バレー 幼なじみ 別れ
光の中で舞うあの子は、私の知っているあの子とは違うようで物寂しく感じる。遠すぎて見えない表情はきっと私の知らないものだ。見た目も随分と変わっている。けれど、一目であの子だとわかる。不思議なものだ。
長く長く続く音楽に息を詰める。不安や緊張なんかとは違う感情であの子を見つめる。私がいることには、気付いていないだろう。何も知らせていない。あの子からも何も知らされていない。たまたま見に来たその時に、たまたまあの子がいた。それだけだ。
それだけなのに、まるであの子が私のためだけに踊ってくれているように感じる。まるで、別れの時を惜しむように舞っているように感じる。伸ばされたその綺麗な手が、指先が、私を引き留めているかのように感じる。
音楽が終わり、あの子は深々と頭を下げる。この場に来た多くの人に対して、頭を下げている。私は席を立った。もう行かなくては。
その時に、あの子と目が合った。驚きと喜びと寂しさが混じったような表情で私を見つめる二つの目。音も時も呼吸も何もかもが止まった世界で私たちはしばらく見つめ合っていた。今までの会わなかった日々の記憶とかつて共に過ごした思い出が頭に流れ込む。なぜ会えなかったのか会わなかったのか。覚えていたのか忘れられなかったのか。会いたかった、ずっと、会いたかったのに……。
先に目を逸らしたのは私だった。背を向けて会場を出る。あの子はきっと追ってこれない。わかっている。
タクシーを捕まえた。空港までと短く伝える。おしゃべりな運転手はさっきまで私が観ていたバレーの発表会を語る。知り合いが出ているから見に行きたかったと語る。
「そうなんですか、全然知りませんでした」
雑踏がひしめく街に降りた。耳障りな音が鳴り響く。
耳の奥で、あの時のあの子が踊っていた音楽が微かに聴こえていた。
完。
バレー見たことないという言い訳。




