タッチボール場外乱闘事件24 ~キャリオカ・スプリングスティーン登場~
「お子さまみたいなことをマジな顔して言っちゃうんだ」
キャリオカ・スプリングスティーン嬢は天を仰ぎ、ゲラゲラ声を出して笑った。
「久しぶりに少年漫画じみた台詞を聞いたよ。オーケー、クロードくんは試合のために私たちに力を貸す……」
「……キャリオカさんは捜査のために僕に力を貸す。それでWinWinってことでいいかな?」
「キャリーでいいよ。親しい友人はみんなそう呼ぶんだ」
彼女は僕に向かって右手を差し出してきた。
「じゃあ僕もクローで。綺麗な女の人からは大概そう呼ばれてるから」
「言うねぇ、君も」
今度は遠慮せず、本気で彼女の手を握り返してみる。
意外に温かで、柔らかな感触だった。
見た目にはクールだけど、表には出さないだけで本当は情熱的な人なのだろう。
でないと、こうまで仲間に慕われまい。
「クロー……いい人見つけた……」
チームの輪から離れると、シズカが近づいてきた。
「うん。なかなかの掘り出し物だよ、彼女は」
「探していたもう一枚が……手に入った……」
ナショーカとマクガイナ五段、それにキャリオカ嬢が加われば、結構な戦力になるのは間違いない。
彼女には、好守のバランスが取れたいい働きが期待できそうだ。
「キャリーがいれば……大会に優勝して……ティラーノの野望を……潰せる……」
「そうだね。どうあってもオヨタのIFFを連中に渡すわけにはいかない」
「それに……きっとクローの……悲願を果たすのに……役立ってくれる……」
シズカはその時だけ少し声色を変えて呟いた。
僕は思わずドキリとしてしまった。
シズカが言ってるのは、ミナモンテスによるティラーノへの復讐のことなのか。
どうして彼女が僕の秘密を知っているのだ。
僕はミナモンテス先代当主の九男で、ティラーノ一族は両親の仇に当たる。
その秘密はミナモンテスの旧臣の中でも、限られた一部の人間しか知らないはずだ。
連中は僕をティラーノ打倒の旗頭にして、ミナモンテスを復興させようと躍起になっている。
しかし、それは彼らの悲願であって、僕の望むところではないのだ。
そしてこの隠し事は、僕が既に人間じゃなくなっているという、更に大きな秘密に直結している。
シズカはそれを知っているというのか。
「えっ、僕の悲願って? 君は何を言ってるんだい」
僕はとぼけ通す作戦に出たが、心の動揺を抑えきれなかった。
そのため、声は不審なまでに狼狽えきっていた。
だが、僕の動揺はまったくの杞憂であったのだ。
「とぼけても無駄……クローは知り合った女と……片っ端から親密になり……ハーレムを作ろうと企んでいる……」
「……へっ?」
「スケベ男の……考えていることくらい……シズカには……お見通し……」
「…………」
僕は思わずプッと吹きだしてしまった。
この可愛くて滅法強いロボットは、アホの子だったのだ。
と言うか、僕自身でさえついこの間知ったばかりの秘密を、シズカが知っているわけがないのだった。
しかしまあ、ハーレムとは楽しげな勘違いをしてくれる。
僕が秘蔵するオタッキーコレクションに影響されたのだろうけど。
「でも……キャリーなら……ハーレムの末席に加えても……いい……」
「やけに肩を持つじゃないか。そんなに気に入ったの? まさか、彼女も実は男って言うんじゃないだろうね」
僕はアーチー・ティラーノの一件を思い出した。
シズカがジェラシックにならないとは、逆に心配になってしまうじゃないか。
「そうではないけど……キャリーはこれからも……クローの役に立ってくれる予感が……する……」
「ちょっと依怙贔屓が入ってるんじゃないの? まあ、手を貸してくれるってのなら、せいぜい頑張ってもらうさ」
なんたって、シズカが率先して仲良くしてくれる女性は貴重だ。
そんなのは、あのココ主任くらいしかいないから、キャリオカ嬢の存在は絶滅危惧種並みの有り難さがある。
できるだけ大切に扱って、親密度を上げていかなくては。
個人的な楽しみのためにも。




