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ただ春の夜の夢のごとし  作者: 大舞舵輪
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戦巫女乱心事件8~ロージー・スルーガー登場~

「えっ、囲まれてるって……誰に?」


 キョロキョロと境内のあちこちを見回すが、敵らしい姿は見あたらない。

 でも、シズカのセンサーは信じるに足りる。

 ミーナ嬢も敵の接近を察知したのか、取り付け始めた袖をその場に投げ捨てた。

 何がいるのかと身構えたが、塀沿いの植え込みから出てきたのは意外なものだった。


 身長130センチくらいのちびっ子ばかりが全部で11人。

 皆が真っ赤なレオタードを着ており、髪型もお揃いのおかっぱ頭だ。

 なんか不自然さを覚えて凝視したら、顔の造りまでが全員まったく同じであった。

 揃いも揃って猫目で、それが薄闇の中でギラギラと輝いている。


「何なんだ君たちは。サッカーの練習なら広場でやりなさい」


 年長者の義務として一応注意はしてみたが、もちろん反応はなかった。

 彼女たちは遊び目的で神社にやってきたのではない。

 こいつらはアンドロイドなんだ。


 どことなくトモエ01型に似ているが、アレとは違って表情というものが全然ない。

 まさかと思うが、ポンタの技術をパクって製造した、トモエの劣化コピーなのか。


「気をつけてください。ティム・タイラー子飼いのバトロイド軍団、ボブキャッツです」


 なるほど、ボブカットの猫目少女だからボブキャッツなんだ。

 つか、とうとう敵のボスが直臣を戦線に投入してきたのだ。


 まあ、連中が警察仕様っていうのなら、僕とミーナ嬢には無害な存在だ。

 正規品のロボットは、人間には攻撃できないんだから。

 生身の僕なら、ずっと俺のターン状態で、一方的に攻撃できるのだ。


「こいつらにはアシモフ回路はセットされていません。違法な廉価版バトロイドなの」


 ミーナ嬢が鋭く警告を発する。


「ティム・タイラーの意思を過不足無く体現する、血も涙もないキラーマシンなのです」


 おわっと、そういうのはもう少し早く言ってくれないと。


「とにかく、君は戦っちゃダメだ。人事一課長に余計な口実を与えてはいけない」


 彼の目的は術科特練の解体だから、ミーナ嬢は矢面に立たない方がいいだろう。

 後でどんなイチャモンを付けてくるか分かったもんじゃない。


 となると、ボブキャッツを追い払うのは僕たち――というかシズカの役目だ。

 しかし、今のシズカは冷却機能が著しく低下している。

 相手の性能が未知数だけに、どこまで戦えるか不安だ。


「問題ない……相手はできそこないの……ガラクタ同然……」


 シズカはそう言って拝殿の舞台から飛び降りた。


「気をつけて。そいつらの指先は、レーザーメスになっているから」


 ミーナ嬢の忠告に耳を貸さず、シズカはフォーメーションのど真ん中に歩を進める。

 ボブキャッツは粗製濫造された廉価版だが、一応は新型バトロイドだ。

 名機の誉れ高いとは言え、既に旧式化したウーシュ0033で対応は可能なのだろうか。


 否、確かにハードは旧型の部類でも、シズカには優秀なソフトとこれまで蓄積してきた戦闘データがあった。


 シズカは敵の一体に駆け寄ると、いきなり身を沈めて右の回し蹴りで足首を払った。

 足元を掬われた敵は大きくバランスを崩し、後頭部を地面に叩きつけた。

 衝撃によりシステムが飛んだそいつは、一時的に行動不能になる。


 シズカはしゃがみ込んだまま、今度は右足を軸にして左後ろ回し蹴りで次のおかっぱ猫の足を刈る。

 大きくのけぞった敵は、後頭部から地面に崩れ落ちた。


 上手いぞ、シズカは敵のレーザーメスが届かない位置から攻撃を仕掛けてるんだ。

 しかも、そのまま地面を転げ回り、とまどっているボブキャッツを蹴り上げていく。


 これは中国武術の一つ、地功拳の技だ。

 連中の戦闘ソフトに、下からのキックへの対処などプログラムされていまい。

 一方、シズカの学習コンピュータには、古い武術書などのデータが嫌というほど詰め込まれている。

 今では失われてしまったカンフーの技術なんかも、彼女のメモリー回路の中に脈々と息づいているのだ。


 大半は、僕が秘蔵する漫画や映画を元にしたテクニックなんだけど。


 だが、6体目までダウンさせたところで、シズカの動きがおかしくなってきた。

 それになんだか焦げ臭い。

 無理な動きがたたって、電脳と関節部が過熱状態になってきたのだ。


 目に見えて動きの衰えてきたシズカは、徐々に防戦一方に追いやられていく。

 5体の連携攻撃をしのいでいるうちに、再起動した6体が戦列に復帰する。


 化け猫どもは次々にジャンプして、加速度をつけてのニードロップ攻撃を仕掛けてきた。

 シズカは仕方なく、立ち上がって防戦に努める。


「11体が相互リンクして戦っているのです。このままだと危険です」


 見た目は11体でも、その実、11本の触手を振りかざす1匹の巨大なイカってところか。

 他の仲間が次に何を仕掛けるか、全てを理解した上だから連携のあくどさが半端ない。


 上からの猫パンチに集中していると、がら空きになったボディにキックを受ける。

 左右からの攻撃をバックステップでかわすと、背後からカウンターを食らう。

 このままだと危険だ。


「シズカっ、構わないから火器を使え。速射破壊銃をお見舞いしてやれ」


 相手が警視庁の備品だからといって、遠慮する必要はない。

 どうせ彼女らのマスターは、この不始末について「故障して誤作動を起こしました」で済ませる腹だ。

 二度とこのような不祥事のないように、深く反省してお詫び申しあげさせてやるんだ。


「わかった……」


 シズカの右手首がジャキンと音を立て、4本の指に仕込まれた加速管に特殊徹甲弾が装填された。

 次いで火器管制装置の照準システムが標的の自動追尾を開始する。


 その刹那、11体のボブキャッツが一斉に飛び上がった。

 シズカは標的が飛び出す際の初速と角度から、冷静に軌道計算を続ける。

 次の瞬間、4本の指から火箭が迸り、ボブキャッツはバタバタと撃墜される――はずだった。


 が、現実のシズカはフリーズしたままボブキャッツの飛び蹴りを喰らい、砂埃を巻き上げて参道を転がっていた。


「おいっ、シズカっ」


 どうして撃たなかったんだ。

 まさか、熱暴走でOSがシャットダウンしたのか。


 シズカは起きあがろうとするが、バランサーが狂ったのか、生まれたてのインパラのように藻掻いている。

 そこへボブキャッツの追撃が襲いかかった。


 彼女たちは境内に設置されている遊具の鉄棒を握ると、軽々と支柱から引きはがす。

 それをシズカに向けて力任せに振り下ろす。

 背中や後頭部を強打され、シズカは再度地面に突っ伏した。


 無抵抗のシズカに対し無慈悲な殴打が続き、ガンガンと耳を覆いたくなる打撃音が上がる。

 双方が無表情のため、どこか現実離れした光景に見える。

 鉄棒がひん曲がり、役に立たなくなるまで滅多打ちは続いた。


 沈黙したシズカに数体のボブキャッツがのし掛かり、ボディが動かないよう固定する。

 その上で、1体が腕ひしぎ十字固めの要領で右腕をねじり始めた。

 シズカの腕をねじ切ろうとしているのだ。


 肘の回線が切れたのか、ジョイント部からバチバチッと火花が飛び散った。

 同時にあがいていた手首から先がダラリと垂れ下がった。

 こいつら、シズカをバラバラに解体するつもりか。


「お前ら、止めろっ」


 思わず飛び出した僕の腹部に、容赦のない横蹴りが叩き込まれた。

 僕は後方に吹っ飛ばされ、ミーナ嬢を巻き込んで拝殿の舞台を支える柱に激突した。


「おげぇ……」


 胃の中の消化液が逆流してくる。


 おかしい。

 僕やシズカがこれほどの目に遭っているのに、何故かリミッターが解除されない。

 強化装甲も転送されて来ない。


 まさか、ミーナ嬢が見ている前だから、心理的なストッパーが掛かっているのか。

 それとも、リミッターカットを望むような余裕があるうちは、激昂したことにならないのか。


 こうなったら奥の手だ。

 僕はリストバンドの携帯端末を操作して、通話モードに切り替える。


「ベン、出番だ。ベンジャミンKC、カムヒアッ」


 僕が叫び終わるや否や、独特のエンジン音を轟かせて、愛機ベンKCが自律運転で境内に突入してきた。


「シズカを助けるんだ。遠慮は要らないから、こいつらをスクラップにしてやれっ」


 僕の指令を受けた忠実なロボカーは、咆哮を上げながらバトロイドモードにトランスフォームした。

 そしてシズカに駆け寄り、剛腕を振るってボブキャッツを払いのけた。


 一薙ぎに3体の糞猫が吹き飛び、ショックで機能を停止させる。

 装甲が貧弱なのか、彼女らの耐久性はかなり低いようだ。


 残りのボブキャッツたちはベンを敵と認識し、排除すべき優先順序の第一位として攻撃を開始した。

 ウェイトの差は如何ともしがたく、彼女たち渾身の飛び蹴りもスーパーヘビー級のベンには通用しない。

 レーザーメスを使った猫パンチも、ボディ表層を覆う無効化電磁波のせいで役に立たない。

 もっとも、ベンの大振りなパンチも、素早いボブキャッツを捉えることができない。


 互いに決め手を欠く攻防が続くうちに、敵方が撤退を開始した。

 いったん勝ち目なしと判断するや、連中の行動は実に鮮やかだった。

 いくさ場に未練を残さず、半数がベンを牽制しながら後退し、残りは背中を見せて四方に散っていく。

 続いて足止めしていた連中も、踵を返して迫りくる闇の中へと消えていった。


「ベン、追わなくていい。それよりシズカが心配だ」


 シズカに駆け寄ると、まだOSは稼働していた。

 だが、右肘のジョイントが外れ、回路が断線しているのか、肘より先が動かせない状態だった。

 ボブキャッツは、速射破壊銃が組み込まれた右手を一番危険な部位と認識したようだ。

 首を引っこ抜かれていたらお終いだった。


「直ぐに社務所に運んでください」


 ミーナ嬢が叫びながら、本殿脇にある小さな建物を指さした。


「兄なら、ここの神主ならどうにかできると思います」

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