Puso
夏のホラー2018に参加しています。
初参加です。
よろしくお願いします。
月も星も隠れてしまった真夜中の空の上で耳障りな動物の声な聞こえた。
聞きられないその声は遥か上空から聞こえていた。
その声は一定の音程で、不規則に聞こえながらも暫く留まっていた。
少し時間が経ち、雲が晴れるとその声の主のシルエットが明らかになる。
それは鳥のようで、そうではなく…コウモリの羽を持った巨大な何かだった。
一見普通のコウモリかと思うがそう思うにはあまりにも大きさが不自然すぎた。
その大きさはまるで人の上半身ほどの大きさだ。
もしや見たこともない生物なのだろうかと目を凝らしたが…残念なことにすぐにまた雲の中に月が隠れ見えなくなってしまった。
20××年。
ある高校に1人の男子生徒がいた。名をエルウィンと言うごく一般的な男子生徒だ。
彼はオカルトに少し興味があり、ネットを通じたり本を読んだりしてオカルトへの知識を深めて行っている。
かと言って、決して怪しい道具を集めているわけでもなくただ単に創作された話を読むことが楽しいためだ。
心の中でこれはカーテンだ、それは猫だと論破してやるのが実に気持ちがよかった。
昔の話は所々おかしな部分がある。
それを現代人であるエルウィンが解くことで恐怖が薄れていくのだ。
そんなこんなでエルウィンはいつものように休み時間になると隠し持っていた携帯でお気に入りのオカルトサイトへと飛ぶ。
今日は何か面白いことは起きてないのだろうかと新着の部分を軽く流しているとふと気になった記事を見つける。
"空飛ぶ吸血鬼、マナナンガル"
マナナンガル…聞いたことのある言葉だ。
それもそのはず、この前テレビでニュースになっていたのだから。
テレビのニュースでは血を抜き取られて死んでいた、心臓が抜き取られていたと報道されていたがどうも胡散臭い。
きっと近所のチンピラのいたずらだと思っていて聞き流していた内容なのだが…何故かとても気になってしまった。
エルウィンはその記事を躊躇い無しにタップすると現れた記事をじっと見る。
どうやら目撃者のようでつらつらと何処で会ったのか、どんな姿だったのか、なぜ生き延びれたのかを語っている。
いつものような目撃談だったかと息を吐けば軽くスクロールをしザッと読んだ後思わず指の動きを止めた。
"最後に、私は○○地域に住んでいるものです。○○地域に住んでる皆さんはお気をつけ下さい。"
目を疑った。
そこはエルウィンが住んでいる場所だった体。
かと言ってこの文章を信じて対策したとしてもデマの可能性が高い。
なのでエルウィンはこの田舎町がやっと名前が出るようになったのかと少し興奮気味に喜んだ。
恐れはない、だってこれは作り話なのだから。
エルウィンは他にも何かないのかとバックボタンをタッチする。
新着には在り来りな体験談がずらりと並んでいる。
"ボロアパートに住んでいたら…"
"風呂場でこの前…"
"森の中で変なものを見て…"
"実家に帰った時のこと…"
在り来りで想像がつくタイトルと予想を裏切らない内容。
面白かったのはマナナンガルの記事だけだ。
内容を大雑把に説明すると、目撃者が森で肝試しをしていたところ曇っていた空が晴れてそこから大きな影が現れた。
大きなコウモリのようだったがよく見ると人間の上半身がそこにあった、というような内容。
正直これも在り来りな展開なのだが、今エルウィンは吸血鬼に興味を持っていた。
世界の吸血鬼を知りたい…そう思っていたのだ。
まず初めに自分の地域で言い伝えられてる女吸血鬼…マナナンガル…を調べようとしていた矢先の体験談だ。
ラッキーとしか言い様がなかったが…中身が「見た」だけで、接触はしていなかったのでちょっぴり残念だった。
以前ざっと調べたマナナンガルは赤子を食べるということだけ記されていて血を飲まない吸血鬼なのか?とエルウィンは首をかしげた事がある。
吸血鬼とは血を吸う鬼だから吸血鬼じゃないのかと…調べ方が悪かったのだろう。
ネットだと嘘も紛れているためかあまり信用出来ない。
そのためエルウィンは今日学校が終わったら図書館に行こうと考えていたのだが、指が動きサイトを見ていた。
エルウィンは浅く息を吐くとサイトを閉じ携帯を見つからないようにカバンの底に沈め隠した。
放課後。
エルウィンは帰り支度をしながら先生がいないことをいいことに携帯をいじっていた。
ヨーロッパの吸血鬼、アジアの吸血鬼。
とにかく吸血鬼について読み漁っていたが、面白そうなものはなくやはり図書館に言って調べた方がいいのではと携帯をしまう。
「えーるうぃんっ」
「な、なに?!」
突然耳元で女の子の声がし、びくりと体を震わせる。
慌てて振り向くとそこには自分の彼女である女子生徒、クラリスがいた。
艶やかな癖のないボブの黒髪に焦げ茶色の焼けた肌。
茶色の瞳…自分にはもったいないくらいに可愛い子だ。
彼女とはクラスが違うため会うとしたら休み時間か放課後だ。
今日も一緒に帰ろうと思って来たのだろう…と思ったのだが後ろにもうひとつ影がある。
帰ろうとしていた男子達が目を丸くしてその影…見たことの無い女子生徒を見ていた。
彼女と同じ黒髪だが、膝裏まで伸びている艶やかな黒髪。
若干焼けたのか少し茶色な肌。
すっと切れ長な黒い瞳。
クラリスを超えた美しい女子生徒がクラリスの後ろで姿勢を正して立っていた。
まるで人ではない美しさ…と言っていいだろう。
肌が白ければまだまだ綺麗だ。
「ああ、この子は今日転校してきたんだ。私の親戚のマリセル。一緒に住むことになったんだ」
クラリスがじゃーん!と両手を広げ後ろで俯き気味の彼女を紹介する。
マリセルと紹介された女子生徒は軽く会釈をしてきた。
エルウィンも会釈し返す。
「俺はエルウィン。クラリスの彼氏。よろしくなマリセル」
エルウィンはにっこりと笑うと手を差し出す…が、マリセルは恥ずかしいのか嫌なのかよく分からない表情でぴくりとも動かない。
手を差し出して数秒するとエルウィンはそっと手を引っ込めた。
そばで見ていたクラリスはクスクスと笑う。
エルウィンはそんなクラリスを軽く睨むと立ち上がる。
「クラリスごめん。俺図書館行きたいから今日は一緒に帰れなさそう。それにマリセルと募る話もあるだろ」
「えー?!マリセルとは昨日お話したよーう!」
「遊んだりとかしたいだろ」
「やだやだやだ!エルウィンと一緒がいい!なんで彼女を放っておくの?!」
クラリスが眉間に皺を寄せ嫌だ嫌だと駄々をこねる。
確かに彼氏としてはドライだがそれもそのはず。
エルウィンはクラリスの事が好きではなかった。
告白したのはクラリスからでエルウィンはその時みんなが彼女を作るということにメリットを感じていた時期であったためOKしたのだ。
それにクラリスはうるさいしがさつだし、わがままだし…見た目以外は女の子らしくない。
デートするにしてもバッティングセンターやらゲーセンやらと色っぽいものなんて選ばせてくれない。
付き合って1年目にして既に気持ちが遠ざかっていた。
そのため放課後に一緒に帰ることが苦痛になり始めていた。
「いいから」
「…なにか調べるの?」
エルウィンがうざったそうに一瞥すると大人しかったマリセルが口を開いた。
鈴の音を鳴らすような透き通った綺麗な声だ。
クラリスの大きいだけで品もない声とは違う。
「え、ああ。ちょっと」
「私たちもついて行っていい?私、本好きだから…図書館の場所知っておきたいの」
エルウィンが言い淀むとマリセルがついて行ってもいいかと問う。
断る理由もないだろう。
エルウィンは二つ返事で頷く。
「それじゃ、行こうか。クラリス、図書館で騒いだらダメだぞ」
一応クラリスに注意するとクラリスは頬を膨らませ「浮気者ー!」とエルウィンをぽこぽこと殴った。
エルウィンはそれを無視するかのように昇降口への歩みを進めた。
その後街を案内がてら図書館に行くと3人それぞれ読みたいジャンルの方へと行く。
クラリスは格闘技の雑誌があるところへとさっさと行ってしまう。
あんなに一緒がいいと言っていたのに薄情なやつだとエルウィンは呆れながらも思った。
残されたエルウィンとマリセルは気まづそうにしたが、エルウィンが古典の方へと歩みを進めるとマリセルはクラリスの方へではなくエルウィンの方へと近づいてきた。
「歴史が好きなの?」
「ああ、まぁ」
正確に言うとオカルト話が好き、だがもしそんなことを言えばオカルトオタクだと嫌われるだろう。
マリセルは適当に本を取るとパラパラと読む。
エルウィンはその彼女の横顔を無意識にじっと見つめていた。
綺麗に整った顔は彫刻のようで生きているようで生きていない…そんな不思議な美しさだった。
仕草も女性的で行動一つ一つにドキリとさせられる。
エルウィンは既に彼女の虜だった。
「…どうしたの?」
見つめられていると気づくとマリセルは顔を上げる。
エルウィンは慌てて「髪にゴミが」と言い訳を言うとぱっぱっと軽く髪を撫でるようにして叩く。
「ありがとう」
にこりとマリセルが笑う。
初めて笑った。
その美しさと可愛らしさに顔が火照る。
クラリスの笑顔を見てもうんともすんとも思わなかったのにマリセルの笑顔は魔法のようだった。
エルウィンもぎこちない笑顔で答えると目当ての本が無いか調べる。
すると、古典のコーナーには無いような本がひとつ目の前にあるのに気づいた。
大きな文字で「puso」と書かれた分厚い本だ。
「puso」…自分たちの国の言葉で「心臓」を意味する言葉だ。
デカデカと「心臓」とタイトルがつけられている本に手を伸ばすとふと、横からの視線に気づく。
横にはマリセルしかいない…チラッと横を見ると本を戻したのかマリセルがじっとこちらを見ていた。
びっくりしてマリセルの方に顔を向けるとマリセルはにこりと笑う。
「読まないの?」
「よ、読むよ」
笑いかけられながら問われると慌ててエルウィンはその本を手に取る。
重くてよろめいてしまうほどに大きい。
その本をエルウィンは1人で机のある所へ持っていくとドスッと鈍い音をだして本を置く。
大きなその本は古いのか色あせた皮表紙だった。
エルウィンがその本の表紙を開くと初めに真っ黒なページが現れる。
目次はないようだったので次のページを開くと心臓のモノクロ絵のようなものがいくつかあった。
心臓の上には人の名前が書かれているだけで医学書にしては詳しく書かれておらずもし殺人鬼の手によって書かれた心臓記録などだとしたらこんな所には置いてないはずだった。
その心臓が描かれたページが数ページにもわたりあり、全てのページが心臓の絵だとわかるとつまらなくなってきた。
半分ほどに来ると流石に飽き、ぱたんと閉じようとしたが止められる。
「待って、私これ読みたい」
マリセルだ。
マリセルがエルウィンの手を取り閉じさせないようにしていた。
その力は女の子が出すような力ではなく骨が折れそう名ほど強い。
「マリセル、い、痛い、痛いって」
エルウィンが訴えるとハッとしたようにマリセルが手を離しごめんなさいと一言謝る。
どうしても読みたいのか本から目を離さずに。
なんだか気味が悪くなったエルウィンは違う本を探そうとマリセルに背を向けた瞬間。
「おいしそう…」
そう、マリセルがぽつりと呟いた。
「おいしそう?」
エルウィンはその言葉を聞くと振り向く。
マリセルはハッと顔を上げると苦笑する。
「えっと、あのね。マナナンガルっていうおばけ知ってる?」
マリセルの口からマナナンガルという言葉が出てくるなんて思っていなかった。
エルウィンは目を丸くし頷くと知ってると言う。
「そのマナナンガルね、心臓が大好きなんだって」
「へえ」
「だからね、ほんとに美味しいのかなって思ってつい『おいしそう…なのかなぁ』って不思議に思ってたの…、…ごめんなさい、変なことを言っちゃった」
マリセルは申し訳なさそうに笑うと本を閉じる。
「いや、いいよ。俺そういう話好きだしもっと聞きたい」
エルウィンはここぞとばかりに同調する。
実際好きだ。
そしてこんな可愛い女の子と知り合えて、しかも趣味が一緒だなんて…好都合じゃないか。
いい感じになったらクラリスを振ってこの子に乗り換えようとエルウィンは思った。
顔もよければ性格も可愛らしく趣味が合いそう…それにスタイルも悪い方じゃない。
マリセルは好きだという言葉を聞くと嬉しそうに笑う。
「クラリスは怖いお話嫌いだから中々お話してくれないの。良かった、近くに怖いお話が好きな人がいて」
こうしてクラリスを抜いた2人で図書館のオカルト雑誌や本を読み漁り始めた。
数ヶ月が過ぎて。
エルウィンは次第にクラリスを避けるようになり、マリセルにばかり話しかけ始めた。
大好きなオカルト話は彼女と話すきっかけにと使い、楽しんでいると言うより利用しているというような使い方だった。
マリセルはそんなエルウィンの持ってきた話を楽しげに聞き、相槌をしたりして楽しんでいた。
クラリスはと言うと…相変わらずエルウィンの後ろを追いかけていた。
一途な子だ…エルウィンの心が離れようとしているのに健気に戻ってくることを信じ愛を注いでいた。
けれどその愛の注ぎ方は傍から見れば異常で、エルウィンに金銭を与えたり荷物持ちをしたりとまるでパシリのような扱いを受けていた。
それでも尚クラリスはエルウィンに求められているからと…疲れきった顔で言っていた。
昔のわがままで元気な彼女ではなかった。
そんなある日。
「エルウィン、聞いて」
階段下に呼び出したエルウィンにクラリスが震えた声で逃げようとするエルウィンを呼び止める。
「なんだよ。これからマリセルと図書館に行くんだ。邪魔をしな…」
「お腹」
エルウィンがきつい言い方で突き放そうとするとクラリスが自分のお腹の中を摩る。
エルウィンはお腹が痛いから一緒に帰ってとも言うと思っているのかうんざりとした顔だ。
それでもクラリスは言葉を続ける。
「結構前に、生で、ヤって、ゴム、付けないであなたとヤった、から、かな、生理が…来ないの…」
泣きそうな声でクラリスがそう言うとエルウィンは今までにないくらいにイラついた顔でクラリスを見る。
クラリスはつらつらと「生理が来ない」「できちゃったかな?」「どうしよう」と不安を表す言葉をいい救いを求めるが…。
「そんなん知らねぇよ。自分でなんとかすれば?というかもう別れようぜ。お前めんどくさい」
そう冷たく言うとふっとクラリスに背を向けエルウィンは歩き出す。
彼女が教室で待っている。
クラリスとは別れたから付き合おうって言おう。
きっとOKが出るはずだ。
そう自信満々に思いながら…。
1人残されたクラリスは去ったエルウィンに向けた手のひらを下ろせずにいた。
「別れたくないからあなたの言うとおりにしたのに…この突き放し方は酷いよ…、…赤ちゃんできたら私はもういらないの?私って…なんだったの…?どうしてOKくれたの…?酷いよ…」
クラリスは座り込み両手で顔を覆うと肩を震わせる。
今までやってきたことは何だったのかわからなくなってしまった。
そんなクラリスの前に人影が立つ。
「クラリス?」
聞き覚えのある声にクラリスは顔を上げる。
長い黒髪と少し焼けた肌の足首。
「マリセル…」
きっとエルウィンを探しに来たのだろう…と一瞬思ったが違った。
下校時間はとうの昔にすぎている。
残っている生徒は自分たち以外おらず、階段は静まり返っていた。
その階段の上から差し込む夕日の光はマリセルを照らす。
その顔はいつもの美しい顔ではなかった。
真っ赤な血の色の唇に白目が黒く、黒目が金色になっている。
にんまりと笑う口の端には鋭い牙。
「赤ちゃんの匂いがするよクラリス。いるの?」
マリセル?は舐めるような視線でクラリスの下腹部を見る。
「ああ、でも小さすぎるなぁ…もう少し大きい方がいいんだけど」
「ひ…」
そう言うとしゃがみこんで顔を覗く。
見たこともないマリセルの嬉しそうな顔に…いや、もうマリセルでは無いのだろう。
化け物はどさりと尻もちをついたクラリスに手を伸ばしスカートの上から下腹部を撫でる。
「小さいけど暖かい。とくんとくんって聞こえる」
うっとりとした表情で化け物はクラリスの顔を見ると手を離し立ち上がる。
「クラリスは最後にしてあげる」
そう言うと化け物はくるっと背を向けコツ…と一歩歩くと振り向く。
そこにはいつものマリセルがいた。
「待ってて」
にっこりと笑うとそれだけを言って去っていった。
クラリスは暫く腰が抜けて動けなかった。
マリセルを迎えに行ったエルウィンは教室に彼女がいないことに気づく。
カバンは置いてあるのだが本人がいない。
早くしないと図書館は閉まってしまうし、自分の家に招待した後の計画もある。
別にいつでもいいのだがエルウィンは早くマリセルを自分のモノにしたくてたまらなく焦っていた。
「マリセル?マリセル!」
エルウィンはマリセルの名前を呼ぶ。
この教室にはいないことは分かっているのでマリセルのカバンを持つと教室の外に出る。
すると手を拭きながらちょうど帰ってくるマリセルを見つけた。
焦った表情のエルウィンを見ると驚いたように目を見開いていた。
「ああ、よかった…置いていかれたのかと思ったよ」
「何を言ってるの?あなたが持ってるカバンを置いて帰ったりなんかしないわ」
マリセルはクスクスと笑いながらエルウィンに近づくと首に腕を回す。
急に大胆な行動をしてきたマリセルにドキリとするが、歓迎だ。
内心よし!とガッツポーズをしている。
「ねぇ、エルウィン」
マリセルが悩ましげに体を密着させ顔を近づける。
「どうしたの?」
「クラリスなんかやめて私にして?私の方が綺麗だし料理もできるし…女らしいことは沢山できるわ」
「…そうだね」
「あの子なんか振って私と一緒になりましょう?…イエスならキスをして」
ニヤリとエルウィンは笑む。
やはり今の自分は幸運だ。
そこそこ可愛いクラリスに美少女のマリセルの2人に言い寄られて…これはモテ期だ。
「ああ、いいよ。さっき俺クラリスを振ったんだ。付き合おう」
そういいマリセルの唇に自分の唇を乗せるとずっと我慢してきたのだろう…エルウィンはマリセルの頭を掴むと貪るようにキスをする。
柔らかな唇は吸い付くようにエルウィンの唇にぴっとりとまとわりつく。
マリセルも応えるように首に抱きつきエルウィンの唇の間に舌を絡めエルウィンの舌を自分の口内へと誘い込む、と…。
「…ッ?!」
ガリッと言う音と共にエルウィンの目が見開かれる。
ぷはっと両者の口が離れるとボタボタと両者の口から血が流れ落ちる。
「ッ、ッーーーー!!」
悲鳴にもならない声を出しエルウィンが口を押さえ泣き悶える。
ボタボタと血は止まらない。
そんな中マリセルは落ち着いた顔つきで口をもぐもぐと動かす。
その口の中からはコリッコリッとまるで軟骨を食べるかのような音が聞こえる。
エルウィンはボロボロ泣きながら膝から崩れ落ち、白目を剥くと泡を吹き下を濡らして横に倒れた。
開かれた口の中は血と血の泡で詰まっていた。
マリセルは倒れたエルウィンを見下ろすとにっこりと笑い口の中のものをごくんと飲み込む。
「男の子でしょ?おもらしだなんてかっこわるいわ。私、おもらしする人とすぐ気絶する人は嫌いなの。別れましょ。数分の付き合いだったわね、お疲れ様」
そう言うマリセルの顔は…クラリスに向けられたあの化け物の顔だった。
その頃クラリス。
震える足に鞭を打ち、エルウィンが危ないと思い助けに行こうとしていた。
ひどい振られ方をしたのに懲りない子だ。
けれど足が思うように動かずゆっくりゆっくりと階段を上がっていた。
自分たちの教室は2階の奥にある。
少し遠いが行けない距離ではない。
はぁはぁと息を荒らげながらクラリスは階段を上り、歩き、やっと2階の自分たちの教室に着く、が…、入口付近に血溜まりができている。
そして何かを引きずった跡も。
ドクドクと心臓が早くなる。
…中でくちゃくちゃという音が聞こえる。
嫌な予感しかない。
クラリスはそっと音がならないように教室の扉を少しだけ開くとそこには……仰向けにされたエルウィンと、そのエルウィンの横で身をかがませてなにか食べている人の影。
よく見るとそれはマリセルで…だが同時にマリセルでは無いと気づいた。
教室が薄暗くなってきたため見えにくかったがマリセルの背中には大きなコウモリの羽が生えており、顔はあの時見た恐ろしい顔だったのと…教卓の下に隠すように置いているが見えているマリセルの腰から下の肉体が見えた。
つまり目の前にいるマリセルは上半身のみということ。
まさに化け物の姿である。
「ひ…」
あまりの恐ろしさにヒュッと息が出て声が自然と出てしまう。
するとマリセルはそれに気づいたのかこちらを見る。
そしてにんまりと笑う。
まずい。見つかった。
あまりの恐ろしさにまた腰が抜けてしまった。
動けない。
「クラリス、来てくれたのね。ごめんね?久しぶりの男の心臓だから夢中になっててクラリスのこと忘れてたの。ああ、でも赤ちゃんのことは忘れてないよ。待っててね、今そっちに行くから」
そう言うと手を使ってクラリスに近づいてくる。
クラリスはじわりと下半身を濡らし漏らしてしまう。
なんなのかもう分からない。
会ってない間にマリセルに何があったのか分からない。
マリセルの形をした化け物は扉を開けボロボロと泣くクラリスを見るとにっこりと笑いドンッと押し倒すと服を捲りクラリスのへそを出す。
「ありがとうクラリス。大事に大事に味わうわ」
「やだ、やだぁぁ…」
化け物はそう言うと腰が抜けて動けず嫌だ嫌だと泣くクラリスを無視し口をへそに近づけた。
その夜、学校の上空で耳障りな「キキキーッ」という動物の鳴く声が聞こえた。
とても嬉しそうなその声は山の方へと向かっていった。
翌日。
2階の奥の教室でエルウィンとクラリスの遺体を見回りの警備員が見つけた。
エルウィンの遺体には舌と心臓が無かった。
クラリスの遺体には…子宮が無くなりへそと股から血を流していた。
その後の名簿からはエルウィンとクラリスの名前がなくなった。
いや2人の名前だけではなく…もう1人。
マリセルの名前も、最初からいなかったことにされていた。
誤字がありましたらご報告ください。
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