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「ってことで〜、しばらく俺も一緒に旅することになったから!よろしくね〜」
そうなんとも軽いノリで、椅子に座ったまま私にひらひらと手を振る男。
昨夜森であった赤髪の…"アベル"という人だ。
昼間の明るい部屋の中だとその赤髪が光に映え、キラキラとして目立つ。
金色の瞳は少しタレ目で、全体に整った顔立ちは甘い雰囲気を醸し出している。
そしてその彼の隣に、一言も発せず、表情変えることなく朝食を黙々と食べるテヤンの姿…
全く正反対に見える2人が並んで座ってる様子は、見ていて少し戸惑いを覚える。
「でっ?お嬢さん、名前なんて言うの?」
「えっと…」
「座らせてやれ。まだ飯食べてないだろ。」
今にもテーブル越しに乗り出してきそうな勢いのアベルに、テヤンが諌めるように声を掛けた。
ちょうどそのタイミングでダムロさんの奥様が、朝ごはんを持ってきてくれる。
「あっ、ありがとうございます。」
「いいのよ〜。たくさん食べてね。」
彼らの対面側の空いてる席に座りながらお礼を言えば、奥様はにっこりと笑ってまたキッチンの方へと戻っていった。
「あっ、俺も名前まだ言ってなかったっけ? アベル・ヴァルフガング、気軽にアベルって呼んでくれると嬉しいなぁ〜」
「…シレーヌです。よろしくお願いします。」
「あっ、話し方も!テヤンと話すみたいに気らくぅ〜な感じでいいよ?俺も堅苦しいの無理だし。」
「はぁ、わかり…わかったわ。」
-昨日も思ったけど…この人なんか、緊張感なさすぎ。
テヤンが物静かで、無愛想な感じがするくらい素っ気ないからだろうか。
正直、この何考えてるかわからないのに、ぐいぐい来る感じが少し苦手だ。
「それで一緒に旅するってことだけど…護衛として雇えってことかしら?」
「あぁ、違う違う!俺もそっち行く用事出来たから混ぜて〜ってこと!なんか旅の仲間が増えたって感じで、気楽に考えてくれればいいから〜」
私の様子を窺うような態度に、そうヘラヘラと笑いながら、アベルは器用にも手元に残る朝食へと口をつける。
喋りながら食べるなんて行儀が悪いのに、そうは見えない綺麗な食べ方は純粋に驚いた。
しかし、そんな私の表情を意に介さず、アベルはニコニコと笑っている。
「…少しは黙ってられないのか。」
「なに?うるさかった?」
「あぁ。」
「え〜、そんな〜」
一瞬にして私から興味が移ったらしいアベルと、鬱陶しそうにしながらも会話を続けるテヤンの声を聞きながら、とりあえず私も早く朝食を食べてしまうことにした。
***
「確かに俺が紅狼の創設者だけど、俺って王国に指名手配されてるお尋ね者だから、表向きは別の奴ってことになってんだよね〜」
「えっ…それって……」
「はは、驚くよねぇ〜。昔、悪いことしちゃって、そのせいで国に命狙われてるんだ〜。あっ、でも、紅狼に関わってる人なら誰でも知ってることだし、第一、ギルド名も俺が王国の奴らに"血濡れの狼"って呼ばれてるのが由来だしね〜」
若干戸惑っているシレーヌと緊張感のない様子で話すアベルをそっと盗み見る。
-一体、何考えてるんだか…
昨晩、突然一緒に行くと言い出したときは驚いた。
俺の知る限り、この10年でアベルが王都方面に行ったことはない。
指名手配されているからというだけでなく、アベル自身行くことを拒否していた…なのに、
『最近、なんか本気で俺を殺しに来てるのか、刺客が頻繁に送られてくるんだよ〜。ボーデンとかロッハウの奴ら、巻き込むわけにもいけね〜じゃん?他の支部にもたまには顔出してやんね〜と。』
そう言って、俺の視線に気がつかないふりをして背を向けたアベル。
その時は夜も遅かったし、そのまま何も言わなかったが…
あの手紙が関係していることは確実だろう。
そしてたぶん、ルイーザの様子から見て、"あの事"関連なのは確実…
-まぁ、所詮そうなったら、俺に拒否権はないんだけどな…
そう思いつつも、近づく不穏な影に重たいため息が溢れる。
「ん?どうした?腹痛か?」
それを目敏く…というよりはずっとこちらを窺っていて、嬉々とした様子で絡んでくるアベルに、思わず渋い顔をしてしまう。
「…安心しろ。健康体だ。」
「なら良かった!昼前にはここ出るからなぁ〜」
「……あの連れてたアイツは?」
「ん?…あぁ、カイル?起きたらボーデンに戻すようにダムロさんに頼んだ!どっちみち橋はもう修繕できてるしなぁ〜」
そう言って何故か自慢げな顔をするアベルに、若干の疲労感を覚えてしまう。
-2年ぶりだけど…やっぱうるさい。
いつも調子よく、ペラペラと止まることのないその口に、これからの旅を思って頭が痛くなった。
…そんなことを考えていたからだろう。
この時、シレーヌがどこか浮かない顔で俺を見ていたことを俺は全く気がつかなかった。




