両断
チャイムが鳴り、玄関を開くと女性が立っていた。
金髪碧眼の、一目でわかる外国人だ。
長袖の薄い藍色のワンピース、その上から、肩・胸・腰・両手・両足に銀色の防具を身に付けている。
部位が少ないせいで軽装にも見えるが、金属製の装備はものすごい重量があるだろう。
肩越しに、背負っている剣の柄らしきものも見える。
女性は、カシャンカシャンと鎧を鳴らしてボクへ詰め寄り、憎しみのこもった眼で激しくまくし立ててくる。
全体的に巻き舌で、ところどころに濁音がはいり、語尾に『ニャ』が多い。
ロシア語かもしれない、とは思うがまったく意味がわからない。
理解できないでいるこちらの様子を前にして、女性はじょじょに落ち着きを取りもどした。
軽い咳払いをして仕切りなおし、今度はゆっくりと話を始める。
聞き取りやすく、なにを発声しているのかはわかる。
やはり意味はわからないものの、言葉のときどきに母の名前が混じっていることがわかった。
居間にいる母を呼ぶ。
ソファーに寝転がってくつろいでいるはずだ。
すこし待つが何の返事もない。
寝ているか、テレビの音で聞こえないのだと思う。
そうして居間へ声をかけているボクのスキを付いて、女性は玄関にカラダを滑り込ませ、家のなかへはいり込んだ。
ボクの横をすり抜け、テレビの音がする居間へと一直線に進んでいく。
文句を言おうとすると、女性は左手のひらをかざしてボクを制し、こちらを鋭くにらんだ。
そして、右の人差し指をクチビルに当て『静かにしろ』と合図する。
その真剣な表情に、思わず従わざるを得なかった。
静かに、女性の背中越しに居間をのぞく。
居間ではソファーの背がこちらを向いており、母はその上でおかしな体勢をとりグッスリと眠りこんでるように見える。
音を立てぬように気をつけながら、女性は背負っていた大剣を引き抜く。
大きな刀身に似合わず、濡れているかのような美しい刃。
目の前に現れたそれに、凶器に感じる恐怖よりも、思わず見惚れてしまうほどの妙な感動を覚えた。
女性は勢いよく居間へ飛び込む。
そのまま大剣が振り下ろされる。
狙うはソファーのド真ん中。
ザクンッ、と大きな切断音。
ソファーがまっぷたつになり、床へ大剣が突き刺さる。
寝ていた母も――
いまさらになりそんなことに気が付き、ボクは正気を取り戻した。
「母さん!」
いそいでソファーの正面へ走る。
あたり一面に赤いモノが飛び散っている。
だがそれは、赤い花びらだった。
――ハイビスカス?
ソファーの上に眠る母だと思っていたモノは、大量のハイビスカスを包んだ母の寝巻きだった。
両手いっぱいに花をすくい上げ、呆然と女性を見た。
真っ赤な顔で、怒りとも困惑とも恥らいとも取れない表情で震えている。
突然、ののしるような単語を叫びながらガシャガシャと装備をはずし、投げ捨てていく。
すべての装備をはずした女性がワンピースだけの服装になる。
ボクを押しのけて、服と花を払いのけ、まっぷたつになったソファーの片側へ座った。
ため息をつきながら、突き立てられた大剣の側面によりかかり、女性はテレビを見始める。




