戦巫女乱心事件21~ロージー・スルーガー登場~
僕とシズカがカブキタウンに着いたときには、すっかり日が暮れていた。
スケベメイドが余計なことして時間を食ったから、随分と遅くなってしまった。
あの後、余分な冷却液を抜き取るのに大騒動があり、それから普通に蛋白燃料の補充までおねだりされた。
一刻を争うときに何を言ってるのかと叱りつけたが、結局はシズカの思い通りにことが進んだ。
肝心なときに彼女が戦闘モード解除、なんてことになると困るのは、他ならぬこの僕なのだから。
今日は初弾を無駄撃ちしてしまったから、一回の補給だけでは量が足りず、シズカは満足してくれなかった。
結局、続けざまに三度も蛋白燃料を絞られたことになり、僕もさすがに少々参ってしまった。
本当ならベンに乗り換えるために、一度警視庁に戻る気でいたのだが、そんな時間的余裕はなくなった。
しかたなく、装備課の輸送車でカブキタウンへ乗り込む羽目になったのだった。
「どうせ……バカのヒューガーは……昼間は寝てるから……」
まあアイツのことだから、彼女の言うとおりなのかもしれない。
さて、どこへ行けばヒューガーに会えるのか。
「あいつは……“ええカッコしい”のくせに小心者だから……肩で風を切って……裏通りをこそこそ歩いている……」
散々な言われようだけど、なかなか的確な分析だ。
やばい人間がウヨウヨしている表通りは、フリーの情報屋には危険が多すぎる。
知らぬうちにどこの誰に恨みを買っているか、本人にも分からないのだから。
シズカの予測に従って裏通りをぶらついていると、程なく如何にも軽薄そうな小僧に出くわした。
違法サイボーグのヒューガー・イッセーだ。
この僕を蜂の巣にして、一度殉職させてくれた張本人である。
お陰で僕は人間ではなくなったが、代わりに超人ともいうべき力を手に入れることができた。
といって、感謝する気には全然なれず、力をおおっぴらにもできないのだが。
ヒューガーは口笛を吹き吹き、商売女をからかいながら近づいてくる。
そのご機嫌そうな口笛がピタリと止んだ。
怖い顔でにらんでいるシズカに気が付いたのだ。
一瞬の間を置き、踵を返したヒューガーが脱兎のごとく逃げだした。
僕の真横にいたシズカが姿を消した。
と思ったら、彼女は逃げるヒューガーの前に回り込んでいた。
アクセラレーターで急加速してヒューガーを追い越し、次いで急停止したのだ。
そのまま、勢い余ったヒューガーが背中に載ってくるのを待って、払い腰で思い切りアスファルトに叩きつける。
「ギャアッ」
一発で伸びたヒューガーは、すっかり戦意を失っていた。
「ひでぇや、姐さん。俺は何にもやっちゃいねぇだろうがぁ。クローのアニキからも何とか言ってくれよぉ」
虫の息のヒューガーが泣き声を上げる。
だが、哀れな泣き言も、冷徹なバトロイドを斟酌させるには至らない。
「なら……どうして逃げるの……どうせ陰で悪いことしてるに……決まってる……」
まあ、そうなんだろうけど。
身も蓋もない言い方だな。
「ヒューガー、時間がないから端的に聞く。カディバ一家が禁制品の密輸を企んでいる。取引きの時間と場所が知りたいんだ」
同情はするが、時間がないのは事実だ。
シンプルに用件だけを切り出す。
「そんなもんっ……今の衝撃で記憶から飛んじまったよっ」
手荒な扱いにへそを曲げたのか、ヒューガーがそっぽを向く。
「だったら思い出させてやろう。シズカ、もう一回ショックを与えてやれ。たぶん、それで記憶が戻るだろうから」
「えっ?」
きょとんとなったヒューガの奥襟にシズカの手が伸びる。
「シズカも……そう思っていたとこ……」
怪力のメイドはヒューガーを無理やり立たせると、再び腰の上に載せる。
「うわ~ったったっ、思い出したっ、思い出しましたぁっ」
跳ね上げかけたシズカの右足が止まる。
「えっと……幾らになるんだろ、この情報?」
ヒューガーが右手の親指と人差し指で丸を作る。
この期に及んで、まだ情報を金にしようとしているのだ。
彼の往生際の悪さは、僕も見習わなければならないかもしれない。
「もういい……」
何を思ったか、シズカは襟のリボンを解き、エプロンとメイド服の前ボタンを外した。
押さえつけられていたオッパイが、プルルンと飛び出てきた。
そうしておいて、ヒューガーの顔面を自分の胸元に持ってくる。
「あ……姐さん……?」
何のサービスですかと、ヒューガーの声が裏返る。
この状況でサービスがあるわけがなく、シズカは駄々っ子がヤダヤダをするように両肩を交互に揺すり始めた。
慣性の法則に従い、2つのオッパイが横揺れを開始する。
それらは強烈な往復ビンタとなってヒューガーの顔面に襲いかかった。
ビシッビシッビシッという重い打撃音と共に、耳を覆いたくなるような男の悲鳴が上がる。
「あぎゃあぁぁぁーぁぁっ」
なんという、うらやま恐ろしい技なんだ。
あまりにもエグい拷問を前に、僕は黙って見守るしかなかった。




