タッチボール場外乱闘事件3 ~キャリオカ・スプリングスティーン登場~
「こ、この小悪魔ぁ……」
相変わらず妖精のような姿をしているが、こいつの頭と腹の中には黒々としたモノが渦巻いている。
僕は彼女の謀略にはまり、もう少しで犯罪者として葬り去られるところだったのだ。
おじさんが大好きな愛されAラインボブも、星がキラキラ輝く黒目がちの瞳も、こいつがお芝居に用いる小道具なのだ。
容姿以外の全部が気に食わない、まさに悪魔のような存在だ。
「クロー……何を言ってるの……ココはいい人……」
小悪魔をとっちめてやろうと意気込んでいた僕を、相棒のシズカが横から制してきた。
ココ主任の武器は、凄まじい回転速度を誇る頭脳と、会った人が愛さずにはいられないキュートな容姿である。
そんな彼女のことを、シズカは信頼しきっている。
なにせ、僕の「マイ・ファースト」は自分だと断言してくれたのは、他ならぬココ主任なのだから。
あの当時、独占欲の強いシズカは、僕の浮気疑惑が原因でAIに異常を来しかけていた。
そこに現れたのがココ主任であった。
彼女はただ一言「クロード主任は、あなたのことを他の誰よりも一番大事に思っている」って囁いただけだ。
たったそれだけで、彼女はシズカの信頼を勝ち得ることに成功した。
同じ目的を果たすために僕が払った労力の、百分の一にも満たない作業で。
この妖精少女の知謀にかかれば、アンドロイドの人工知能をたぶらかすことなど朝飯前なのだ。
容姿だけは愛らしくて憎めないけど、決して油断してはならない相手だ。
「ごめんね、クローちゃん。あたしがあんまりクローちゃんのことを持ち上げるもんだから……」
「実力を知りたくなったのですわ。けど、クロード主任の能力は、都知事のおっしゃるとおり……いえ、それ以上でしたわ」
なんて風に彼女から眩しそうな目で見つめられると悪い気はしない。
超美少女に尊敬のまなざしを向けられて、喜ばない男がいるだろうか。
つか、既に術中にはまりつつあるなぁ。
「それで、ココ主任はどうしてこんなところに?」
例の一件で特命監察を追い出されたことは知っていたが。
それでも懲戒免職になったとは聞いていない。
こういう時のために飼い慣らしている、各方面のお偉方に助けてもらったのだろう。
彼女に泣いてすがられて、冷たく振り払える男などそうはいまい。
「本日付で発令された定期異動で、都に出向になったんですの」
ココ主任はどや顔で説明し、誇らしげに胸を張った。
と言うことは、彼女はナースのジョオ・ウィッチの後任なんだ。
射撃の女神の次は、妖精少女がその魅力と知謀で都知事を守り抜くわけか。
「そろそろ……呼ばれた理由が…知りたい……シズカたちは暇じゃない……から……」
シズカは退屈しきったような態度で質問した。
その意見には僕も賛成だ。
このまま雑談に興じていたら遅刻してしまう。
下っ端の僕にとって、定時の出勤時間とは午前7時30分なのだ。
「そうそう、アンタたちに来てもらったのは他でもないのよ。クローちゃんは、安全保障貿易規制法って知ってるわよね?」
記憶が正しければ、軍事や戦略に関わる物資の海外輸出を制限する法律だったはず。
対象となるのは、レールガンに使われている電磁カタパルトとか、加速装置に組み込まれているアクセラレーターとかだ。
一応、昇任試験に向けて勉強をしているからよく覚えている。
受験資格はまだないんだけど。
「そう。優秀なマシン兵器の製造に欠かせない部品とか、ソフトウェアなんかの技術流出を防ごうってのが目的ね」
現代戦では、主力となるマシン兵器の優劣が、戦いの趨勢を左右すると言っても過言ではない。
効率よく敵を無力化する優秀な兵器を開発することが、国威の上下を決定づける世の中なのである。
マシン兵器に搭載する核心部品の開発には各国とも血道を上げており、それだけに技術流出には敏感になっている。
「で、なんだけどぉ、我が国の規制対象部品をこっそり海外に横流ししようとしてる企業があるとしたら、クローちゃんはどうするぅ?」
「そりゃ、警視庁とすれば即刻事件化して責任者を拘束し、同時に技術の流失を防ぎますよ」
外国に与して国益を損なうような連中は、社会悪として放置しておくわけにはいかないだろう。




