表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

初めての逝き返り

『魔王の討伐完了まで死なない命』


なんと素晴らしいことだろう!

近江屋の時みたいに、いきなり現れた名も知らぬやつに道半ばで暗殺、みたいなことにならないのだ!

とっても素晴らしいものをもらってしまった。

ありがとう神様……。


「ってなるわけあるかぁぁぁあああ!!!」


自室でゴロゴロと転げ回る。

すかさず隣の部屋からドン!と壁が叩かれる。

うるさい、ということだろう。

隣の部屋には今、あの女神がいる。

こっちの世界にいる時に使う部屋として貸したのだ。

また『ドン!』ってされないように静かに寝転ぶ。


『死なない命』


魔王討伐まで死ねない。

それはつまり魔王討伐に縛られた人生だということ。

いくら逃げ回ってもいつかは魔王退治に向き合わなければならないということだ。


「……うわぁぁぁああ!!!」ドン!ドン!


こちらの世界に来て半日。

坂本龍馬は早くも憂鬱な気分となっていた。





「あら、意外と立ち直りが早かったわね」


元凶がわしの姿を見て何か言っている。

あのままゴロゴロしてても仕方ないから街の様子を見に行こうとした矢先にこれである。


「街に行くの? なら私も付いていくわ」


そう言って元凶が手早く玄関に広がっているいくつもの箱を片付ける。

……箱?


「なんじゃこの箱は?」

「あー、持ってきたのよ。ここに住むから必要なもの全部」

「は?」


ここに住む?

そんな話聞いてない。

ふと台所を見ればこいつが持ってきたであろう家具がいつの間にか置かれていた。

ちなみにこの家にわしの荷物はない。

全部この世界で調達しろとさっき言われたところである。


「よし、早く行くわよ」


女神がにっこりと可愛らしく微笑んだ。

……まあ家具代が浮くと思えば、住まわせてやってもいいか。





街に出ると意外と活気にあふれていた。

市も様々な物が豊富に取り揃えられている。

人々の顔にも不満の色はなく笑顔が多い。

……これ、魔王倒す必要があるのだろうか。

女神に聞こうとしないのは傍にいないから。

離れるなと言ったにも関わらずあいつは迷子になっていた。

まあそのうち戻って来るだろう。


しばらく店を見て回っていると、道から少し外れたところで子供達が遊んでいるのがみえた。

ふと、子供達が文字をかけるのか気になった。

店巡りを中断して彼らの元に向かう。


子供との交流は昔から得意だった。

大人とは違う情報網を持ち、大人の気づかない視点で物事を見ている。

加えて子供の様子はその家族や社会の鏡となっている。

子供を知れば社会を知ることができるのだ。


しばらく子供達と話すうちに彼らは文字を書けないということがわかった。

学問は商人や上流階級のものであって庶民のものではない。

庶民は買い物に必要な数字や計算がわずかにできる程度のようで、江戸や京都のように数学や歌で遊ぶ、というような事はないようだった。


となると、海援隊方式が使えそうだ。

各人が仕事と自分の学びたいことを両立させる海援隊方式。

この世界でも使えるやも知れない。

魔王を倒す倒さんの前にまず海運会社を作りたいからな。

あと子供のうちから文字は勉強した方がいい。

そう考えると寺子屋を優先するか。

まぁ、先ずは住民に信頼されることが大事だな。

信頼を得るには先生となるのが一番だろう。

……まさかこのわしが教える側をやることになるとはな。




街の様子を見て、今後の計画の大筋が建てられたあたりでそろそろ帰ろうと迷子を探す。

商店、飲食店、公園……

どこにもいない。

家に帰ったのだろうか。

いったん家に戻ろうか。


この1日で得た情報から家までの近道を選ぶ。

路地裏を通ると結構早く帰れることがわかっていた。

近道をしていると道の先に見覚えのある銀髪の少女の後ろ姿。

おーいと女神に声をかけると、こちらに気づき、そしてその顔が驚きの表情に変わる。


「ちょ!うしろ!うしろ!」


いきなりなにを……。

突然背中に衝撃を感じた。

一拍置いて広がる激痛。

胸元から何かがせり上がり、口から吹き出す。

霞む目で下を見ると一面真っ赤に染まっている。

脂汗が身体中から吹き出し、気がつけば血だまりの中に倒れ込んでいた。

身体が動かない。

体が急に動かされる。

仰向けにされふところをあさられなにかをぬかれ…………。




「……ぃ…………い」


深い海の底、何も見えない闇と押しつぶされそうな圧迫感から無理やり引き剥がされ、明るい光の下に引きずり出される。

もう少し、闇に抱かれていたい。

その願いもむなしく引きずりおこされ……


「おーい!龍馬さん!」


目の前に探し回っていた女神がいた。

ずっと探していたのにいつの間にかこんなところにいたのか。

どんだけ苦労したと思ってるんだ。

そう思うわしの思考を遮って、


「龍馬さん、大丈夫ですか? いや、大丈夫なのはわかってますけど状況わかってますか?」


と、敬語で話しかけて来た。

分かっていること、それは路地裏で何らかの事態に巻き込まれて死にかけたということくらいか。

死んだと思ったが、案外無事らしい。


「いえ、あなたは確かに死にましたよ。死んだけど死んでないんです」


…………??

意味がわからない。


「言ったでしょ? あなたは死なないって。肉体は死んだとしても魂は死なず、肉体の修復が済み次第復活するですよ」


まじか……。

それじゃあ肉体が消滅した場合はどうなるのだろうか。


「それも肉体が出来次第復活しますよ」


…………なんだか聞いてはいけないことを聞いた気がした。

これはなんか相当ヤバいアレだろう。


「そんなことより、あなたどう死んだか分かってるの?」


わかるわけがない。


「後ろから刺されたのよ。強盗に。なかなか手際良かったわよ。私の目の前じゃなかったら捕まってなかったでしょうね」


なんで惚れ惚れとしてるんだこいつ……。


「とりあえず、肉体は死んでるんだから二日三日は安静にしてなさいよ。それと、市場で発見はあったの?」


わしの死をめちゃくちゃ軽く言う女神に、どうにかして嫌がらせをしてやろうと考えながら、市場でまとめた考えを説明する。


「なるほど、識字率に目をつけたのね。へー、塾ねぇ……」


珍しく真剣な顔をしている。

何か問題でもあるのだろうか。


「いえ、やっぱり貴方を選んで正解だったって思ったのよ」


とびきりの笑顔で女神はそう言った。

ありがとうございます!

これからもよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ