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先日の大きな集まり以降、心理研究サークルに目立った動きもなく、通常活動を毎日行っていた。通常活動は何人かのグループに分かれ、やりたい研究をする。それだけだ。地獄先輩を例とするように変人揃いのこのサークルだけあって、研究内容も個性的。あるグループなんて、人がトイレで何を考えるか、という研究をしていた。
僕が何の研究を始めたかなんてのは気にする事じゃない。気にしたってしなくたって、その研究に変化はないのだから。
サークルが終われば、僕はそそくさと帰宅する。寮生でない僕にとって、大学近辺に居続けるのは時間の浪費だ。
そんな折に声をかけてきたのは戸西先輩だった。
「帰り際にごめんね!ちょっとだけ時間貰えるかな?」
「大丈夫ですけど、何かありましたか?」
「うん、届け物を頼みたくって。引き受けてくれないかしら?」
僕に届け物を頼むということは、心理学部生か、一年生への物だろうか。なんにせよ、戸西先輩の頼みとあらば断る理由もない。もちろん答えは「はい」だ。
「ありがとう!助かるわ~、なにぶん私寮生だから、中心部の人になかなか渡しに行けないのよ……」
戸西先輩が寮生であるということを初めて知った。いや、まぁ知っている訳もないのだが――。待て、なら何故戸西先輩は僕が中心部に住んでいると知っているのだろうか。話した覚えもないが……
「それで、その渡して欲しい物と届け先なんだけど……」
思考は戸西先輩の声で停止する。この人はやはり人に何か影響を与える力でも持っているのだろうか。戸西先輩は鞄から何やらプリントを数枚取り出した。
「これ、地獄君にお願いね」
◆◆◆
「お願いね……って……」
言われてもだ。よりにもよってまさか地獄先輩だとは思いもしていなかった。よく考えてみても欲しい。地獄先輩は本名さえも明かしていないのだ、そうそう探しだせるものではないだろう。が、そこはやはり戸西先輩だ、抜かりがない。「これを見ていけば着くから大丈夫よ」と簡略化された地図と住所が書かれたメモを渡されたわけだった。
渡されたわけではあるのだが――
「どんだけ裏道入って行ったら着くんだよ……」
大学からアパートへ帰って来たのが五時。その後すぐに出発したにも関わらず現在時刻は六時。戸西先輩のメモを見る限りではアパートからそれほどの距離でもないはずなのだが、一向に着かないのだ。ただひたすらに中心部の入り組んだ裏道を歩き続けているだけ。こんなことになるなら戸西先輩の頼みと言えど断るんだった、そう思わざるを得なかった。
さすがに休みたい。裏道に入りすぎたせいで自販機も無いために水分補給もきちんと出来ていないのだ。
と、そんなときだった。目の前に現れたのは江戸時代にありそうな長屋のような建物。玄関には赤提灯。中央に『地獄屋』と書かれている。
――地獄屋?地獄?もしかしてここは……
「何をしている」
気配もなく僕の真後ろに現れたのは、地獄先輩その人だった。
投稿が遅くなってしまってごめんなさい。
今後ともよろしくお願いいたします。
2014.5.2.Fri
千斗