最初が『ス』で最後が『キ』ってな~んだ?
俺の幼なじみは『残念』だ。
顔は可愛い。
スタイルもいい。
料理も美味い。
名前も五十鈴天音で結構綺麗。
でも『残念』。
その残念な幼なじみと初めて逢ったのは小学校一年生の時。
ただのクラスメイトのはずだったが、なにがどうしてこれほどまでに長い付き合いになると誰が想像出来ただろうか。
その残念な幼なじみは俺の目の前にいた。
長い黒髪をなびかせ。
細く白い指でその黒髪を梳いて。
俺を呼び出した校舎の屋上で小さく深呼吸。
呼び出されてもう五分くらいが経過したが、未だ天音は深呼吸を続けていた。
もう帰ろうかとも思ったが天音のヤツが屋上の扉を背にしているため帰ろうにも帰れないでいた。
そしてようやく長い深呼吸が終わって、天音はキッと。柔らかい印象の垂れ目の瞳を俺に向けて、
「最初が『ス』で最後が『キ』ってな~んだ?」
そう言い放った。
だから俺はそんな天音に答えるようにして言ってやる。
「帰る。そこどけ」
「ひどいよぉ」
「いや。ひどくない。またいつもの問題だろ。そんなの聞き飽きてるんだよ。ほら、そこどけ。早く帰ってドラマの再放送が見たいんだ。テレビ局の過去の栄光にすがりつきたいんだ」
「やっぱりひどいよ、たっくん」
たっくん。
つまりは俺の名前の周藤辰哉のことを天音はそう呼ぶ。
いい加減小学校で付けたニックネームを呼び続けるのはやめて欲しい。
もう、俺たちは高校二年生なんだぞ。
でも天音は呪われてるんじゃないかと思うほど俺の呼び名を訂正しない。
だからいつしか俺も諦めた。
「ねーねー、たっくん。それで答えはなーに?」
あー……そういえばそうだった。
「知らねーけど?」
「うぅ……」
「…………」
「うぅ……」
「…………」
「うぅ……」
「…………」
「うぅ……」
「………………はぁ」
答えないと帰してくれないらしい。
そう。こういうところが五十鈴天音の『残念』であるところだ。
なんというか……問題好きとでも言えばいいのだろうか。
何かにつけて天音は問題をつける。
分かりやすい例をいうと『いくつに見える?』とか普通同級生に聞かないような質問を投げつけたり、『今日のお弁当の中身は何でしょう』とか開ければすぐに分かるような問題を小学校一年生の時からずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと聞いてきた。
だから今日のこれもそれなんだろう。
俺は大きくため息をついてからもう一度天音に問題を尋ねた。
「えっと……なんだっけ? 最初が『ス』で最後が『キ』ってなんだって質問だっけか?」
「うん」
ふむ。
何だかいつもと趣向が違う気がする。
いつもならクソどうでもいいことを問題にするのだが、今日のは何だかなぞなぞっぽい。
最初が『ス』で最後が『キ』?
とりあえず思いついた言葉を口にしてみる。
「すき焼き」
「違う」
違ったか。
「水滴」
「違うよぉ」
これもか。
「ストライキ」
「違う」
「水溶液」
「うー……たっくん。わざとなの? 簡単でしょ」
いや……結構難しいだろ。
「ステーキ」
「泣いちゃうよ」
「いや。泣かれても分からないものは分からない」
「じゃあ。ヒントあげるね。それは…………私の、大切な……大切な……ものだよ」
「大切なもの……?」
ふむ。
しばらく考え込んで、
「あっ」
思いついた。
天音の顔が赤くなる。
なるほど。そういうことか。
そりゃ顔も赤くなるってもんだ。
でも……こういうのは男の口から言った方がいいだろう。
意を決してから、
「スポンジケーキ」
と言ってやると天音は芸人ばりにこけた。
「な、なんでっ!?」
「いや……お前ケーキ好きじゃん?」
「言っちゃったよぉ!」
「は?」
「だ、だから…………答えはこれだよ」
勢いのまま天音は顔を近づけた。
交錯する息。
そして。
「――――――――――――ッ」
重ねられる唇と唇。
少し湿った唇の温度が高まる。
頬と頬が触れてしまいそうになるほど顔が近い。
天音の黒髪が鼻にかかり、少しくすぐったい。
息が直接肌に触れ、恥ずかしい。
「……………………………………ぇ」
意味が分からずにフリーズ。
天音が離れると香りもまた離れる。
ポンコツPCばりに固まっていると、天音が頬を真っ赤に染めたまま言う。
「答えは……最初が『ス』で最後が『キ』。だよ」
『残念』だと思っている幼なじみが『残念』である。
そんな意味合いの強い関係を書いてみました。
ほとんど息抜き&その場の思いつきで書いたのでアレかも。
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