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うちの息子はどうやら転生者と呼ばれる存在だったらしい。破滅フラグの立った私は

作者: みかん
掲載日:2015/03/22

 私はランドサイド辺境泊だ。

 妻とは政略結婚で結ばれたが、浪費が激しい女でもない。

 穏やかな性格で私は満足していた。


 5年前、長男が生まれた。

 金の巻き毛にコバルトブルーの瞳の可愛らしい子供だった。


 跡継ぎが出来たので妻も役目を果たせてホッとしたようだ。

 夜泣きが酷く、目を離すとどこに行くかわからないほどヤンチャで妻やメイドや乳母の手を煩わせたが、そんな苦労も苦にならないほど可愛いかった。


 そして3年前、ブルネットの髪でコバルトブルーの瞳の次男が生まれた。



 まさかそれが私の破滅をもたらすとは……。





 次男は異様におとなしい手のかからない子供だった。

 文字も教えていないうちに本を読んでいる姿を見かけた事もある。

 これが絵本ならわかる。文字ばかりの本を黙って見ているのだ。

       

 それにあの目!

 何もかも見透かしたように大人をジッと見つめる姿。

 我が子ながら不気味に感じた。



「旦那様、申し訳ありませんがお暇を頂きたく思います」


 ある日メイドと乳母が揃って仕事を辞めたいと言い出した。理由を語る事を渋る2人をなだめすかし、どんな理由でも罰を与えないと確約して、やっとどうにか聞き出したところ、次男のせいであった。


「貴族様の坊ちゃまに対してこんな事を言うのは不敬でございますが……」

「あの……あたしが悪いんです。あたしが怖がったばっかりに」

「ルイーザ、あんたばかりじゃないよ。旦那様、あの子は……」


 躊躇う乳母に話をうながした。


「ご次男のエクス様は……取り替え子じゃないでしょうか? 」


 考えてもみない言葉に驚いたが、子供らしくないエクスが取り替え子と言われてストンと気持ちが納得した。可能性はあるかも知れない。


「申し訳ございません」


 しばらく物思いにふけっていたら2人の嗚咽がきこえた。

 ハッとして頭を上げる。


「いや、すまん。怒っているわけではない。お前たちの言いたい事はわかった」


 話し合いの結果、もし次男が取り替え子でなければこれからもこの家に仕えてくれる事となった。


「して、判別方法はどんなものがあるのか言ってみろ」

「あたしの村では、子供を入れたフライパンを火にかけて憑き物を落とします」

「わたくしの村では鞭打ちで正体を暴きます」

「ふむ」


 私はしばし考えて決める。


「よしお前たち。エクスを鞭で打ち据えてみせよ」

「「か……かしこまりました」」


 



「おとうさま!ルイーザ達が変なのです。たすけてください」


 様子をみようとエクスの部屋に行ってみると、息子がベッドに縛られて鞭打たれていた。

 説明したにも関わらず、共に部屋に来た妻が息子の姿を見て飛び上がる。


「あなた!これは酷すぎるのではないでしょうか? 」

「伝承によると、取り替え子は口が上手く情に訴えるものらしい」

「でも……」

「騙されるな」


 尚も言い募る妻を無視して、乳母から鞭を取り上げる。

 そしてエクスを力いっぱい打ち据えた。


「正体を現せ! 」

「おとうさま?! 」

「中身は妖精か?トロールか?わたしの息子を返せ」


 エクスが泣きわめく。背中の皮が剥けて白い肉が見える。

 真っ白なシーツに赤い花が散った。


「ぼくはエクスです。妖精なんかじゃありません」

「まだ言うか。お前のような子供らしくない子供がいるものか! 」


 鞭を振るう度に小さな身体が跳ねる。逃れようと蠢くが縛られている為に自由が効かない。その姿が虫のようで気味が悪い。生理的嫌悪感から余計に手に力が入った。


 いくら鞭を振るおうとピクリとも反応しなくなって来た時に妻が間に入った。

 乳母たちが血を見たせいか真っ青な顔でぶるぶる震えているのが見えた。


「もうやめて下さい! 」

「うるさい!邪魔するな! 」

「もしエクスが取り替え子ならもう逃げているはずでしょう? 」

「……」

「あなた。お願いです」

「……ふん、好きにしろ」


 肩で息をしながら呼吸を整える。全く気持ち悪い子供だ。長男の子供らしさを思い出しながら寒気を覚える。

 取り替え子でないにしろ薄気味悪いことには変わらない。


 子供部屋に背を向けようとして、ふと気づく。


「ルイーザ、ハンナ」

「「は……はい」」

「約束だ。これからも仕えるように」

「「かしこまりました」」





 その一件からというもの、エクスはメイドたちを怖がらせることもなくなった。ハンナは『やっぱり妖精付だったのでございますよ。旦那様のおかげで妖精が逃げ出したのでございます』とニコニコしていた。


 だが私はそうは思えない。

 底冷えのするような視線を感じてそちらを向くと、いつもエクスがいた。しかし私が目を向けた時は、たいていニコニコと微笑んでいるだけなので何も言えない。

 やはり火にあぶってみるべきだったのではないだろうか?


 エクスは何も問題も起こさなくなったが、私はあの子の眼が不気味だった。

 必要以上に近づくのをやめた。

 そんな私に妻は、エクスにも優しい言葉をかけるように何度となく頼んできたが、全くそんな気持ちになれない。



 愛すべき長男はすくすく育った。多少はワガママも言うこともあったがそれも可愛い。ねだられて何頭馬を買ってやっただろうか。そんな長男も成人した。もう安心だ。これでエクスも外に出すことが出来る。どこに厄介払いすべきか。


 そんなある日、執務室にいる私の下に長男が駆け込んできた。


「お父様!エミリアと婚約したいのですが」

「ウィリアムス。なんだいきなり」


 エミリアは家令の子供だ。確かに近隣で一番可愛らしいとは思う。しかしもっと良家の令嬢との縁もあると説得したが、エミリアとでなければ家を継ぎたくないと言われてしまえば仕方ない。


 家令に婚約の話を持ちかけてみると、青ざめた顔を見せた。


「旦那様、娘はエクス坊ちゃまと…」

「エクスと…どうした?結婚の約束でもしたのか? 」

「いえ……その……」

「私は息子(エクス)から何も聞いていないのだが? 」

「…いえ、何でもございません」

「後でエミリアをこちらに呼びなさい」


 家令が反射的に顔を上げる。


「……旦那様」

「なんだ?」


 家令は懇願するような目を向けたが、主人に何かを要求するような不作法な真似はさせるつもりはさらさらない。黙って顔を見続ける。心が折れたのが家令の表情を見てわかった。それでいい。


「……何でもございません。」

「ああ、ウィリアムスを呼べ」

「かしこまりました」

「娘には余計な話をしないように」


 家令が顔を青ざめさせたまま退室した。

 あの者もこれからある事を悟ったに違いない。

 エクスが関わっているのならば行動は早い方が良い。


「お呼びでしょうか? 」


 少ししてノックと共にウィリアムスがやって来た。


「父親には話を通した。お前の望み通りエミリアを妻にすると良い」

「本当ですか?ありがとうございます!お父様」


 ウィリアムスは顔を輝かせて私に抱きついた。

 可愛い息子の喜ぶ顔を見れて満足だ。


「後でエミリアを連れて行く。部屋に戻って待つと良い」

「はい! 」


 喜んで部屋を出ようとする息子を引き留める。


「ああ、部屋に戻る前に、ここにエクスを呼ぶように」


 ウィリアムスは一瞬きょとんとした後に、ニヤリと笑った。


「わかりました、お父様」





 コンコンとノックが響く。


「入れ」

「お呼びでしょうか、お父様」


 エクスが執務室へやってきた。

 ニコニコしているが、相変わらず表情が見えない瞳をしている。


「お前の兄の婚約が決まった」

「おめでとうございます。どちらのご令嬢でしょうか」

「家令の娘のエミリアだ」

「?!」


 エクスの瞳にゆらりと何かの感情が揺らめいた。


「……なぜエミリアなのでしょうか? 」

「どういう意味だ? 」

「跡継ぎの妻ともなればそれにふさわしい身分の女性がいるでしょう」

「もう決まったことだ」

「ですが……」


 私の言葉に逆らうとは。お前は黙って言うことを聞けばよいのだ。


「エミリアの父親の了承も得た」

「えっ?まさか……」

「お前は兄の祝福も出来ないのか? 」

「っ?!」


 コンコンとノックの音が聞こえる。


「入れ」

「旦那様、お呼びと伺いました」


 エミリアが入ってくる。

 エクスの姿を目にした途端、まるで花が咲いたような華やかな笑顔を見せた。

 綺麗な娘だ。本当に家令の娘なのか疑うくらい美しい。


「エクス、話は終わった。下がれ」

「……お父様! 」

「下がれと言った」


 エクスは私を見、エミリアを見つめ、下を向いた後でキッと前を向く。


「失礼いたします」


(後で話がある)

(わかったわ)


 立ち去り間際、エクスがエミリアへ囁く声が聞こえた。興奮したせいだろうか?ひそめている声が思ったより大きくてこちらにも届いていた。

 やはり先手を打って正解だったようだ。駆け落ちでもされたら大変だ。2人が消えた後のウィリアムスを想像しただけで胸が痛む。


「さてエミリア、父親から話は聞いたのか? 」

「いえ、何も。ただ伯爵の言い付け通りにしなさいとだけ」


 ニコニコ笑う姿を見て安心する。命令通り何も言わなかったようだ。


「ついてきなさい」



 執務室を出て、ウィリアムスの部屋の前に着いた。


「私だ。入るぞ」


 ノックをして返事を待たずに扉を開ける。

 ベッドに腰をかけていたウィリアムスが跳ねるように立ち上がった。


「エミリア!来てくれたんだね」


 エミリアは自分を抱きしめるウィリアムスの身体をやんわりと引き離そうとしながら、こちらを見た。


「あの、これはいったい何が? 」

「なに、きみとウィリアムスの婚約が決まった」

「えっ?!」


 エミリアの表情が固まった。


「父親にも了承済みだ。私はこれで失礼する」

「エミリア。幸せにするよ」


 ウィリアムスは彼女を強く抱きしめる。


「待って下さい」


 引き留める声を無視して部屋を後にする。目の端にウィリアムスが彼女を抱えてベッドへ歩く姿が見えた。


「待って、い……いやぁー」


 叫ぶ声を遮るようにドアを閉めた。厚い扉に遮られて声が消える。






 あれからずっとエミリアはウィリアムスの部屋に居る。

 メイドの報告によると、食は細いが大人しくしている様子を聞いて安心した。


 ふと、ウィリアムスのために辞めたメイドたちを思い出す。

 若気の至りだ。妻も出来てこれで落ち着いてくれるに違いない。


 いつの間にかエクスは姿を消していた。

 冒険者になると母親へ言い残していたようだ。


 これで跡継ぎが出来たら文句なしだ。満足して仕事に戻る。





「キャー誰かー奥様がー! 」


 あれから数年。

 跡継ぎが出来て安心していたある日、エミリアが庭で倒れていた。

 どうやらベランダから落ちたらしい。


 よく窓辺でつぶやくように歌っている姿が目撃されていたので、自ら命を絶ったのか事故なのかはわからない。まだ子供が小さいのに迷惑なことだ。


 年老いた家令は肩を落として仕事を辞めた。

 亡くなった娘を抱き締めた背が小さく見えた。

 考えてみればあいつももういい歳だ。

 充分な恩賞を与えることにしよう。



 エミリアが亡くなってすぐにウィリアムスが言った。


「お父様、隣の領主の次女と結婚したいのですが」

「次女のアリーナ嬢と言えば昔からのお前の友人ではなかったかね? 」

「そうです」

「周りへの対面もある。少し期間を開けたらどうだ? 」

「子供が小さいから女手があったほうが良いだろうと言ってくれたのです」

「……」

「お父様! 」


 欲しいとなったら本当に我慢出来ない子だ。仕方ない。


「好きにするといい」

「ありがとうございます」


 キラキラと顔を輝かせている息子の顔が見れるなら安いものだ。


「もうすでにお前はここの領主同然だからな」

「はい!」

「女だけじゃなく領地のこともしっかり学ぶんだぞ」


 まるで子供の頃のようにウィリアムスの頭を撫でてポンポンと肩を叩く


「隣国のきな臭い噂を聞くからな。私は外に注意しておこう」




 隣国は最近ずいぶん景気が良いようだ。

 新しい産業、新しい雇用、かなりの金が飛び交っていると耳にした。


 私も一口噛もうとしたがことごとく無駄だった。

 おかしい。我が領内の羊毛は他に並ぶ物すらない上質だ。

 人が動くならそれだけ衣料も必要とされるはずだ。

 納得がいかない……だが売れないものは仕方ない。

 別な物で商売が出来るように考えねば。




「なぜだ!! 」


 私がテーブルを叩くと目の前の商人が飛び上がった。


「申し訳ございません」


 目の前の男が小さく縮こまる。


「馬車が足りなくてあまりこちらに来られないのでございます」


 私はイライラしながら目の前の男を見る。

 商人が来るのが極端に減った為に、領内の食料不足が続いていた。


「わかった。もう来なくて良い」


 商人はあからさまにホッとした顔を見せた。


「だが、もう二度と我が領内で商売をするな」


 男の慌てる姿が目に出来るかと思いきや、嬉しそうな顔をするので怪訝に思う。睨みつけると慌てて表情を変えた。


「待て!」

「し、失礼します」


 逃げるように立ち去る男と入れ替わるようにウィリアムスが入ってきた。商人はウィリアムスにも慌てて頭をペコペコ下げて逃げて行った。

 ため息をつく私にウィリアムスは笑う。


「商人ごときにお父様が煩わされる必要はありませんよ」

「そうもいかないんだがな」

「それはそうとお父様」

「なんだ」

「アリーナに新しいドレスが必要なので王都へ行ってきます」


 この資金難に何をやっておる。

 ウィリアムスの顔を睨みつけると困った顔を見せた。


「またか……こんな辺境には夜会の数も多くない。必要ない」

「田舎だからこそ、そんな楽しみしかないのです。少しぐらい良いでしょう。アリーナが可哀想です」



 物も売れない、食料不足は続いている。

 だんだん余裕がなくなってきているんだがな。

 わざとらしく大きなため息をついた。


「もうお前が領主だ。領内のこともきちんとみなきゃ駄目だぞ」

「わかりました」


 ウィリアムスはわかりやすく嬉しそうに部屋を出ていった。




 どうしてこうなった?

 頭を抱える。


 目の前には跡継ぎである3歳になった孫を抱える黒づくめの男がいる。

 気を失った孫の頬には痣が残っていた。


「お願いだ。私の孫を返してくれ」


 涙ながらに訴える私に向かって男は鼻を鳴らした。


「返してどうなる?俺のように鞭で叩くのか?」


 男がマスクをずらすと、そこにはコバルトブルーの瞳が覗いた。


「エクス?! 」

「この子はエミリアの子供だ。子供には罪がない。俺が育てる」

「何をばかなことを、その子はランドサイド家の跡継ぎだ」

「残念ながらランドサイド家は消える」

「なんだって?!」


 エクスは羊皮紙を広げてこちらに見せた。


 そこには、借金の返済の為にこの土地が消えることを意味する文章があった。最後の署名にはウィリアムスの名が記されていた。膝から崩れ落ちる。


「そんな大金をお前が持っているはずが無いだろう」


 悪あがきのような私の言葉に対してエクスはニヤリと笑って答えた。


「あいにく隣国で成功してね、金も地位も権力もある」

「領内に商人が来なくなったのもお前の仕業か」

「どうでしょうね」


 ニヤニヤとこちらをあざ笑う顔がいまいましい。


「やっぱりお前は取り替え子だったんだな! 」

「正真正銘あなたの子です。とてもとても残念ですが」


 エクスは悲しそうな顔でこちらを見る。


「あなたは選択を間違えたのです。あなたのおかげで、俺はいまだにベッドへ背中を向けて寝る事が出来ない。そしてまさか、エミリアを見るのがあなたの執務室での一瞬が最期とは思わなかった」


 首をふる息子、いや息子だった化け物が雰囲気を変える。膨れ上がる黒い気配。私はどうなるんだろう。そして妻は?ウィリアムスは?





 殺される事を覚悟したが、アイツは黙って去っていった。


 ホッとしたのもつかの間。

 領地が借金のかたになったのが王にバレて、私は捕まった。


 ウィリアムスは自分の妻と共に逃げたが国境で捕まったらしい。


 私の妻は修道院に入った。


 他国に土地を渡すわけにはいかない為、国同士の話し合いで領地は王家直轄領となった。エクスに対して大金が払われたと噂に聞く。


 どうやらアイツは隣国の王に直接対話が出来る立場らしいな。

 私の妻に刑が及ばないように策をこらしたようだが……ハッ。バカバカしい。アイツの言葉を振り切って修道女になったようだ。全てが思い通りになるとでも思ったのか?


 私はいま牢に入っている。

 他の貴族への見せしめとして首を落とされるようだな。


 アイツのせいだ。

 アイツがあんな気持ち悪い子供でなければこんな目にあわずに済んだのにな。


 いまでもアイツを鞭打ったのは間違いでないと思っている。

 間違えたのはあそこでアイツを殺さなかった事だ。


 異端児を殺して何が悪い。


 あぁ、可哀想なウィリアムス。エクスに騙されて。

 せめてあの子だけでも助からないだろうか?


 よせ、お前たちごときの身分の者が私に触るでない。

 断頭台ぐらいひとりで行ける。


 私の首が木で固定される。


 あぁ、あぁ、ウィリアムス


 王よ、私の首は差し上げよう。家名も諦めよう。


 ウィリアムスの命だけは……ウィリ…アム…ス……。







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[良い点] 着眼点 [気になる点] 元々、この手の現地住民の魂だかを殺して乗っ取るタイプの転生者は好きじゃない。 [一言] この手の現地の住民の身体を乗っ取る形での転生。 本来あるべき乳児の自我の代わ…
[一言] 糞☆親父
[一言] ぶっちゃけコレ 家が破滅したのは嫡子を甘やかしてちゃんと教育しなかったからじゃないかな?
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