第四話:男は格好よく見られたい
デー・・・・・デッデン♪デデッデデン♪
苛立たしげにうろうろと何をするでもない男が一人。
彼の今いる場所はこの土地で一番安全で快適な場所。
そんな場所に居れば何でも出来るし彼に逆らう者は全て牢獄に入れるなり処刑するなり、彼の自由だ。
何も恐れるものはない。だと言うのに彼のこの苛立ちはなんだというのだろうか?
「おい、退屈だから誰か俺様を楽しませろ!」
何とも曖昧な、それでいて自分勝手なことを言う。
彼はこの地の現領主。
先代領主・白木 蓮太郎の息子、名を白木 星衛門と言う。
生来の気の短さ、強面と相まって基本的に人の上に立つことには向いていない人物だ。
そんな彼が領主をしているのは父である先代がぬるい治め方で武力を持たなかったことにある。
統率する父が病に倒れれば側近連中が代わりに領地をまとめるなり余所の領主に便りが届くものだが、それを全て息子である自分と、それに付き従う者で封じ込め、領地経営を無理矢理引き継ぐ。
反対しようものなら金と力でどうにでもする。
勿論、星衛門は愚かではあるが馬鹿ではない。
こんな領地経営が長続きするはずないが、それでも自分が何不自由なく一生を過ごす程度に金はあるのだ。
それに彼は人の悪意に敏感であり、彼に取り入ろうとする輩は、悪意があると分かれば即座に切り捨てる。
相手と顔合わせをし、挨拶してくる最初の段階ですでに敵かどうかの判断が出来る星衛門は、挨拶中に攻撃することが出来るのだ。
どんな悪人でも、挨拶中に斬られることを想定する者はいないので容易に殺されてしまう。
よもや挨拶中に攻撃してくるような失礼な人間が存在するなどと露ほども思わないだろう。
だからこそ、これまで生き残ってきたのだ。権力と悪意察知能力の高さで。
現領主――白木 星衛門は日々を暇つぶしとして怠惰に暮らす。
そうしていつものように、星衛門の退屈を紛らわせる芸人なり武芸者なりが来るのだが、今回やってきた者は少しばかり常と違うようだ。
「どうも、あなたの退屈しのぎにやってきました」
「よし、入れ」
短い会話で部屋に招く星衛門。
警備は万全なのだから「恐怖」という感情をほとんど失っている。
この退屈しのぎの相手が悪意を持っていないのは星衛門の感覚的に分かっている。
これから入室してくる人間は自分の金や地位を奪おうとする悪意あるものではないということが。
「失礼します」
やってきた男は襖を開けて入室するが、それと同時に星衛門の鼻面に渾身の拳を叩きこむ。技前!
「ぐわー! な、何をする!? 貴様、刺客か!?」
「どうもどうも、芸人だが楽器を忘れました。
だから武芸を披露しました」
「俺様に試すなー!」
当然、やってきた男というのは我らが主人公、剣御礼 八突だ。
八突の拳は音よりも光よりも速く、そして重い!
「というか俺様の悪意察知能力が作動しないだと!?
貴様は何が狙いだ!?
俺様の金が目当てじゃないのか!?
悪人ではないというのか!?」
「いや、俺はお前が酷い奴だって聞いたから懲らしめに来ただけさ。
お前さんは悪意には敏感らしいが、俺が持つこの感情は『義』だ!
悪意察知能力なんざに引っかかるはずがあんめぃ」
「た、確かに!」
そして短いやり取りで八突は当初の予定を変更することなく、決断的速度で素早く星衛門の背後に回り込み、羽交い締め拘束をする。
「まぁ、退屈しのぎ云々の冗談は置いといて、だ。
お前さんは少しやり過ぎた。
だから俺もやり過ぎな位に好きなようにさせてもらおうか」
八突の拳が星衛門を羽交い締めにした状態から顔面に繰り出される!!
おお、見よ! これぞ八突が最初にお狼を見ても動じなかった胆力に直結する喧嘩殺法の一手、『ブシ・パンチ』だ!!
この『ブシ・パンチ』とは、古代に生息していた伝説の武士達があまりの威力に封印し、口伝によって一部の武士にのみ伝わる拳技のことだ。
これが使えるということは、すなわち八突も武士ということになる。
「あばばばばー!」
星衛門、失禁と同時に失神。
それを見て笑みを浮かべるお狼も部屋に入ってくる。
「どうだお狼?
これが俺の必殺突き『ブシ・パンチ』だ!」
「どうでも良いが、殴って倒して終わりかい?」
「当然これだけなはずがない。
近くで公衆伝書鳩を見つけ次第、俺の親父に連絡して領主の代理が務まる人を寄越してもらうさ」
なんてことないように一般人には不可能なことを言ってのける八突。
しかし八突のこの技前を目にしたお狼には、惚れた相手であることを差し引いても信じるだけの理由があった。
「八突、お前さん古代武士の技が使えるということは武家の出身かい?」
「いかにも。
俺ぁ、この国のタイクーン(将軍的な役職)を務める剣御礼家の息子でね。
だがまぁ、今の俺は旅に生きる根なし草であって、親父の権限を何一つ継いじゃあいないし気安く接してくれりゃあいいさ。
それとも惚れた男が権力者の子ってことに引いたか?」
「ふん、それを知ったところで態度が変わらないのが、あたいさ。
あたいは獣だが、オスを見る目はあると思っているさね。
たまたま惚れた男がそうだった、それだけのことよ」
「言うねぇ~、うっかり惚れちまいそうだぜ♪」
「それが目的だからねぇ♪」
こうして鬼長谷の地に再び平和が訪れ、八突とお狼の旅は続くのだった。
もう少しマシな悪人を出してもいいですけど、それだと私の好きな「軽さ」が出せませんからね。
本格的な悪人や犯罪行為は出来るだけ出さず、事件は未然に防ぐもの。
でもまぁ、起きてしまったものは仕方ないよねってな具合で行きます♪




