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「これはわたくしが読んだ小説でのお話なのですが……」出っ歯令嬢がいった。「あなたの心はこのままでは魔王に囚われてしまいます。その人物は……女性の容姿に化けて兄様に近づき……わたくしから兄様を引き離すと……兄様から魂を奪って魔界に飛び立っていくのです」
まったく……論理性を欠いている。滑り川は再び頭を抱えた。
それは同人誌時代に頼まれて書いた出鱈目なファンタジー小説のプロットそのものだった。
なぜ、あんなものを書いてしまったのか……今となっては思いだすことさえできない。全てが面倒になった。
「要するにTwitterが凍結されていると僕の魂は地獄行きってことなんだね。それじゃあ、解決方法を示してくれるかな」
「ええっと……それは……」出っ歯令嬢がいった。いろいろと端折られてしまって困惑の表情。「とりあえず、このサイトの記事を参考にしてみてください」
投げやりだった。なぜ、このサイトを見つけることができなかったのだろう?──滑り川は令嬢から手渡されたタブレットに視線を落とした。
早速、記事を確認してTwitterトップページからヘルプページにアクセス。
アカウントがロックされているというメッセージが表示されている。
下にスクロール。
アカウントが誤ってロックされていると思われる場合はこちらから──クリックしてリンク先のページに素早く飛んだ。出っ歯令嬢が画面を覗き込みながらいった。
「それではアカウントの凍結もしくはロックに対して異議を申し立ててください」
「なるほど」滑り川はいった。「必要事項を記入していくよ」
私はロボットではありませんの項目にチェックを入れると、幾つかの画像を質問ごとにチョイスさせられた。突然、マウスを握った滑り川の指が止まる。
「ねえ、ここ、なにを書いたらいいの?」
文章を入力するスペースがあった。問題の詳細──意義の詳細を記入してくださいと下に記されている。
「そうですね……」出っ歯令嬢はいった。「唐突にアカウントが脈絡なくロックされてしまい天涯孤独に困っております。貧乏暇なしスマートフォンに大金支払う余裕なんてオラありません。どうぞ電話番号認証なしでロック解除していただけないでしょうか?──とでも記入しておいてください。確認しているのはロボットですから内容まではチェックしてませんよ、どうせ」
「なるほど」大きなため息をついて滑り川は送信のボタンを押した。