第一話:山の狼にご用心
はじめましての方ははじめまして。お久しぶりの方はお久しぶりです。
今回は旅する主人公とそれに着いていくヒロインのいたって普通の物語です。
そこに勧善懲悪の要素を入れて、時代劇っぽくなるかなぁ~と妄想していたらいつの間にか訳ワカメないつもの展開になっていたってなお話です。
とりあえず読んでみてください♪
夜の山を歩くというのは、そう容易いことではないだろう。
それも月の無い新月の夜ときた日にゃ~、大の男でも震えあがっちまうものだ。
獣は腹を減らして活動し、地面にしても常と変わらないのに闇夜と言うだけで危険を増している。
そんな山を一人歩く男がいた。
「この辺は特に暗いねぇ~。
一寸先も見えやしない」
ひょろりと細長く伸びた背丈に、これまた細長い四肢。
だが背が高いために細く見えてはいるが、その身は鍛え抜かれて引き締まり、年相応に若さと力強さに溢れた男だった。まさに戦う男の体だ。
そんな男だが、灯りも持たず、腰にも背にも荷物らしいものを何一つ持たないが、どうやら旅人のようだ。たぶん。
「しっかし、荷物を前の村の宿に忘れてきたのは失敗だったか?
いや、でも気付いたのがこの山に登り始めてだから戻るくらいなら道中で新しくこさえた方がいいだろう。
取りに戻らなかったのは失敗ではないはずだ。たぶん」
やはり男は旅人で、荷物は単に忘れただけのようだ。
そしてそれを気にも止めぬ辺り、度量というか考え無しというか……。
まぁ、それこそがこの旅人、剣御礼 八突の生来の持ち合わせであり、荷物のすべてと言えるだろう。
その持ち合わせの度量一つで、暗い山道を灯りも無しに登る八突。
一人旅というのは野営と自衛が出来るかどうかが命を左右すると言っても過言ではないというのに、何も持たない八突の歩みには、むしろ楽しげな雰囲気さえあった。
いま八突がいるのは山の中腹ほどのところ。
歩いているのも獣道。とても人が歩けるような登り易さなど皆無の厳しいもので、先ほども言ったように普段と変わらぬ道でさえ闇夜は危険を増している。
八突にしても最初から危険な獣道を歩いていたわけではないのだが、
彼の様子から分かる通り考え無しで歩いている内に逸れてしまったのだろう。
もちろん、今この場に八突以外の人間の姿はないので一人旅なのは間違いない。
「……さて、うしろのお嬢ちゃん。
付いてきているのは分かっているよ。
姿を現しちゃあくれないか?」
この場には八突だけしか『人間』はいない。
「面白いね~、お前さん」
八突の背後――灯りがない山道である為、距離も分からないが――隠れるでもなく堂々と付いて回っていたのは一匹の狼。
だがその身は、ひょろりと伸びた八突の体が小枝のように思えるほどの巨体だ。
そりゃ隠れるも何もあったものじゃないさ。
「お前さん、人間にしちゃあ鋭いもんだね。
人間ってのはもっと鈍い生き物だと思ってたよ」
「お褒めにあずかり光栄だねぇ。
だが、お嬢ちゃんほどのべっぴんさんの気配を気づけないようじゃ、俺も男を名乗れないんでね」
「人間である以前に雄であることを示す……ねぇ~。
お前さん、なかなか面白いじゃないか。
何よりも、あたいのこの姿を見ても恐れないばかりか褒めてくれたのはお前さんが初めてさね」
そう言うと声の主の巨大な狼はその身を縮め、見目麗しい女の姿になった。
ただまぁ、八突の言うように外見はかなり若く、人で言えば年の頃は十五に届くか届かぬかと言う童との境のようでもあるが。
それでも狼の風格は消えること無く、黄金色に輝く双眸をさらに輝かせて狼の少女は笑い、つられて八突も笑う。
「ところで、あたいはお前さんを取って食おうと思っているんだが。
お前さんはどうするんだい。
抵抗してみるかい? それとも素直に食われるかい?」
「その両方とも遠慮しておこうかねぇ。
こんな夜の山を一人歩きしてちゃ説得力がないかもしれないが、これでも死にたかないんでねぇ」
大仰な身振りで狼の言葉を流すが、それは狼の食欲と好奇心を刺激するだけである。
「ところで狼のお嬢ちゃん。
あんたは俺を『面白い』と言ったが、その好奇心は食欲を上回ったんじゃないのかい?」
「何が言いたいんだい?」
「なに、こうして会話をすることでお嬢ちゃんが俺を食って腹を満たすよりも好奇心で心を満たしたいと思うかと思ってね」
八突の言葉に狼は笑う。
「そりゃ尚更面白い♪
お前さん、腹よりもあたいの心を満たせるってのかい?」
「それが望みなら満たしてやるよ」
「……本当に面白い男だねぇ~」
今度は二人でクックッと笑う。
「よっし、決めた!
お前さん、名はなんてんだい?」
「何を決めたかは知らんが、俺の名は剣御礼 八突ってぇ、旅人さ。
特に目的はないが、強いて言うなら目的を見つけるのが目的の旅かねぇ~」
「そうかい、そうかい。ますます気に入ったよお前さん。
それじゃ、あたいの心を満たす方法を教えるが、あたいがお前さんに求めるのはただ一つだ。
あたいの番になりなよ」
あったのか無かったのかも分からない闇夜の山道。
二人の距離はいつの間にか無くなり、その距離が完全に零になった時、狼の少女と八突の唇が触れ……
「そいやっ!」
「あだっ!」
……なかった。
流れからいっても、前の会話からいっても、ここは八突に惚れた狼が接吻を交わすと思うだろうが、八突はお約束というものはしない。
デコピンで出迎えたのだ。
「はっはっはっ♪ お嬢ちゃん。
俺をものにしようと思ったらもう少しその体を成熟させるこったね。
それじゃ俺を魅了するにはちと物足りないさ」
「……あたいの心を満たすと言ったのは嘘なのかい?
それならあたいも獣の本能に従ってお前さんを喰おうと思うんだが」
「俺が言った約束は心を満たすことさ。
お嬢ちゃんの伴侶になるには、俺にはしたいことが多いんでね」
「む~」
頬を膨らませる狼と、それ見て笑う八突。
二人の出会いは運命だなんて高尚なものではない。
単に、その場に二人が居て出会っただけのことだ。
そこに理由はないが、これからの二人には二人でいる理由が出来るだろう。
そんな旅人と狼の物語がはじまったのは、いつだって普通に夜の山道を荷物も無しに一人歩き出来る旅人と腹お減らした狼だけなのだから特別なことではないさ。
「ところで、あたいの胸は結構大きいと思うんだけど何が足りないんだい?」
「経験だな。俺がお前さんに惚れるほどの親密度がまるで足りないのさ」
狼少女は、胸はかなり大きいのであった。
この第一話を読んでくれた方の大半はこう思うはずです。「あ、これって『狼と香辛料』読んで書きたくなったんだろwww」と。
いいえ、違います。
私がこの作品を書くにあたって執筆欲を刺激されたもの……それは『ゾイド』です!
正確には<コマンドウルフ>という狼っぽいゾイドです。
漫画やアニメでもそれなりに活躍していましたし、私は共和国軍のゾイドが大好きですからね。
私の小説執筆スイッチってのは、何がきっかけで入るのか自分でも分からないんですよねぇ~。
まぁ、投稿初日と最終話は二話同時更新というマイルールなので、引き続き第二話も読んでいただければ幸いです。




