タッチボール場外乱闘事件17 ~キャリオカ・スプリングスティーン登場~
「貴様らぁ、それでも男かっ。恥を知れぃっ」
ケツバットは明らかに不当な暴力だが、相手がキャリアの警視正、しかも戦闘サイボーグときては逆らうこともできない。
不平を口にするどころか、ヒィヒィ泣きながら尻に手を当てて逃げまどうばかりだ。
階級社会に属する組織人の哀しい宿命だな。
「男を止めるのなら……シズカがキンタマ引っこ抜くわ……無料奉仕だから……遠慮しないで……」
シズカがニコリともせず呟くと、男たちは今度は手を前に回して硬直する。
「お前ら、ゼロ機の隊長殿がおっしゃる通りだ。戦う前から負けることを考える男がいるか」
続いて、2メートルを超える巨体をそびやかし、マクガイナ五段が立ち上がった。
それだけで、男たちはヘナヘナと崩れ落ちる。
対峙した僕には分かるけど、彼女にはそれだけの威圧感があるのだ。
「いいか、自分はどうあってもこちらの兄さんを男にしなきゃならんのだ」
マクガイナ五段は僕に化けたシュガー・リンを指し示して怒鳴った。
「なにがなんでもついてこい。極楽浄土へ連れてってやるぜ」
マクガイナ五段がニヤリと笑うと、男たちは泣き笑いの表情になって頷いた。
「優勝したら……シズカが……女子大生とのコンパを……セッティングしてあげる……」
その女子大生ってのは、揃いも揃って厳しい戒律に縛られた堅物ばかりなんだろ?
以前に、本庁勤務の看守職員を全員カトリックに改宗させ、上層部の頭を抱えさせたことで有名な――。
何も知らずに飛び上がって喜んでいるお調子者もいるが、知らぬがほっとけだ。
こうして、僕たち3人の入団式は無事に終わり、取り敢えず今日のところは解散となった。
* * *
「しかし、あんなチームでミカワまで行けるんだろうか」
晩飯どきにもかかわらず、不安が先行して食欲が出ない。
「しかも帝都大会に優勝するのはあくまで手段。それが目的ではゴザらん……」
シュガー・リンの言うとおりで、ハードルはまだその先まで続いている。
都大会で優勝できなければミカワに行くことはできない。
そして、オヨタの不正を暴くこともできず、IFFの技術は海外に流出してしまう。
3回戦敗退となれば、格好悪いだけでは済まなくなるのだ。
「山猿とグリズリーに……頼るしかない……あとは……クローの逃げ足次第……」
マクガイナ五段はいいとして、ナショーカ警視正は不安定な要素が多い。
彼のモチベーションをいかに持続させるかが勝負の分かれ目になりそうだ。
「シュガー・リン。君が僕の代わりに金髪美少女になるのはどうだろう。僕に変装できるんだから簡単だろ?」
すなわち、クローディアに変装した僕に変装するだけなんだから。
「いや、あれだけガン見されたら、さすがに騙しおおせる自信はないでゴザる」
その眼力で、クローディアの正体が僕だって見抜けないのはマヌケなんだけど。
「むしろ……試合はリンに任せて……クローが女装に専念するのは……どう……?」
それはちょっと問題があるだろ。
一応は警察広報の一環としてのクラブ活動なんだから、全面的に人格を詐称するのはまずい。
それに、数万の人出の中でワンピースを着続けるのは、精神的に耐え難いものがある。
今日だって、いったい何人の男にナンパされ掛かったと思っているんだ。
シュガー・レイがこっそり護衛してくれてなかったら、どこかに拉致されてたかもしれないんだぞ。
とにかくクローディアの出撃はなしだ。
「クローが……そこまでヘタレだったとは……がっかりだわ……」
「殿、男らしくないでゴザるっ」
シズカとシュガー・リンが口々に僕を貶しまくる。




