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2話~ミルフィーユ、命名~

ガタガタ・・・


私は揺れる中で心地よく寝ていた。


柔らかい布は優しく私を包み込み体を暖めてくれる。

揺れる箱は心地よく体を揺すって眠りをより良いモノにしてくれていた。


まるで今までが悪夢であったかのようにすら感じる。


太陽さん・・・元気かな?


私は鉄の棒の箱から外は見えない。

あの岩肌で唯一私を暖かく照らしてくれた友達である。

いつも食べ物をくれる人に太陽さんも連れてきてくれと頼みたいがそれを頼む言葉を私はまだ知らない。


そんな事を考えてると外から人の話し声が聞こえる。


「いやぁ~・・・まさか本当にいたとはな、竜の子ども。簡単に手に入った。これで五百万ダーム位で売れたらウハウハだぞ!」


「ああ・・・」


「どうした?浮かない顔をして?」


「いや、あのチビ、警戒心が全く無いしな・・・。なんかこのまま売るのが申し訳無くないか?」


「いきなり何言ってるんだ?楽して儲けるなんてありがてぇじゃんか?」


「・・・。」


「なんだよ?黙りやがって・・・」


「あの子、俺にくれねぇか?俺が育てたいんだ。」


「何言ってやがるんだ!?独り占めする気か?」


「違う!そういう訳じゃないんだ!亜人狩りもこれで終わりにしたい!!」


「お・・・お前何を言って・・・」


「頼むから、あの子は見逃してやってくれ!」


「・・・分かった。」


「本当か?ありがとう。」


「その代わり少し目を閉じてくれ。」


「ああ・・・。」




バンッ!


突然の大きな音に私は驚いた。

何が起きたのか分からないが、これを期に今まで食べ物を持ってきてくれてた人が私の所に来る事はなくなった。

そして、その代わり、毎日、パサパサした物を投げ込まれるようになった。

私はもっと人の発する言葉を聞きたかったので、毎日がまたつまらなくなってしまった。


しかし、そんな毎日もそうは続かなかった。

ある日、ガタガタ揺れるのが止まると何人かの人が突然、入ってきた。


「どうです?竜の子どもですよ?珍しいでしょ?」

最初に私を捕まえた人が数人の人を連れてきて何かを話している。


「凄い・・・しかも獰猛な赤竜の子じゃねぇか?」


「これなら六百万出す!」


「えっ?子どもでもそんな高額ですか?」


「大人はなつかないし、狂暴過ぎて手に負えないから逆に売れないからな。」


私にはこの人達が何を言っているのかが分からなかった。

ただ、お腹が空いたので早く何か食べたいと思いながらこの人達の話が終わるのを待っていた。



少しすると、会話が終わり、誰かが紙を渡し、それと引き換えに丸い輪っかを受け取っていた。

そして、私に近付くと、その輪っかを私の首に付けた。


私は布を着けるのは嫌では無かったが、この輪っかは硬くて冷たいから嫌だった。

手で引っ張ろうとすると、輪っかを着けた人が私の腕を掴み、「ダメダメ。」と言った。

そして、私の手を引き、鉄の棒で出来た箱から私を出してくれ、そのまま変な部屋からも連れ出してくれた。



「わぁ・・・。」

部屋から出た私はつい感嘆の声をあげた。

部屋の外は明るく、暖かい。

空を見上げると、太陽さんが着いてきてくれていた。


私は太陽さんに手を振る。

太陽さんはいつも通り明るく私を包み込んでくれてた。


私の手を引っ張る人はそのまま歩き続け、沢山変な形の岩がある場所へ連れてきた。

ここの岩は私がいた岩とは違い、人が出入り出来るようになっていた。

色は白かったり黒かったりしてて、所々に透明な場所があったりしていた。

私はその綺麗な岩を見てキョロキョロして歩いていた。


ぐぅぅぅ・・・


新しく見る風景が楽しくて忘れていたが、私はお腹が空いていた事にこの音を聞いて思い出す。

前からお腹が空くと、私のお腹が音を出して教えてくれる。


私の手を引っ張る人が私を見て、一度ニコッて笑ってくれた。


「お腹を空かせてるのね?この近くにミルフィーユの美味しいお店があるから、そこでお食事しましょう。」


私は言葉の意味は分からなかったが、この人の優しい笑顔に笑顔で答えた。


私の手を引っ張る人は少し歩き、全面が透明で出来た岩に入って行き、岩より少し柔らかいモノに座る。

そして、私もそれに真似をして座ってみた。


すると、すぐに別の人がやって来て、「ご注文は、何に致しますか?」と言って来た。


「ご注文・・・」

私は意味が分からず、その人の言葉を真似する。


「ミルフィーユと紅茶を。」

私の手を引っ張ってた人が言う。

私も真似をして答える。


「ミルフィーユ!」


「かしこまりました。」

そう言うと、ご注文の人はその場を離れていった。

私はそれを見送る。


「ふふっ。可愛いわね?私はディアンヌ。あなたは?」

私の手を引っ張ってた人が私に何かを言って来た。

私は意味も分からず知ってる言葉を返す。


「ミルフィーユ!」


「あら?偶然。私の大好きなケーキと同じ名前なのね?宜しくね。ミルフィーユちゃん。」

私はこの時にこの人の名前はディアンヌだと言うことを何となく感じていた。



それから、ディアンヌは私を呼ぶときはミルフィーユと呼ぶようになる。

何故、私をミルフィーユと呼ぶのか自分では理由が分からなかったがミルフィーユと呼ばれたら行くようにする事にした。




ディアンヌは私に言葉を教えてくれるようになった。

それは私が言葉を話せないと色々と不便だったからである。

そして、言葉を知り、初めて私は色んな事が分かって来た。


私がいた所は荒野と呼ばれる所だった事。

私は牢屋に入れられ、馬車で連れられてきた事。

私が身に付けてたのは服で、牢屋の中にあった箱はベッドと言い、柔らかい布は毛布と言った。

荒野にあった岩は岩で、今、私がいるのは街と言うらしい。

そして、街にある岩だと思ってたのは家と言う。


それだけではない。

ディアンヌが言うには、太陽さんは世界中のどこにいてもいてくれるらしい。

例え見えなくても、必ずいると言う。

私は太陽さんは何か凄い人なのだと実感した。



私は今、ディアンヌの家で暮らしている。

ディアンヌはイスに座り、テーブルでご飯を食べるが、私は床に座ってご飯を食べていた。

上手にご飯を食べられず、床に溢すと怒られ、外で座ってご飯を食べる時もあった。


夜は私は家の勝手口の横にある毛布にくるまって寝る毎日が始まった。


ここでも、朝になると太陽さんが起こしてくれる。

暖かい毛布にくるまれ、暖かい食べ物を食べられる毎日が私は嬉しくて仕方なかった。



私は朝起きると、私と同じ位の大きさの樽を持って水を汲みに井戸まで行く。

しかし、私の小さな体に樽は大きく、上手く樽を持つ事は出来ない。


水を入れると樽はなおさら重たく、揺れる水のせいでバランスを取りづらい。


「あ・・・。」


私は転んで樽をひっくり返す。

地面に転がる樽と無惨に流れる水。

私は何だか悔しくなり、声を出して泣き出す。


そこにディアンヌがやってくる。


「何をしてるの!水が無いと朝食の用意が出来ないでしょ!!」

ディアンヌは私を大声でしかる。

私は立ち上がり、涙を拭いて、樽を持ち、また井戸へ向かう。

バランスが上手く取れず、歩く足が定まらない。


「あなた、羽があるのに飛べないの?」


ディアンヌがミルフィーユの樽を持って歩くのを見て、聞いてくる。


「飛ぶ?」

私はディアンヌに聞き返す。


「あら・・・それは驚きね。飛べないんじゃ、樽を運ぶなんて無理ね。そんな小さな体じゃあ無理だわ。」

言うと、ディアンヌは私から樽を取り上げ、井戸へ歩いて行く。

私は申し訳なくてディアンヌの後を追う。


「邪魔だから来ないで!ったく、あの奴隷商人め・・・何が竜人だから何でも出来るよ!!」


私は付いて来るなと言われ、立ち止まり、井戸へ向かうディアンヌの後ろ姿を黙って見送った。


水を入れて戻ってくるディアンヌを見ると、私は精一杯の笑顔を作り、近付く。

しかし、ディアンヌは私と目を合わすことなく家へ向かう歩みを進める。


その日の朝食は貰えなかった。



しかし、空腹が辛いので私は庭の芝生の中にいる虫を捕まえて食べる事にする。

最近は美味しい物を沢山食べてきてたので虫が不味い事にいまさら気付く。

味は淡白で歯応えも悪い。

噛み潰す感触も気持ち悪いと思う。



ディアンヌは私が飛べないから怒ったのかな?



ディアンヌは始めは優しかった。

始めの一週間はご飯を食べさせてくれ、言葉を教えてくれた。

それが一週間後から色々やれと言って来た。

しかし、私にはまだ出来ないことが多すぎた。


料理をしようと包丁を持とうとしても小さい手では包丁が握れない。

掃除したくても、テーブルよりも低い背では床の雑巾掛け位しか出来ない。

しかし、雑巾掛けも上手く雑巾を絞れずに逆に床をべちゃべちゃにしてディアンヌに怒られた。

水汲みもやっぱり出来ない。


ディアンヌは奴隷として、家事をさせる為に私を奴隷商人から買ったらしい。

しかし、私が何も出来ないから段々機嫌が悪くなってしまったのだ。

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