EX2 very berry strawberry
EX2 very berry strawberry
反光速ジェネレータが発動し、裏切り者が虚空へと姿を消していった。その姿を疑問のもと一人の機械化兵が見ていた。
その機械化兵には何も分かりはしなかった。どうして裏切り者が裏切ることとなり、そして、命からがら逃げようとしたのか。表情が変わらないにもかかわらず己はどうして裏切り者が清々しい顔をしているように考えたのか。
後の彼はこう結論付けた。
出会いと別れ、それは機械化兵が忘れたものの一つであり、そこに失われた心というバグを呼び起こす要因がある、と。
だが、それは後のこと、彼が地球に降り立ち、二心一体の、機械でも人間でもない少年と出会い別れる過程によって導き出されたものであった。
反光速ジェネレータとは、光速というものがある以上、どこかにそれと同質で、かつ反対の性質を持つものがあるはずだという理論のもと編みだされた産物であった。宇宙船外を反光速の時の流れで包み、宇宙船内を光速の距離の流れで包む。光速とは移動するという物理的かつ三次元的行動により引き起こされる現象であり、反光速とは、時間を移動するという四次元的行動の結果として時間移動をする。つまりは、時間が先か移動が先かというだけであり、全てが終わった後の結果は時間と距離の移動なのであった。
そのことを彼は、戦略型機械化兵、フライエはよく知っていた。戦略型である彼はデータバンクである『フォークロア』の禁則事項を自由に閲覧できる身分にあった。それ故に、今飛び立った裏切り者に反光速ジェネレータの情報をインストールさせたのは彼なのであった。つまりは裏切り者の親のようなものであるが、それを知るのは彼のみであり、また、彼は裏切り者に何の愛情をも抱いてはいなかった。ただ、己の作業に何かバグでも生じていたのかと冷静に考えていただけなのであった。
「くそっ。反光速ジェネレータだと。安定装置もなしに飛び出したとなれば、どの座標に行き着くか分からんだろうに。」
「観測結果が出た。クローズは2015年に、0-KENは1967年に降り立った。どちらも地球の様だ。」
彼はそう反乱軍の指導者に告げた。
「どうしてよりにもよって2015年の地球なのか……」
己たちと同じ種類の生き物が生息する地球という星をパライソス星はずっと観察していた。時間を捻じ曲げ観測することが可能な四次元レンズ『レンズ』を使い観測を行ったところ、突如として2015年以降、その星の未来を観測できなくなった。パライソス星の学者たちは地球という星が完全消滅したのだと結論付けたが、彼は少し疑問を持っていた。地球が滅びるのならばその滅びた光景も観測できなければおかしく、2015年以降の地球は全体にもやがかかっている状況なのだった。それを彼は、己たちが地球の未来を計れなくなっただけなのではないかという仮説を立てていた。それを不確定な民間伝承で例えるのならば、奇跡と呼ぶのではないか、2015年のある日に地球に奇跡が起こったのではないか、と。
「ショーグン。どうするんだ。」
「1967年の地球に向かう。そこで裏切り者のオーケンを抹殺する。」
それは正しいと彼は思った。もしも1967年以前の地球に降り立つとなれば、それだけで『レンズ』の観測結果が変わってきてしまう。今、裏切り者が地球に降り立ったというだけで『レンズ』の観測結果は歪み始めている。陽炎のように代わる代わる変化をし、どの未来を写せばいいのか迷っている状況だった。もしも、反乱軍一行が1967年より過去の地球に降り立てば、『レンズ』の観測が不安定になり、裏切り者やクローズが地球にたどり着けない可能性があった。
「時間はピッタリに合わせたな。」
「ああ。」
彼は反光速ジェネレータの前に立つ。今から己の体には光速の負荷がかかる。つまりは、体が崩壊するはずなのだ。それを回避するには崩壊を起こした肉体を再構成する必要がある。つまりは、降り立つ場所に己の概念を定着させ、そこに己の肉体を構成している金属元素を付着させる必要があった。
「3……2……1……ふぁいあ!」
目の前に黄色い光が広がり、裏切り者を追う機械化兵の体は一瞬でこの世から消失した。
彼が目を開けた時、彼の目の前には大きな壁があった。辺りに反乱軍の機械化兵の姿はない。裏切り者のオーケンが地球に降り立ったことで少しの誤差が生じた証拠だった。だが、空間を歪めるほどの誤差が起きるとは彼には思えなかった。そこにはさらに大きな異変がなければならないような気がしたが、今は考えていても仕方がないと割り切る。
「まずはこの世界に準用しなければならない。」
そのためには地球人を襲い、情報を得、肉体を生成する必要があった。よって、彼は誰を襲うのがいいのかと考えた。裏切り者を殺すには裏切り者が化けた人間の知り合いに化けるのが策である。だが、今は誰に化けているのか分かりはしない。なれば、殺されても構わない人間に一時化けるのもいいだろう。そう、彼は考えた。彼は山の方角を目指した。ある程度地球を観測していた彼は、長い間、その山にある施設があることを知っていた。なので、そこに向かうことにした。
「待て。」
それは警告ではなく命令であった。
彼の腹部に光の槍が突き刺さる。
「何者だ。」
「PS言語か。暗号を解読して宇宙言語に直して、また翻訳か。なるほど。お前の言いたいことは分かった。」
彼の背後には一人の男がいた。地球人である。同じ宇宙人ではない。だが、彼はその男の存在が信じられなかった。何故ならば、地球の文明はまだ彼の体を傷付けられる武器を有していないはずだからである。
「まあ、あれだ。色々と何とも言えないわけだが、簡単に言うと、この星における守護天使だな。俺らは。いや、守護天使代行なのか?」
彼は男が撃った光線に覚えがあった。彼の保有している武器にも使われているスペシウムという物質である。
「とりあえず、この世界に紛れ込んだ異物を消し去るつもりなんだが、うん。お前は悪いことをしなさそうだな。悪いことをしないというよりも、何が悪くてなにが正義なのか分かっていないって匂いだ。とどのつまりは、どうすっかな。」
よく話す生き物だと彼は思った。音の波形から、この星の言語が波の周波数によって会話をするということは分かるが、詳しいことは彼には分からなかった。
「放置して報告ということにするか。ただ、あれだ。人殺しってのはよくない。だから、決してするな。それだけ言っておけばいいだろう。じゃあ、またな。」
男は手を振って去っていく。
「ちなみに俺は数学教授だからな。忘れるなよ。」
男は無意味に彼の顔すれすれにスペシウムを放った。もとより外す気で撃っていたことがわかっていた彼にとっては疑問でしかなかった。
どうも己は難を逃れたのだろうか、如何にか。
彼は少し混乱し始めていた。男は彼を殺すつもりだったのだろう。だが、殺さなかった。何故なのかは少しも分からない。
「自己修復ユニット消失。」
彼は己の損傷を確認し、思った以上にひどいことを知った。一ミリも違わず、男は彼の自動修復ユニットを破壊したのだった。それはつまり、男が機械化兵の性質を、構造をよく知っているということだった。この地球に己たちよりも早く異星人が辿り着いている可能性について彼は考え始めた。
静けさによって音が全て吸収されてしまっているかのように彼は錯覚しそうになった。周りでは人が眠っているというのに気配があまりしなかった。それはその施設にも原因があるのだろう。先の長くない患者が送られる病棟がその場所であったからである。誰もが生きながら死を受けれているような場所であり、それはこの世界から矛盾し排除されかねない場所でもあった。そんな静けき病棟に悲鳴が響き渡る。それは何が故の咆哮か。何を訴え叫んでいるのか。彼にはよく分かっていた。こういう人間は実験材料つぃて使われるのだ。彼らのように。戦地に赴く経験の少なかった彼でも、咆哮が己の不運を呪うものだと知れる。
彼の腹部には稲妻が走っていた。バチバチという音で患者を起こしてしまわないように彼は気を付ける。なるべく健康な体がいい。動いていても疑問に思われないほどの肉体が好ましい。
「どなた?」
冷たい夜にか細い声が響いた。窓を見ながら、未だ起きている少女がいた。その少女は恐れることなく彼の姿を見つめる。
「とうとう、お迎えが来てしまったのね。死神さん。」
彼は少女を殺さなければならなかった。彼らの正体を知られるということは最悪の事態なのである。
「ああ。私の人生は辛いものだった。でも終わるのね。ありがとう。ブリキの死神さん。」
少女は笑顔を見せながら泣いていた。泣きながら笑っていた。それがどのような心境によるものなのか彼は理解できなかった。
彼は少女の首に手を回し、コキリという音を立てた。それだけで全てが十分だった。
彼は己の中に渦巻く何かと必死で戦いながら、少女の頭蓋を砕き、情報を得た。
少女の名は春野苺と言った。
幼いころから体が弱く、ずっと病院暮らしだった。
初めはお外で元気に遊ぶことを夢にしていた。
だが、だんだん死ぬことを夢とすることになった。
己の力では死ねなかった。
なので、彼女は死神の存在を欲した。
しかし、それは本当に少女の望みであったのだろうか。
彼は少女が最後に呪いとして彼に残した奇妙な笑顔という難題について考察する。泣いているような笑っているような表情。それがどういう思考に基づくものなのか、彼には分かりはしなかった。脳を覗いても分からない。それは少女と接することでしか分からず、今となってはもう、永遠に分からぬものとなってしまった。
彼は少女を殺したことを悔やんだ。せめて、少女の記憶とともに生きようと決意した。彼は少女の体の中に潜り込み、そして、少女の姿となる。
「俺は探さなければならない。少女が何を望んでいたのかを。その答えの分かる人間を探さなければならない。」
空はだんだんと暗さを増していく。
彼が答えを知る少年と出会い全てを悟り別れを告げるにはあともう少し時間がかかる。
長かった1967年編前半が終わった。今は解放感しかない。これも当分お休みをいただくだろうが、異世界ものに飽き飽きしたとき書き連ねよう。
まず、題名について。
勘の良い読者なら感づいてらっしゃると思うが、これは鉄腕バーディーのパロディに近い。だが、初めからパロディをやろうと考えたわけでなく、朝起きたら背中にロボットが張り付いてた!的なストーリーの中、これ、鉄腕バーディーじゃね?なら、名前をパクっとくか、と鉄背をもらったわけである。オーケンという名前は、ご存知の人はご存知である。筋肉少女帯などのヴォーカルを務めている大槻ケンヂの愛称だ。バーディに似た名前をつけたかったのだが、バーディでは少し都合が悪い。そして考えた挙句、もう、オーケンしかないな!という発想となった。大槻ケンヂやゆうきまさみ先生から今のところ連載を止めろとは言われていないので、大丈夫だと思う。もし消えてしまったら、どちらかからそういう要請があったと受け取るべきか。まあ、どっちでもいい。
年代を1967年にした理由について
最初は現代にしようと思っていた。クロという存在は前作の『HandG』にて出していたので、それとの関連性を……という感じだったが、前書きのウルトラセブン第一話冒頭を書いているとき、そのナレーションとともに夜を走る車のライトの群れがフラッシュバックして、そういえばウルトラセブンの世界と今の日本ってそんな変わらないんだよな。むしろ、今のほうが劣っているのでは。放映当時からそれほど変わったものは思い浮かばなくて、ファッションとか、家電が高性能になったとか、一番大きなもので携帯電話が普及したくらいで、人の有様ってのはそれほど変わらないんじゃないかと思ったわけである。ゆえにチャレンジとして1967年に籍を置いた。まあ、まだ20数年しか生きていない若輩者なので、当時のことはあまりよくわかっていないのである。なにせ、祖父の時代だ。その頃、ワンカップ大関があったかさえわからない。もし、時代錯誤などありましたら、ぜひともご意見を。適当にパラレルなんで!と言ってしまうかもしれませんがなるべく改善の努力はします。
世界は思いのほか暗黒だけど、誰かがそばにいればなんとかなるさ。
これがきっとこの作品のテーマで、でも、ちょっと『HandG』とかぶってるなぁと思わないこともなかったり。