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探し者  作者: 千斗
第一章 地獄屋
4/12

4

 ――僕に興味がある?こんなどこにでもいるような男子大学生に?

「悪いか?」

「いえ、悪くないですよ?ええ、勿論」

 何か機嫌でも損ねてみろ、その三秒後には僕の命は無いだろう。

 そう言った僕を地獄先輩はじっと見て――ふっ、と笑った。

「やはりな」

「何がですか」

「夏凪、お前はやはり、人間を観ることに長けている」

 人間を観る?人間観察ということだろうか。僕自身にはそんな自覚はない。例え無意識のうちにやっていたとしても、一般的で通常的な何の特徴も無い僕の人間観察が長けているなんてことは無いはずだ。

 そういうことを複合して。合わせて。付け足して。

「人間を観ることに長けているのは、地獄先輩の方ではないですか?」

 と僕は聞いていた。

「俺が人間を観ることに長けている、か。そんなことは百も承知だ。そもそも俺は人間を観ることを幼い頃から知らず知らずやっていたような人間なんだ、長けていて当たり前だろう」

 幼い頃のことなんて知るはずもない。

 僕としてみても、もしかしたら地獄先輩は人間観察が趣味ではないだろうか、と思って聞いた程度で――というよりは自分が人間を観ることに長けているなんて言われたからかも知れないが――幼少の頃からしていたなんて思いもよらない話だ。

「それでだ、夏凪」

 地獄先輩は話を元に戻す。

「何故俺がお前を人間を観ることに長けていると思ったか、それは大学入試なんかよりもよほど簡単だ」

 地獄先輩がそう言ったのは。

 僕がそのこと長けていると言ったのは。

 それはよくよく考えてみれば当たり前のことで一般的なことで、もしかしたら僕の存在なんかよりもよっぽど普通なことだったかもしれないのに。

 僕は気付いていなかった。

「お前はどうして俺の方が人間を観ることに長けているなんて思ったんだ?」

 簡単な答えだった。

 誰だって……小学生だってわかるだろう。

 僕が地獄先輩を観ていたから、地獄先輩が観ることに長けていると判断したなんて。

 僕が無意識に地獄先輩を含めたくさんの人間を観ていたとき、僕はずっと地獄先輩に観られていたということになるのだろう。

 お互いが知らぬ間にお互いを観ていたために、お互いが人間を観ることに長けているとわかっていたのだ。

「地獄先輩はいつから僕を見て……観ていたんですか?」

「お前を初めて見たのは……たしか入学式の日だったな。その時のお前といったら、まるで周りの人間を品定めでもするかのように観ていたよ――まぁ、それを言ったら俺も毎日同じことをしてるがな。俺はその姿をみて、お前に興味が湧いたわけだ。俺と同じ事をするやつにな。お前の情報は俺のネットワークにしてみれば簡単に手に入った……おっと、それは企業秘密だ……しかし、情報を手にしても接点がなくてはどうしようもない。そしてチャンスが来たんだ。何か手はないかと模索している俺のところに舞い込んだ朗報だ。お前が心理研究サークルに入るというな。そこまで来たならばあとは簡単だと思っていたが案外難しいものでな、戸西の力を借りることになったわけだ――不本意ではあるが」

 地獄先輩はそこまで一気に話すと、僕を拘束していた紐をほどいた。

「地獄先輩、やっぱりそこまで話を聞いても、拘束された意義がわかりません」

 地獄先輩は「すまなかった」というだけで、それ以上は説明しなかった。

 僕としては説明がとても欲しいのだけれど、今の地獄先輩はなんだか――なんと言うか、わくわくしている様子で、野暮なことは聞けない(いや、いつでも聞けない気はするが)感じだった。

「地獄先輩、貴方の話を要約すると、僕に興味があるが故に……もっと分かりやすく言うならば僕と関わりを持つために、戸西先輩と共謀して僕をこの状況にさせたということで間違いないですね?」

「共謀と言われるほどの犯罪行為はしていないし、だいたい、戸西の協力を仰ぐのは不本意だったと説明したと思ったが」

 戸西先輩はともかくとして、地獄先輩は訴えれば十分に起訴される可能性があると思うのだが。

「夏凪、これから時間に余裕はあるか?」

 唐突な話だ。いや、実際流れ的にはそんなに唐突な話でもないのかもしれない。

 スマホを取り出して予定を確認すれば、今日の予定はテストなら0点をとれるほど真っ白だった。

「ならばもっと話をしたい。上がっていけ」

 そういえば、玄関のようなところに転がされたままだった。

 しかしどうしたら良いものか。会ったのは初めてでなくとも、話をしたのは初めてな人の家に軽々しく上がり込めるほど僕のメンタルは強くない。だが地獄先輩、断ればどうなるか、容易に想像がつく。

「心配するな夏凪、悪いようにはしない。それに俺はアッチ系の人間でもないからその辺りも心配する必要はないぞ」

 いらない心配までされていた。

 そこまで押されれば、断る方が失礼というものかもしれない。

「それでは、お言葉に甘えて」

「なら早く上がれ、話したい事も――話すべき事も山ほどある」

 話し始めてからずっと、地獄先輩の顔が嬉しそうにしているのが見えたのは、やっぱり僕が知らないうちに人間を観ているからなのかもしれなかった。


投稿が遅れ申し訳ありません。

少しでも早い投稿を目指します。


2014.5.24.Sat

千斗

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