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5話~ミルフィーユ、雪を見る~

朝起きると、昨日、一緒に寝たはずのボウルの姿は見えなかった。


「ボウル?」


私はボウルの名を呼んでみるが返事は無い。

寂しくなって、私はベッドからそそくさと降り、地下にある部屋を出る。

一階へ続く階段を登ると、木で出来た扉が階段の先にある。


ギィ・・・


私は恐る恐る扉を開けると、鼻に美味しそうな香りが入ってきた。

その香りの方へと向かうと、その先にボウルとレベッカの姿があった。


「ボウル!!」

私はボウルを見付けると走りだし、しがみつく。


「おお。ミルフィーユ。起きたか?」

ボウルはしがみつく私の頭を優しく撫でてくれる。


「ミルフィーユ。ご主人様にご挨拶は?」

ボウルが私を優しく嗜める。

私はしがみつく手をボウルから放し、レベッカに会釈をする。


「おはようございます。」

私がレベッカに挨拶をするとレベッカは嬉しそうに笑顔を向けてくれた。


「あら?ご挨拶もちゃんと出来るんだね?おはよう、ミルフィーユ。」

レベッカは私の行動の一つ一つを確認し、そして誉めてくれる。

私は誉められるのと嬉しい気持ちになる。


「飯、食うか?」

ボウルが私にそう聞いてきた。


「うん・・・でもお外に木の実も虫もいなさそうなの・・・。」

私がそう言うと、ボウルとレベッカはキョトンとする。


「お前、ここにある飯は嫌いなのか?」

ボウルが私にそう聞いてきた。


「ううん。でも、お手伝いしてないから・・・。」


私がそう答えると二人は声を出して笑い出した。

今度は私がキョトンとする。



「はいはい。あなたの今の仕事はお手伝いじゃなくて元気に育つ事ですよぉ~。」

言うと、レベッカはイスから立ち上がり、私を抱っこしてテーブルまで運んでくれた。

皆のイスよりも高いイスが用意されており、私はそこに座らされた。


「一人でご飯食べられる?スプーンの使い方は分かるかな?」

レベッカが私にスプーンを持たせながら聞いてくる。


「うん。」

私はスプーンを握りしめて皿の中にある食べ物にスプーンを挿す。


「その握り方だと力加減が出来ないよ。スプーンはこうやって持つの。」

レベッカが私にスプーンの持ち方を教えてくれる。

スプーンをちゃんとに持つとあまりご飯を溢さないで食べられた。

それでも、不器用な私は少し食べ物を溢してしまう。

その度にレベッカは「後で掃除するから今は食べなさい。」と言ってくれた。


そして、私がご飯を食べ終わると、今度はボウルが立ち上がり、私の食器を片付けてくれた。

レベッカは私をイスから下ろし、私の溢したご飯を雑巾で拭き取ってくれる。


私は何をしたら良いのか?

何が出来るか?

と考えながら二人を見ながらオロオロする。


そんな私に気付き、レベッカが拭き終わった雑巾をボウルに渡し、私を抱き上げてくれた。



「なんでこんなに小さいのに気を使ってるの?」

レベッカは私に頬ずりをしながら聞いてきた。


「あ・・・、あの・・・。」

私は返事に困る。


「前のその子の主人が少しおかしな人間だったのだと思います。産まれての幼児が風邪をひいた位で凄い勢いで奴隷商人に食ってかかっていましたから。」

返事に困る私をボウルがフォローしてくれる。


「あら?赤ちゃんなんて、抵抗力低いんだから当たり前なのに?」

レベッカがボウルに聞き返す。


「だからおかしな人間なんでしょう。不幸な話です。」

ボウルが皿を洗いながらレベッカに答える。


「奴隷って苦労するのね・・・。まぁ・・・知ってて奴隷を買う私達もあなた達からしたら同類なのかな?」

レベッカは私を両手で高く持ち上げながらボウルに言う。

ボウルは返事をせず、黙って皿を洗い続ける。



「あ・・・。」

不意に私が外を見て、つい声を出した。

昨日は芝生で緑色だった庭が今日は真っ白になっていたからだ。


私はレベッカの手から飛び降り、窓からの景色をじっと見る。

空から白い綿のような物が沢山落ちてきている。

その速度は雨よりも遅く、ゆらゆらと優雅にも見える。

その白い綿は、芝生を覆う白い綿の上に乗り、その形をそのまま維持し続け、その上にまた新しく白い綿が乗る。

何故か、全ての音がかき消されたかのように周囲は静まり返り幻想的な風景をより深い物にしている。


「綺麗・・・。」

私は外の真っ白な風景に見とれる。


「雪って言うんだよ。」

レベッカが私の後ろに来て説明をしてくれる。


「雪?」


「そう。雪。凄く冷たいの。ちょっと待ってて。」

言うと、レベッカは部屋を出て、厚手の服を持ってきた。


「これを来て。一緒にお外行こうか?ミルフィーユのサイズの靴が無いから雪の上は歩けないけどね。」


「うん!」

私はレベッカの提案に二つ返事で答えた。




外に出ると、確かに昨日よりもずっと寒くなっていた。

だからレベッカは私に厚手の上着を着せてくれたのだとすぐに気付く。

後ろからボウルが不満そうに着いてきていた。



「ボウルは狼の亜人でしょ?走り回りたくなったりしないの?」

レベッカが不満そうに後ろに着いてきているボウルに聞く。


「ふん・・・。雪で、はしゃぐ馬鹿な犬と我ら狼を同じにしてもらいたくありませんな。私は雪程度ではしゃいだりはしませんよ。」

答えるボウル。



「本当はウズウズしてるよ。あれ。」

レベッカは小さい声でミルフィーユに告げ口をする。


「ボウルはカッコつけマンですね。」

私もレベッカの告げ口に、小さい声で答える。


ザクッ

ザクッ


レベッカが歩く度に雪が音を立てて潰れていく。

レベッカの歩いた後ろにはレベッカの足跡が一つ一つ丁寧に着いていく。

それが、凄く心地良さそうで、私も雪の上を歩きたくなってきた。


私は我慢出来なくなり、レベッカの腕からすり抜ける。


「あ・・・!」


突然レベッカの腕からすり抜けようとする私を止めようとしたレベッカは姿勢を崩し、転びそうになる。


「危ない!!」

と言う声と共に私とレベッカの体が何者かに抱き抱えられ、遠心力でガクッとなった。


ズササササッ!


雪を滑る爽快な音がし、最後にドンッ!って音がした。


そして、私は状況を理解する。

転びそうになったレベッカを助けようと、ボウルが走り、私達を支えてくれたのだ。

しかし、勢いの余ったボウルは私達を抱えたまま少し滑り、その先にあった木の幹にジャンプして両足の足裏を当て、止めたのだ。


「大丈夫か?二人とも?」

ボウルは木の幹に当てた足を雪に着地させながら私達の心配をする。


「ええ。ありがとう。ボウル。」

レベッカがボウルにお礼を言う。


「当然の事をしただけだ。」

相変わらずボウルは無愛想に答える。



ドサッ!!



そんなボウルを中心に木に積もっていた雪が一気に落ちる。

三人はまとめて雪まみれになった。


「これ・・・助けて貰わなかった方が被害少なくなかった?」

頭から雪を被ったレベッカがボウルに文句を言う。


「面目無い・・・。」

ボウルが答えるとレベッカはお腹を抱えて笑い出した。

私も釣られて笑い出す。



雪は冷たいけど、綺麗で楽しいから私は好きになった。

笑う私達を、いつの間にか顔を出してた太陽さんも見つめてくれていた。



その後、体が冷えたので私たちは家に戻り、お風呂に入った。

ボウルも一緒に入れば良いのに、何故か私とレベッカがお風呂から出るまで待って、後からいちいちお風呂に入っていた。


私達がお風呂に入っている間にボウルは台所で暖かいココアを入れてくれていたので、私とレベッカはそのココアを飲んでいた。




その後、お風呂から出たボウルも私達とココアを飲み始める。


「ところで、ロベルト様は今日はどちらへ?」

ボウルがココアを一口飲むと、レベッカに尋ねた。


「ロベルトは、学校よ。彼、召喚魔法使いの生物研究をしているの。」

レベッカはココアを飲みながらボウルの質問に答える。


「生物研究?昨日言ってたのが気になったのですが、ミルフィーユに研究を手伝わせるとは・・・何をするつもりなんですか?」

ボウルは少し声を低めにしてレベッカに聞く。


「あなたが思っているような残酷な事はしないと思うよ。彼は地上最強種の赤竜の研究をしているの。」


「赤竜の?」


「ええ。常識的に考えて、無茶でしょ?赤竜は竜の中でも一番獰猛で、一つの村が焼き尽くされたって言う話もある位だし。」


「ええ。赤竜に近付くなんて正気とは思えませんね・・・。」


「うん。でもね、恐くて危険だから生態を知って対策を練ろうとするのは間違いでは無いでしょ?もしかしたら彼の発表で沢山の人間の命を助ける事が出来るかも知れない。」


「しかし、現実問題。不可能でしょう?赤竜なんて、殺す事すら難しいのですから・・・生態調査は生きている赤竜が必要でしょうし。」


「ええ。そこでミルフィーユなの。ミルフィーユは赤竜の亜人。ミルフィーユの成長過程で赤竜に通じる物があれば、それが彼にとっては大切な研究資料になるのよ。」


そこまで話して、ボウルはレベッカに対する警戒を解く。



「ちなみに私はロベルトと同じ召喚魔法使いで肉体運動について研究をしているの。」


「肉体運動?」

ボウルがココアを一口飲み、レベッカを見る。


「ええ。私から見れば普通の子より成長が早いだけのミルフィーユより、あなた方が興味深いわね。」

そう言うと、レベッカは身を乗り出して、ボウルを見る。


「俺のどこに魅力が?」


「その脚力よ。ビックリしたわ。狼はいきなりトップスピードで走れるのね?普通は走るスピードは徐々に上がるの。何が人間と違うのかしら?」


「後、その腕。さっき私達を片手で支えてたわよね?ミルフィーユならともかく、私まで軽々持っちゃうんだもん。興味深いわぁ~・・・。」


色々難しい事を言うレベッカにボウルは黙ってココアを飲んでいる。


「そこから発展して、あなた達、亜人の遺伝のシステムにも興味があるの。」

何やら変なスイッチが入ったのか、レベッカの難しい話が止まらない。


「普通、遺伝子は進化をするのよ。より優秀な子孫を残すためにね。でも、ミルフィーユは最強の赤竜の劣化遺伝で亜人になってると言われてるの。でもこれってどうなのかしら?本当に劣化遺伝で亜人化しているのかしら?もしかしたら、竜の良い所と人間の良い所が出た超進化だったりしない?」


「普通、亜人は進化の過程を飛び越えて産まれる超進化生物とされているのよ。あなたもそうでしょ?強い狼の脚力や腕力。そして攻撃しやすいように顔は殆ど狼のまま。そのくせ、知能を上げるために脳や手は人間よりに出来てる。都合の良い進化をしてるんだよね?」



「・・・。」

「・・・。」


私とボウルは揃って黙り混む。

レベッカの言っている事が全く理解出来ないのだ。


「ココア・・・。美味しい。」

私はとりあえず、今思った事を口にした。

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