自殺 手術
目が覚めたら、見たことのない真っ白な天井だった。気が付きましたか、と寄ってきた人も知らない人。それから集まってきた人の中にも、知っている人はいない。
助かったんだよ、と優しそうな声が言う。ぼーっとした頭でそれを聞いた。どうでも良かった。思い出したように、左の手首が疼く。見ると、真新しい包帯が巻かれていた。隠れて見えない、よく知っている傷。
私が生きていた証と、死のうとした証。
なんで助かっちゃったんだろうな。そう呟くと、優しかった顔が険しくなった。バカバカしく感じてもっと言葉を続ける。またやろうかな、今度はバレないように。
馬鹿なことを言うな、いい加減にしろ。さっきの声が怒鳴る。命を大切にしろだの在り来たりのことをのたまう。もっともらしいことを言って責任も取らないでなんでこんなのに助けられてしまったんだろう。耳が痛いのを堪えて、もうあんたに迷惑かけないように死んであげるからと吐き捨てたら、そいつは作った優しさを投げ捨てて真っ赤な顔で立ち上がった。
そしたら、隣でそっぽ向いていたひょろひょろな男が、苦笑いしながらなだめる。怒りがおさまらないそいつを部屋から追い出して、私に向き直った。
「いいよ、いつでも戻っておいで」
何言ってんの?だから、次は無いって言ってんじゃん。そう言ってもその男は優しそうな顔を変えなかった。
「頼まれなくても、助けるよ」
「君が、どんなに死にたくても」
「僕は、今までたくさんの命を救ってきたんだ」
「君に負ける気はしないよ」
そう言って笑った。優しく強い言葉で笑った。傷ついたわたしの手を握って、頼りない表情で笑った。
「だから、いつでも戻っておいで」
私とそいつの勝負が始まった。
完




