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ただ春の夜の夢のごとし  作者: 大舞舵輪
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タッチボール場外乱闘事件5 ~キャリオカ・スプリングスティーン登場~


「直ぐにミカワの県警に通報して捜査を開始してもらいましょう」


 県警にも優秀な捜査員は多いから、オヨタを叩いて膿を出し切ってくれるだろう。

 今回の場合、侵害されるのは国益だ。

 警備部的な表現を借りれば「被る損害は計り知れないほど甚大」である。

 県警だって全力を挙げて捜査を尽くすに決まっている。


「まずダメね。県警はあてにできないわ」

「ミカワはオヨタの門前町なんですから、県警も完全に牛耳られてますよ。オヨタに不利な捜査などするわけがありませんわ」


 何を言ってるのかとココ主任が鼻で笑う。


「でも、警視庁職員の僕には定められた管轄があるんですよ。ミカワでの捜査は許可されません」


 僕はあからさまに不機嫌な態度で応えてやった。


「あら、クロード主任。何のために私がいるとお思いなのです?」


 僕のふて腐れなど気にも留めず、ココ主任がはにかんだ笑顔を見せた。

 白河都知事も彼女には絶対の信頼を寄せているようである。


「戦略はココに任せて、クローちゃんは思う存分ミラクルを起こしてちょうだい」


 どうにも気に入らない成り行きである。

 大局的に見れば国益を守る重要な話ではあるが、この悪徳知事がそんなものに興味があるわけがない。

 UMを叩けばティラーノに打撃を与えることができ、現在の状況を打破する突破口にもなり得る。

 それに大企業のオヨタのキンタマを握れば、計り知れない利益が懐に転がり込むのだろう。

 一言、「降りる」と言いたいのだが、ティラーノの私設軍隊を強化させることへの危惧もある。


「分かった……ココが言うのなら……信頼できる……」


 僕が口を開くより、シズカが勝手に話を決めてしまった。


                  * * *


 そんなこんなで、軍師サマから最初に指示されたのがタッチボールの観戦であった。


 試合をしているチームの一方は、僕の同僚である警視庁職員たちだ。

 と言って、警視庁にタッチボール課なんて部署があるわけではない。

 では、彼らはどの部署に属しているのか。


 警務部の教養課が柔術や剣術を仕切っているように、総務部の広報課は各種スポーツクラブを抱えている。

 お家芸の柔剣術ほどは力を入れていないが、幅広く人材を確保するための受け皿として、公認のスポーツ愛好会があるのだ。

 大学でスポーツクラブに所属している学生にとって、就職してからも好きな競技を続けられるのは魅力的であろう。


 と言って、スポーツが仕事というわけではなく、あくまで通常業務の合間に行う余技という扱いでしかない。

 この警視庁スポーツクラブは、優秀な学生を警察組織に引き込むための罠なのである。

 眼下で試合をしているタッチボールの選手たちも、甘い言葉で勧誘された犠牲者なのだ。


 僕はタッチボールの試合を生で見るのは初めてのことである。

 ルールもよく知らないので、シズカ解説員にレクチャーをお願いしている。

 なにが面白いのか理解できないが、ただ一つ、ひ弱な僕には向いていないスポーツであることはよく分かった。


 パワー勝負の試合進行であり、選手たちは恵まれた体格を誇る大男たちばかりだ。

 これが有力チームともなると、スタメンの多くがカテゴリー2のサイボーグであるらしい。

 体格も体力も女の子並みの僕がフィールドに出たとしても、10秒と立っていられないだろう。

 いや、生きて退場する自信すらない。


「ランニングマンなら……クローにも適正がある……逃げるのは得意分野……だから……」


 シズカがにこりともせずに言い切った。

 悪気はないんだろうけど、彼女はちょくちょく僕のプライドを粉砕してくれる。

 まあ、僕がタッチボールの試合に出ることなどありはしないから、適当に苦笑いで流しておくことにする。


 それより、スタンドの応援団の方が気になってしかたがない。

 凛々しい制服姿の音楽隊や、生足も眩しいチアのお姉さんたちに視線が行くのは健康な若者にとって自然なことであろう。

 チアリーダーたちは警視庁音楽隊の隊員で、普段はカラーガード隊として活躍している。

 まさに見せ物なのだから、若くて綺麗なお姉さんたちばかりである。


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