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8話~ミルフィーユ、旅立つ~

私がこの家に来てからまた一年があっと言う間に過ぎた。


ロベルトの研究発表以降、毎日のようにロベルトの研究仲間が私を見るために、うちに来るようになった。


レベッカはまだ幼児の私が沢山の人と会うには体力の消耗が激しいと言う事、ボウルが人間を嫌う事の二つの理由で人を呼ぶ度にロベルトに怒っていた。


ボウルは時々レベッカに「気持ちはありがたいが我々は所詮奴隷だから。」とロベルトのフォローを入れていた。





そして、楽しかった日々は突然崩れる事になる。

その日はロベルトの帰りが遅く、私だけで無く、ボウルももう寝ようと地下にある奴隷部屋に降りていた。


「ロベルト、まだ戻らないの?」

いつも夕御飯を食べた後、私はボウルかレベッカにベッドへ連れていかれ、寝かし付けられていたのだが、今日は一度寝かし付けられた後、目が覚めてしまったのだった。


「ミルフィーユ、起こしたか?」

ボウルはベッドで目を擦る私に気を使う。


ちょうど、その時にボウルの耳は玄関の扉が開く音を聞いたらしく、一階の玄関の方を向き、ロベルトを迎えに上へ登ろうとする。

私もボウルの後を追い階段を登るが、そこでいきなりボウルに捕まり、口を押さえられた。


ボウルは私のモゴモゴする私の口を押さえながら、玄関の声に耳を傾ける。



「どうしたの、ロベルト?元気ないじゃない?」

いつも通りのレベッカの声だ。

どうやら、ロベルトは玄関に座り込み、深くため息をしているようであった。


「これを・・・ミルフィーユに飲ませてみろと言われた。」

ロベルトが少しの沈黙の後、何かをレベッカに見せているようである。


「特殊誘火剤?何これ?」


「前の研究発表で俺が火炎袋の話と仕組みを話しただろ?」


「うん。」


「これは、その火炎袋に反応させる薬なんだ。普通の人間が飲めば腹を壊すだけだが・・・。」

そこまで言ってロベルトが口どもる。


「壊すだけだが?火炎袋に反応するとどうなるの?」

レベッカの言葉がロベルトを心配する優しい声から急に冷たいものに変わる。


「爆発をする・・・。」

ロベルトが答える。

玄関がロベルトの言葉を最後に静まりかえる。




グルゥゥゥゥ・・・


私の口を塞いでいるボウルの喉から威圧するような感じの音が聞こえる。


「人間どもめ・・・。」

ボウルの表情も今だかつて無いほど怖くなっていた。




「それで?研究の為にミルフィーユの喉を爆発させるの?」

レベッカの言葉はかなりきつめに聞こえる。


「そんな事出来る訳無いだろ!!俺達を警戒しているボウルなら・・・いや、ボウルも無理だけど、俺達を信用しきってくれてるミルフィーユを裏切るなんて何を差し置いても出来る訳が無いだろ!」

レベッカの言葉にロベルトも声を荒立てる。


「けど・・・どうしたら良いか分からない。俺がやらなきゃ他の人が絶対にする。」


「そう。良かったわ。あなたがミルフィーユを殺すとか言い出さなくて。もし、殺すとか言い出してたらボウルとミルフィーユを連れて家出してたから。」

レベッカの声が、少し優しく戻った。


ボウルの表情も、元の顔に戻っていた。



「でも、どうするの?二人を隠そうにもこの家の地下もバレてるし・・・。他の学者どもなんて当てになりゃしないし・・・。」


レベッカの言葉にロベルトも返す言葉が無いようで、二人はまた黙り混む。




「二人を・・・逃がすか・・・。」

長い沈黙の後、ロベルトがポツリと呟いた。


「逃がす?」

レベッカがロベルトの言葉を繰り返す。


「ああ、そうしよう!二人に逃げられた事にすれば俺が役立たずと言われて終わる!」

ロベルトがレベッカに言う。


「ロベルト、それをしたらもう、二度とミルフィーユやボウルと会えなくなるわよ?」

今度はレベッカの声が震えだした。


「分かっている。逃げるなら学者の捜索網を抜ける所まで逃げなきゃ行けない。だけど、俺は、あの二人を殺したくないんだ。奴隷の首輪の鍵を取ってくる。」



ガチャッ


「あ・・・。」

ロベルトが地下へ降りる階段の扉を開けると、そこで盗み聞きをしていた私達はロベルトに見付かる。



「話を・・・聞いてたんですね?」


「ああ・・・。」

ロベルトの質問にボウルが素直に答える。


「人間を、さぞお嫌いになったでしょうね・・・。」


「元々俺は人間が嫌いだ。」

言うロベルトにボウルは冷たい。


「首輪の鍵を取ってきます。少し待ってて下さい。」

ロベルトは鍵を取りに地下の研究室へと階段を降りていく。



私はボウルの腕からするりと抜け出し、レベッカの元へ向かう。

レベッカは指で目を擦りながら鼻を啜っていた。


「どうしたの、レベッカ?どこか痛いの?」

私はレベッカが泣いていると思い、レベッカの心配をする。


レベッカはそんな私に笑顔を見せ、「大丈夫だよ。」と言い、私を抱き上げて、頬擦りをしてきた。


私を心配させまいと元気に振る舞うレベッカだが、目と鼻が赤くなっていた。




少しすると、ロベルトが奴隷の首輪の鍵を持ってきた。

最初に私の首輪の鍵を外す。


「レベッカ。ミルフィーユの荷物を纏めてあげて。」


「うん。」

ロベルトの言葉に素直に答えると、レベッカは私を抱っこしたまま、まずは自分の部屋に行き、小さくて赤いリュックサックを取りだし、地下の私達の部屋へ行く。


そして、私を降ろして、私の毛布を綺麗にたたみ、リュックサックに入れていく。



部屋の外ではロベルトがボウルの首輪を外し始めていた。


「奴隷の首輪を外す意味を理解しているのか?」

ボウルがロベルトに言う。


「分かっています。これを外すと同時に私はあなたの主人では無くなり、あなたは奴隷では無くなります。」

ロベルトは無表情でボウルに答える。


「俺はまだ、ミルフィーユを連れて逃げてやるとは言ってないぞ。」


「言ってないのでは無く、言うまでも無いのでしょう?」

ロベルトの言葉にボウルが黙る。


「あなたの人柄はこの三年間で理解しているつもりです。」


ガチャリッ


ボウルの首輪が外れる音がする。

ボウルは首をグイグイと曲げ、首の確認をし、ため息を付く。


「ここまで信用されたら裏切れないか・・・。俺もお前に感化されたようだな。」

ボウルはロベルトにそう答えると玄関へと進む。


「少し待ってて下さい。」

ボウルに言うと、ロベルトは自分の部屋へ走っていった。



私の部屋でレベッカは荷物を纏め終わると、そのリュックサックを私に背負わせてくた。

リュックサックを背負う私を見て、レベッカは「フフフ。」と悲しそうに笑って見せた。


「レベッカ、大丈夫?」

私はレベッカの顔が涙でぐちゃぐちゃになってたのでやっぱり心配になる。


「大丈夫!ミルフィーユのリュックサック姿が可愛すぎて、つい笑ったの。」

レベッカは私を抱き上げて、一階の玄関へ登っていく。



玄関に着くとボウルがロベルトの魔術師のフード付のローブを着ていた。


「ボウルさんの狼の顔は人目に付きやすいので普段は出来る限りフードを深く被って下さい。」

注意をしながらロベルトはボウルに手のひらに乗る大きさの袋を一つ手渡す。


「?」


「三十万ダーム入っています。路銀として使ってください。」

袋の意味を理解していなかったボウルにロベルトが説明をする。


「後、この国、エルンの王都からジールド・ルーンという国へ行く船が出ています。ジールド・ルーンは亜人も含め、奴隷制度を禁止している国です。そこまで着けばあなた方は比較的安全に暮らせると思います。」


「分かった。色々とすまん。」

ボウルはロベルトにお礼を言うとレベッカに抱かれていた私に目をやる。

レベッカが私を床にゆっくりと降ろすと、私はボウルの所へ走っていく。


ボウルは私の手を繋ぐと、「世話になった。」と言い、玄関の扉を開けようとドアノブに手をかける。


「待って!!」

扉を開けようとするボウルを呼び止めると小走りして私を抱き上げるレベッカ。



「おい・・・、レベッカ。」

私を抱き上げて鼻をすするレベッカをロベルトが横から力なく嗜める。


「分かってる。分かってるから・・・。」

レベッカが苦しそうにロベルトに答える。


「レベッカ、苦しいの?どこか悪いの?」


「ううん。大丈夫。ごめんね、ミルフィーユ。しっかりしなきゃね。」

私を下に降ろしすとレベッカはロベルトの胸にしがみついて肩を震わせている。

ロベルトはそんなレベッカを優しく撫でていた。



「別れを惜しむと辛くなる。悪いが行かせて貰うぞ。」

言うとボウルは私を抱き上げ、暗い夜の街を走り出した。

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