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ただ春の夜の夢のごとし  作者: 大舞舵輪
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戦巫女乱心事件33~ロージー・スルーガー登場~

「主任は善意から……私を助けようとしただけで、むしろ被害者なのです。本当の悪人は、そこにいるウー巡査部長です」


 ミーナ嬢は真っ直ぐにココ主任を指差し、ハッキリとした口調で言いきった。

 ただ一瞬、「善意から」と言うときのみ、少しだけ寂しそうな顔になった。


「クロード主任が密輸をやっていたなんてウソです。状況を自分に都合よく利用した、その人のでっち上げです」


 ズバッと事実を明かされても、妖精少女は眉すら動かさなかった。

 まるで能面を被っているように、愛らしい顔に薄ら笑いを浮かべ続けている。


「はて、何のことやら。どうして私がそんなことする必要があるのです?」


 上司であるファムロイヤル監察官の意向に反して、自分に何の得があるのかとココ主任は笑った。


 そうなのだ。

 傍目には、この妖精少女は特命監察官の忠実で有能な秘書なのだ。

 普段の仕事ぶりも申し分ない。

 彼女が白河法子のスパイで、特命監察と人事一課の共倒れを画策している、なんて言っても誰も耳を貸すまい。

 それどころか、こっちが狂人扱いされるのがオチだ。


「柔特を惑わしたのも、組対三課に道を誤らせたのも、全部この人の仕業です。お願いウー巡査部長、本当のことを言って」


 ミーナ嬢は僕を懲戒免職にさせないため、憎い敵に必死で哀願した。

 ホント、バーサーカーモードにさえ入らなかったらいい子なんだ。

 だが、その献身ぶりがお気に召さないのか、ファムロイヤル監察官は不機嫌そうに眉間に皺を寄せている。


「さっきから聞いていれば、私が何か悪いことでもしたような。私はフェデリア様のために留守を預かっていただけですのに」


 ココ主任は唇の両端を吊り上げて冷たく笑う。


「私の独断で組対三課に応援を求めるのはどうかと悩みましたが、目の前の違法行為に対処するため、やむなくとった措置です」


 ココ主任は勝ち誇って胸を反らした。


「それでも、あなたは私を責めるというのですか?」


 証人席の組対三課員たちが一斉にブーイングを発した。


「嘘です。口封じのために、私たちを殺そうとしたことが、あなたが悪事をやっている何よりの証拠じゃないですか」

「はて。証明力のない証拠は、事実認定の資料としては些か不適当では? 証人でもいれば話は別ですが」


 これにはミーナ嬢も黙らざるを得なかった。

 剣術ならともかく、口ではとてもではないが戦巫女に勝ち目はない。

 唯一、証人になってくれそうなカディバ一家は、あれから行方知れずになっているし。

 こんなことなら、あんなに脅すんじゃなかったと後悔する。


「そうだわ。彼女なら……ロージーさんなら全部見てくれてるはず」


 ミーナ嬢は裏の警視総監とも言うべき、不良婦警の名を上げた。

 なるほど、ロージー・スルーガーなら現場にいたし、完全な第三者的立場だから証人としては申し分ない。


 だが、特命監察と敵対関係にある彼女が、査問会の場に姿を現すとは思えない。

 自分自身が凶状持ちで、特命監察に目を付けられているのだから。

 それを見越しているからこそ、ココ主任も平静を保っていられるのだ。


「では鶴見巡査長。そのロージーさんとやらは、どこにいらっしゃるんです?」


 ココ主任がクスクス笑う。

 悪名高いスケバンがこんなところにやってくる筈がないと確信しているのだ。


「さあ、どうしました。ロージーさんを連れてきてもらいましょうか」


 ココ主任が勝ち誇ったように声を張り上げた。


「そうだ、そうだ」

「ロージーを呼べっ」


 証人席の応援団が同調し、ちょっとした騒ぎになる。


 妖精少女の哄笑がひときわ高くなった時であった。

 それまで目を瞑って座っていたファムロイヤル監察官がいきなり立ち上がった。


「お黙りなさいっ」


 特命監察官は高笑いする秘書を叱りとばすと、右足を振り上げて机の上を踏みしめた。

 思わぬ展開に、ココ主任は元より、他の全員が呆気に取られて硬直する。

 そう言う僕も真っ白な太ももと高価そうなレースのパンティに目を奪われ、体の一部分を硬直させていた。


「黙って聞いていれば図に乗って……」


 ファムロイヤル監察官の顔には怒気が溢れており、こめかみには青筋が浮き出ている。


「そんなに会いたいのなら、会わせてあげましょう……ロージー・スルーガーに」


 啖呵を切った特命監察官の顔が上気し、激しさを増した血行が全身を桜色に染めていく。

 と、同時に真っ白だった右の内腿に赤い染みが浮き出してきた。


「……お、白粉彫り?」


 それは、普段は見えないが、血行が盛んになると浮き出てくるという伝説の入れ墨である。

 現実には不可能とされる創作上の技術と思っていたが、それが一輪の紅バラとして僕の眼前に咲き誇っている。


「……ロージー……さん?」


 ミーナ嬢がうわずった声で確認する。


「……あ……あ……あぁ……」


 可哀相に、妖精少女はあんぐりと口を開けたマヌケ面を晒して、上司の内腿に浮かんだバラを指差している。

 どんな厚顔無恥な不良警察官であっても、ファムロイヤル監察官に掛かれば、最後には必ず自らの罪を認める。

 そう自慢げに教えてくれたのは、確かこの妖精少女だったな。


 幕切れは呆気なかった。

 騒動の張本人であるココ主任は柔特に引き立てられて、査問会の会場から退場していった。

 差詰め、おって沙汰あるまで閉門蟄居というところか。

 組対三課の面々も同じく、屈強の女格闘家たちにしょっ引かれていく。


 ティム・タイラーは「訳が分からない」といった風に首を振っていたが、ジィナ嬢に伴われて部屋を出ていった。

 彼が本当に黒幕だとすれば、今後の対策にさぞかし忙しくなることだろう。

 さて、僕とミーナ嬢の処分や如何に。

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