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Procursator   作者: 来栖れな
第1章 はじまりの出会い
2/56

1-1

改稿版。


改稿版と改稿前ではストーリーや世界観など、矛盾があります。

気をつけて、お読みください。


先の見えない果てなき海は、

いつも見ていた景色となんら変わらないはずなのに…

とても光り輝いていた。

理由はひとつ。

私が未知の土地へと足を踏み入れる、偉大な旅人だからだ。


-風とはこんなに力強くて、心地よいものだったのね…

普段は行儀の良い長い髪が、ふわりと空に漂うだけでとても開放的な気分になる。


人の寄り付かない静かな党の上で、

ただ穏やかに過ごしてきた私には、この世界はとても広い。


「もうすぐ大陸に到着します。」


感情の乏しい侍女の声が耳に届いた。

普段ならその声に、何処か沈んだ気持ちになるのに、今はそれも気にならないほど気分が高揚している。


そして視線の先に現れた、

青でも白でもない新しい色…


思わず甲板の先まで駆け寄って、その色に必死に目を凝らした。



"これはあなたの、わたしの、

  そして世界が迎える、はじまりの物語"




***


-懐かしい匂いだな…

暖かな日差しを受け、まろやかに立ち昇るような南の海特有の磯の香り。

その香り漂う、人々の活気と笑顔が入り乱れる港町は、自分の故郷と違いすぎて、そのくせ何故か心安らぐ。


「あれ?テヤンじゃないか!!久しぶりだね〜」


2年ぶりだというのに、この町の人間はよく自分のことを覚えているものだ。

そんなことを思いながらも、「持ってきな〜」と言って放られたリンゴを受け取り、そのまま背を向け片手を振る。

新鮮な野菜や果物、魚介はもちろん、この国のみならず様々な場所から集めてきた工芸品や雑貨が、大通りにごった返すように並び立つ。

その中を慣れたように進んで行けば一軒、この港町ボーデンで唯一の酒場が建っている。

そこが、この男の所属するギルドの本部でもある。


ギギギッと、古い木材が軋む音ともに厚い扉が開く。

と同時に、外からでは聞こえなかった喧騒が耳に入った。


「だぁ〜かぁ〜らぁ〜〜〜、できるのか、できないのかって聞いてるんです!!こっちには時間がないのよ!」


「そうは言われましても…今は責任者が不在でして…」


「じゃあ!その責任者はいつ来るんですかっ!!」


相変わらず人が集う、古めかしい酒場全体に響くその声は、揉めてる内容からして依頼人だとすぐに検討はついた。

だが、間に入って話を聞こうとはわざわざ思わなかった。

そういうのは正直…俺には向いていない。


「あっ、テ、テヤンさん!!」


そう広くない店内では、俺が入ってきた姿はきちんと確認出来てしまったらしい。

その依頼人らしき女性と口論していた茶髪の男が、カウンターから俺の所まで一気に駆け寄ってくる。

その顔にはありありと安堵の色が浮かんでいた。


「ちょうどいいところにっ!!」


「無理だ。他を当たれ。」


「そんなこと言わないでください!!他頼れる人いないんですって!!」


縋るように掴まれ、腕を引っ張られたが、強固とした態度でそれに反発した。依頼人とギルドメンバーをつなぐ仲介人と、護衛を生業とする用心棒の俺とでは、力の差は比べるまでもなく、俺の身体はその場から動くことはない。


「今、アベルさん依頼で出てるんですよ〜」


この男…バルドという名前だっただろうか。

彼は力づくでは無理とわかり、俺を説得することに切り替えたようだ。


「…ルイーザは?」


「いません!」


「クラ…「他の頼りになる人はほとんど出てます!」


店にいる顔ぶれを確認しながらも、悪足掻きのように聞いた名前(にげみち)は次々に潰されていく。

思わず顔をしかめているところにペタペタと、比較的軽い足音がこちらに近づく音が耳に入る。


「貴方、護衛依頼受けれる人?」


続いて聞こえてきた苛立ちを含んだような棘のある女性の声は、先程までバルドと言い合っていた依頼人のものだった。

驚かさないようにゆっくりと振り返れば、その物珍しい姿に思わず目を見張った。


ボロ屋同然の酒場の窓から入る淡い日差しの下、その白銀の長い髪は光を集めキラキラと輝いていた。

それに照らし出された顔立ちはまるで女神かのごとく、とても美しい。

銀色に縁取られた長い睫毛、スッと通った鼻筋、ふっくらと色づく薄紅色の唇、真珠のように艶やかな肌、どれひとつをとっても芸術品であるかのようだ。

その中でも一際輝くのは、海の色をそのまま閉じ込めたかのような青い瞳だ。

彼女の着ているのは…民族衣装なのだろうか?

見たことのない涼しげで柔らかな布地で作られたアシンメトリーな白いワンピースは、見慣れたものと比べると露出が多く飾り気なく見えるが、すらっとスタイルが良い彼女には似合っていた。


「この人だと埒があかないから…直接でもいいから護衛依頼、受けて欲しいんですけど。」


話が進まず、相当焦れているのだろう。

不機嫌さを隠すことなく全面に押し出すようなその表情は、思ったより幼さを感じさせる。


「お金は貴方の言い値で、いくらでも出すわ。いかがかしら?」


自分の意思が必ずしも通ると疑わない傲慢さ、そして何より言動や雰囲気に滲む気品。

間違いなく貴族…ひいては王族の人間だろう。

ハァーっと、意図せず深いため息が溢れる。

-これは…骨が折れそうだ。


「…依頼内容。先にそれを聞かなきゃ受けられない。」


「時間があまりないのだけれど?」


「俺たちにも依頼を選ぶ権利はある。どんな依頼相手で、どんな内容なのかもわからないのに受けることは出来ない。」


俺の答えに噛み付くような態度だった彼女が、どこか渋い顔をして黙り込む。

苛立ちからカッとなっていたのが少し冷めて、こちらの言い分が理解できたのだろう。

-思ったよりは話が通じそうだ。

そのことにどこか安堵しつつ、ちらりと2階の席の空き具合を確認する。


「…ここで話もなんだ。上に案内する。」


俺がそう言って階段の方へと先導すれば、彼女は黙ったまま大人しくそれに続いた。

その様子に、静かに成り行きを見守っていた周囲も、明らかにホッとしたように表情を緩めた。


-さて、どうするか…

明らかに漂う面倒ごとの気配に、俺は心の内で頭を抱えた。


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