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創世の書  作者: マリヤ
第一章 赤の書
31/64

カリムの指輪と指定魔道具

「い、今のって……」

「ああ、間違いない。カリムの指輪だ」

 シリルとティムはイサラの指輪を見つめる。

 カリムの指輪とは、使用者の魔力を使って魔術と似た効果をもたらす魔道具の一つだ。魔術と違う特色としては、使用者が対象とするもの以外には影響を与えないというところだ。先ほど髪を燃やして敷物を燃やさなかったように。


 かつて、カリムという魔道具職人が考案し開発した古の魔道具。現代でも重宝される傑作魔道具の一つでもある。ただ、その効果の分製造が難しいこともあり、ごく一部の人しか持っていない。製法を知る人も限られている希少な魔道具でもある。

「イサラ、それどこで手に入れたの? それともまさか……作ったの?」

 イサラの知識と技術があれば不可能ではないとはいえ、滅多に見ることのない、けれど誰もが知る有名な魔道具にシリルの声が少し震える。


「はい、自分で作りました。魔術の代わりに使用する魔道具の一つです」

 まさかとは思ったが案の定だ。普通の人にはできないとされていることを、平然とやってのける。憧れはするものの、頭もいたい。

「そうか……一つってことは他にも? そういえばさっき指輪の話をしてたけど……」

「はい、八属性一通りそろえております」


 イサラの指には、どの指にもいずれ一つは指輪がはまっており、そのうちの八つは似た作りになっている。違うのは指輪の石の色だけ。他にも腕輪に足首にもアンクレットを数種類着けている。魔道具と知らなければ成金趣味の装飾過多に見える。

「それはカリムの指輪で間違いないんだね? どこで製法を?」

「本で名前と効果を知り、同じことができるように自分で考案しました」


「自分で考案した? 作り方を学んだわけではなく?」

「はい、製法は秘されていると記されておりましたので。ただ、効果と形態さえ分かっていれば、そこに至るまでの工程と素材は推測できます」

「なっ、ならば君は本を読んで、形状や効果さえ記されていれば再現して作り出せると?」

「はい、物によっては難しい場合もありますがたいていは可能です。一度作ればアレンジも可能になりますし」


「アレンジ?」

「はい、わたしが付けている指輪はカリムの指輪をアレンジして、残りの七属性に対応させたものです。すべて使用者の任意対象にのみ効果を及ぼすつくりになっております」

 カリムの指輪は火を生み出すことしかできない。下手に手を加えようとすれば、全ての効果を失ってしまうとされている。そのため、どれだけ有用でも他の属性に対応させることができないでいた。それを、イサラはやってのけたというのだ。


「わたしとしても実物は見たことがないので、本当に同じものかどうかの検証はできておりません。ただ、同じような効果や見た目の物ではあると思います。実際には全く別物であるという可能性も排除できませんが」

 本物を見たのなら、寸分たがわず再現できるが、あいにくと書物で得た知識をもとに作り出された品は完璧とはいかない。同じことができようと、同じものである保証はない。イサラはあくまで結果と形態から推測したに過ぎないのだから。

「でも、その魔道具って反則臭いんだぜ?」


 レオルは少し不満げな顔をする。イサラが使えない魔術の代わりといって作り出した物のため文句を言えた義理ではない。だが、その効果を知ればすねたくもなる。イサラが魔道具をフルに使えば、魔術を使えるはずのレオルも歯が立たないのだ。おまけに魔力の消費は魔術より効率がよく、その効果も魔術より使い勝手がいい。

「反則?」

 使用者の任意対象にのみ効果を絞れるとはいえ、魔術のような多様性があるわけではない。それなのになぜ反則なのか。シリルはレオルに聞き返す。


「だってよ、それ、魔術も対象にできるんだぜ? 俺が火の魔術を放っても、そいつを魔道具の炎が呑み込んで焼き尽くしたりするんだぞ? やる気無くすだろ普通、そんなことされたら。それに、魔術の弱点はさ、あんまり自分と相手が近いと自分の魔術に巻き込まれる可能性があるから使いづらいところだろ? なのにそんな心配なく、超至近距離でも放てるんだぞ。自分には全く影響しないのに、相手だけその効果によってダメージを受けるんだ。一方的な試合にしかならねぇよ。イサラが魔道具使って魔術対戦したりしたらな」


 かつてレオルも何度もそれで苦い思いをしてきた。自ら挑んだとはいえ、さすがに泣きそうになった。こちらの魔術は一切通じず、向こうの魔術は一方的にこちらに届く。どんな鬼畜プレイだと、挑んだ自分を殴りたくなった。

「えっ、カリムの指輪ってそんなことまでできたっけ? 対象を魔術にするなんてこと……でも、もしそれができるなら確かに一方的ね」

 シリルも知識として知っているだけで、実際に見たことも使ったこともないため確信が持てない。だが、レオルの話が本当ならある意味最強ではないか。魔力があって使い方さえ心得れば魔術を使うものに対して相当な脅威になる。


「いや、カリムの指輪にそこまでの機能はなかったはずだ。もしあるのなら戦争で利用されなかったはずがない。だが、あくまで日用品の魔道具として伝わっている。戦いの場で使えないこともないだろうが、あくまで牽制程度の効果しかない。火力として初級並しか出せないはずだから」

 シリルよりも詳しいティムが否定する。カリムの指輪は確かに傑作品だが、そんな伝説級になりそうな力はない。それならもっと歴史にも魔道書にも大きく取り上げられているだろう。国の管理下にあるはずだ。


「そうなのですか? わたしは使用者の任意対象のみに影響を与えるという効果を忠実に再現したつもりでしたが……火力に関しては指定などありませんでしたし。対象に魔術を含まないというような記述もありませんでしたので」

 カリムが目指していたものも、もしかするとそこだったのかもしれない。しかし、当時の知識と技術ではあれが限界だったのだろう。イサラは時を越えてカリムの理想を実現させたのかもしれない。カリムが作りたかった本当のカリムの指輪を。

「じゃあ火力や対象に関しての制限はないの?」


 ないとするならまさしく最強の魔道具の一角になる。使用者の魔力次第であらゆる応用が可能になる。まさしく魔術の使えないイサラにとって弱点を補って余りある効果をもたらすわけだ。

「そうですね、火力は込める魔力に依存しますし、対象に関しては任意であれば制限はありません。ですから、使い方によっては恐ろしい兵器にもなるでしょう」

 魔力を多く込めればそれだけ火力は上がるし、使用者の任意でなんでも対象にとれる。レオルが反則だというのもうなずける。それを使えば防ぎようのない攻撃が可能になる。


「魔術を対象とする時には、その魔術と同程度の魔力を込める必要はありますが、それさえできれば必ず打ち勝ちます。また、攻撃対象を相手自身に指定すれば、防具や服を透過して直接攻撃も可能になります。もう少し掘り下げますと、相手の魔力そのものを対象とすることも可能です。肉体を傷つけずに、魔力のみを攻撃し、強制的な魔力切れに陥れることも不可能ではありません」

 ファンダリアの生物は多かれ少なかれみな魔力を持っている。そして、魔力は体力・気力と共に体を支える重要な力の一つでもある。それが切れると動くこともままならなくなり、ひどくなれば意識を失う。


 魔力が切れたかといって死ぬことはないが、行動が封じられることに違いはない。そうなれば後は相手の思うままだ。身動き一つとれず自身に降りかかる運命を受け入れるしかない。

「それは……危険なものだな。特一級指定魔道具に入るレベルだ。だが、このことは胸の中にしまっておくことにしよう。君は本当のカリムの指輪を知らなかったようだし、その魔道具もちゃんと登録は済ませているのだろう?」

「はい、全ての魔道具は届け出が済んでおります。最も、ほとんどが自身で開発製作した物ですので、その分に関しましては指定の別なく個人責任、ということになっております」


「そうだろうな。個人製作の魔道具まで責任は見れないということだろう。そのカリムの指輪達も、持っているのが君なら安心だ。それはあくまで魔術の補完をするためで、それ以外に使用する気はないだろう?」

「はい、これらは日常的な魔術の代わりとするための魔道具です。使用者も限定し、わたしにしか使えません」

「そうか、ならいい。……今更ながら君が国と敵対しなくてよかったと思うよ」

 ティムは安堵のため息をつく。魔道具とは一般に家庭用品として販売されている魔道具を除き、ほぼすべてが指定魔道具というカテゴリに入っている。


 指定魔道具とは所持することだけで危険をはらむと判断された魔道具のことだ。どの魔道具も使い方次第ではあるが、効果や範囲が広かったりと影響力が高いものもある。

 そのため魔道具を購入、あるいは入手して所持したい場合はその国に届け出を出す必要がある。届け出を出し、許可が下りるとその人の所持魔道具として登録されて使用することが可能になる。許可を得ないで魔道具を所持・使用していると犯罪になり、その重さは所持している魔道具の指定ランクによって決まる。


 指定ランクは特一級~三級、第一級~五級までの八段階に分かれている。特級ランクの魔道具は所持が認められておらず、それを知っていて持っているだけで国際手配ものの扱いになる。なぜならそのランクの魔道具は、それ一つで街一つを破壊できるほどの威力を秘めているためだ。

 特級ランクの魔道具は、見つけ次第、もしくはそのランクが判明次第国が回収するという措置を取る。イサラの持つカリムの指輪はそれだけの効力があるということだ。通常のカリムの指輪は、一般に所持が許可されている魔道具の中で一番上のランクである第一級指定魔道具にあたる。


 イサラは本物のカリムの指輪を知らなかったため、それを模して作った個人製作の魔道具もカリムの指輪の模造品として届け出を出した。また、それをもとにしてアレンジした他の属性のカリムの指輪も同様だ。

 基本的に個人製作の魔道具は全て個人責任で面倒を見ることになっている。届け出は必要だが、指定ランクのリスト入りすることはなく、ただ所持魔道具として記録されるにとどまる。

 それは個人製作の魔道具は認可を得た専門家の作り出した魔道具に比べて不具合や誤作動が起きやすいという欠点があるためだ。認可を受けて初めて閲覧や使用が可能になる知識や技術もある。まれに優れた作品もあるが、ほとんどは製品として売り出されている魔道具に及ばない。


 そのため、どのような魔道具を作り出したとしても個人で使用するなら、法を犯さない限り何が起ころうと個人責任として所持していいことになっている。

 個人製作の魔道具を他人に譲渡したり販売しようとしたりする時には、認可を得る必要がある。もちろん、専門の資格も指定以上でなければならない。それに合格すれば、認定技術者として一定の信頼を得て一般販売が可能になる。

 そうなると、何かあった場合認可を与えた国の責任ともなるため、製品は全て査定を受けて指定ランクのリストに載せられることになる。


 イサラの場合は、専門の資格は持っているが認可は得ていない。個人製作した魔道具を自身で使っているのでリスト入りしていないのだ。カリムの指輪は魔術の補完として制作したため、数も一揃いしかない。

 魔道具を知らずに所持していた場合どうなるかというと、特例として罪には問われない。ただ、そのまま所持したい時には登録する必要がある。もっとも、それが特級ランクであった場合は問答無用で没収される。

 魔道具所持の許可は基本的に届け出さえすればすぐに許可が下りる。手続き的にも簡単なため、通常は買った店頭か、見つけた場合は近くの町の施政所で行うことが多い。その時に専門家による鑑定が行われるため、間違って禁止指定魔道具を所持する危険性もない。


 魔道具は一人いくつでも所持していいが、その内訳は全て登録記載されているため、違法行為を行えば直ちに割り出しが可能で、近日中取り押さえられることになる。

 ミール村では色々と魔道具が利用されていたりするが、そのすべては無認可扱いされている。通常であればあり得ない措置なのだが、最初に認可を得ようとした時、製作者や発案者が十歳にも満たないイサラだったため、許可が下りなかった。

 中にはカリムの指輪のように特級に指定されるほどの効果を持つのでは? というものもあったのだが、本気にされず鑑定や査定もされていない。個人製作の魔道具をミール村全体で使いたいなら認可を得る必要があったのだが、これでは使えないことになる。


 困ったイサラはやんわりとだが諦めず言葉を尽し、村人達はやんやと猛抗議した。結果として、妥協案というか放置策が取られることになる。つまり、それらの魔道具を村の中と村人のみの流通と使用に限るという条件を持って普及を許可されたということだ。

 国としては幼い子供の個人製作で、効果や耐久性も不明で危険な魔道具が氾濫しては困る。だが、ミール村は周辺に国の主要施設も他の町村もない辺境の村。たとえ魔道具が暴発しても村人や、辺境の村一つが消えるだけで済む。ある意味見捨てたと同義だ。村人達にもその意図が分かり、それならばあとから有用だと分かっても決して渡さないと啖呵を切った。


 ちなみに、イサラ達の靴やヤックは魔道具には当たらない。効果は魔道具じみているというより超えている感が強いが、根本的に異なる部分がある。

 魔道具とはあくまで所持者であり使用者の魔力によって起動する代物だ。だから、魔力を込めなければただのアクセサリーと同じだ。だが、靴もヤックも使用者の魔力によって効力や機能が発生しているわけではない。

 巧みに組み込まれている魔法陣や魔石によって自動魔術が起動して効力や機能が発生している。起動や維持に使用されているのは周囲の無色の魔力であり、所持者には何の負担もない。


 自動魔術は基本的に補助や防御に使用されるためか、魔道具のように所持するにあたり届け出を出して許可を得る必要はない。製作自体も安価にできるため広く普及し、消耗品でもあるため把握管理が難しいためだ。また、同じ効果を持つ魔道具と自動魔術なら、魔道具のランクにもよるが基本的には自動魔術の方が効果が低い。

「能動魔術の代わりの魔道具はカリムの指輪だけなの?」

「はい。これらは使い方次第でいくらでも応用がききます。他者の魔力から自身の身を守ろうとすればどうしても他の魔道具も身に付けなければなりませんし、あまり増やしましても数が多くなりすぎますので」


 数に制限はないとはいえ、あまり魔道具を身に付けすぎるのも自分で魔道具の管理ができなくなって危険だ。最低限の数で済ませる必要がある。イサラが能動魔術の代わりをカリムの指輪にしたのはその汎用性の高さから。日常生活にも戦闘時にも使えて、望み通りの効果を得られるため。本来は戦闘時には使えないことを知らなかったのはご愛嬌だ。

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