ん〜?フェルのところに行ってただけやで〜?なかなか離れがたくてなぁ〜」


コツッ、コツッと、小気味良いヒールの音を鳴らしながら、ゆったりとこちらに歩いてくるその女性に対して、目の前の彼は片眉を上げ、呆れたとでも言いたげにわざとらしく息を吐いた。


「はじめまして、可愛いお嬢さん。ルイーザ言います〜 ちょっと前から立ち聞きしてたんやけど、堪忍してな?一応、自分はテヤンが変なことせんか見張るための立会いみたいなもんやから、気にせんといて〜」


「っ、シレーヌです。」


笑顔でスッと差し出され手に、慌ててたように握手し返す。

自分なんかよりずっと高い手の温もりに、思わず驚いて目を見張れば、彼女も何処か可笑しそうに小さく笑った。


「なんやあんた、随分冷え性やなぁ〜」


「そう…みたいですね。」


そう言って赤くなってしまったであろう顔を誤魔化すように、スッと顔を背け、手を引けば、また彼女にクスクスと笑われた。


「ほんま可愛い子やなぁ〜…ところで、テヤン。女性には席を譲るもの、そう教えんかったっけ?」


彼女はそれまで私たちのやり取りを黙って見ていた彼にそう言うと、何処か威圧的にも見える妖艶な笑みで彼に向かって微笑んだ。

それだけのことで顔がまた暑くなってしまった私とは違い、顔色ひとつ変えないまま、彼は彼女に席を譲る。


「…ちょっと、なんであんたは立ったままなん?」


譲られた席にゆったりと腰掛けた彼女は、ふと隣を見上げ、席を退いて立ったままでいる彼に、そう文句を言った。


「俺は別に、立ったままでも問題ない。」


「あんたの問題やなくて!あんたみたいなデカいのに、立ったままでいられたら圧迫感ハンパないわっ!!」


何が不満だと言いたそうに少し眉を顰めた彼を、彼女はプリプリと怒った顔で叱りつける。

確かに彼女の言う通り…あの鋭い瞳に見下ろされたままなのは少し怖い。

彼も彼女の言葉の意味をなんとなく理解できたのだろう。

特に文句を言うこともなく、近くにあった空いた椅子を引き寄せ、私の斜め向かいに改めて座り直す。


「それで、どこまで話進んどったっけ?」


「ええっと…」


「受けるか、受けないか。」


「あぁっ!そやったねぇ〜」


彼女の言葉に彼が簡潔な言葉で答えれば、彼女はパンッと小さく手を叩いて彼の方を向いた。


「さっきも言うたけど、テヤンしかこの依頼受けれる人、居らんやろ?自分でもわかっとったやろ?」


彼女の言葉に、彼は一気に眉間のシワを濃く刻んだ。

それだけで感情らしいものが表にない表情に、たちまち苦々しさが現れる。

-この依頼、受けるのは嫌なのだろうか…


「他の護衛できる子らはマクファーレン商会の大規模な行商の護衛でいないし、レベル的にもあんた以外その依頼受けるのは無理よ。」


「…俺は箱入りお嬢さんのお守りはできないぞ。」


「…その言い方はないでしょ?」


会話の途中、聞き捨てならない一言に思わず言い返せば、何が違うとでも言いたげな不思議そうな目を彼に向けられた。

嫌味でも、悪気があるでもなく、素で言ってるようだ。

-確かに事実、"箱入り"で間違ってないけど…

少しムッとしながらも黙っていれば、そんな私に構うことなく2人は話を続けている。


「確かにあんたはいつも旅慣れた商人の護衛やら、屈強な男たちと魔物(モンスター)退治やら、男臭い依頼しか受けもんなぁ〜?でも、"慣れてないから"なんて理由でこの子の依頼を断るん?あんたが受けなかったらこの依頼、受けれる人間誰も居らんのやで?こんなか弱い女の子をひとりで旅に放っぽりだすん?」


「それは…」


紅狼(ブルートヴォルフ)の信条は?」


「…『弱き者を助ける盾となり、罪なき者を救う剣となれ』」


「せやな?じゃあ、この子を見捨てるのは?その信条から外れとるんとちゃうの?」


眉間にシワを寄せたまま、腕を組み、彼は押し黙る。

その様子に、今度はこちらの番と言いたげに、目の前の女性はぐりんっと私に向かって顔を向けた。


「シレーヌちゃん…だったっけ?どうやろ?こいつ、デリカシーというか、女扱いはさっぱりやけど、腕は立つし、旅慣れてはいる。無愛想やけど気遣えんわけちゃうし、意外に硬派だから安全や!!」


そう言うと彼女は、私を安心させるようににっこりと笑う。


「あんたがテヤンは嫌だって言うんなら無理にはいわん。だけど、もしそうじゃないんやったら、テヤンほど腕が立つ奴なんて早々居らんし、護衛に雇ってみるのはどうやろ?この国は最近一層ゴタゴタしてて…女の子をひとり旅させるんは心配なんよ?」


彼女の言葉に、そっと伺うようにその隣の彼へと視線を向けた。

先程まで濃かった眉間のシワはもうなくなっており、ただどうする?と問うようにこちらをじっと見つめている。

-確かにまだ緊張感はあるけど…嫌悪感はない。それに、腕が立つなら…それに越したことはないだろう。


「…できるなら、貴方にお願いしたいわ。」


意を決して口にしたその言葉に、彼はそっと目を閉じる。


「ここまで言われて、断るとかないよな?」


その彼女の言葉に、彼は小さく息を吐き出した。

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