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馬鹿だからこそこだわらない



 ある日のこと。

 正道は、トシ――佐々木歳三ささきとしぞうに向かって言った。



「なあトシィ。オレらもよォ、いつまでもここに世話になりっぱなしじゃァ、いけねェなァ」



 歳三は正道が絶対の信頼を置く、チームの副長だ。


 勉強はできないが、頭は切れる。

 だから正道は、困ったことがあれば歳三に相談することにしている。

 困った時にしか相談しないのが、歳三にとっては頭痛の種なのだが。



「当分は問題ないと思うがな。お前が神社に渡したお宝、あれかなりな額っぽいし。どうしてもってのなら、チームの中で、なにか出来るやつを手伝いに出せばいい」


「なにか、ってのはなんだァ?」


「たとえば、お前の弟の高道たかみち、あいつ銭勘定ぜにかんじょうが得意だろ?」


「ああ。若ェのに感心しねェがなァ」


「あいつに千秋せんしゅう家の銭勘定なんかを手伝わせば、喜ばれるんじゃないか? まあ後は……自己申告でやりたいヤツにやらせりゃいいだろうさ。当面はな」



 歳三は涼しげな顔で助言した。


 それから。

 正道は舎弟たちに事を諮ったところ、みな大乗り気だった……の、だが。



「頭ァ! オレッちラーメン屋でバイトしてたから、ラーメンなら作れるぜぇ!」


「オレも、コンクリかき混ぜんのと、アスファルトならすことに関しちゃ玄人裸足くろうとはだしですぜ!」


「俺、実は服飾ふくしょくデザイナー目指してるんだ! 実際作ったことないけど! 和服なんか見たことないけど!」


「なにを隠そう、おれんちは洋菓子屋だっぺよ! 作り方わかんねーけど!」



 どれも役に立ちそうになかった。







 そんな事があってから、しばらく経って。

 加藤図書助ずしょのすけが、ひさしぶりに、訪ねて来た。

 熱田の豪商で、織田信長から正道の世話を任されている有力者だ。



「山田様、しばらくぶりに御座ございます」


「よう、とっつぁん。なんの用だァ?」


「はい、それが、その」



 尋ねると、図書助は言いにくそうにしながら、話を切り出す。



「――ご家来衆について、なのですが」


「オレの舎弟どもが、どうしたってェ?」


「その、わたくしどもに、いろいろと商売のタネを教えて下さっているのですが」



 聞けば、先日の一件でやる気を出した舎弟たちが、熱田の商人たちにいろいろなアイデアを吹き込んでいるらしい。

 特に、バイクに興味を持ち、遠国からやってきて、熱田に腰を据えたような利に敏い、あるいは山師根性の商人たちは、まっさきに飛びついたようで。



ィには、なってるかァ?」


「半々、よりやや悪いくらいですか。とにかく突拍子もないことばかりで……しかし、成功したものは、どれも相応の富を生み始めております」



 もちろんこれは、商人たちが、これは商売になると判断したアイデアの中で、である。

 実現不可能な、あるいは理解不能なアイデアは、その何十倍かにはなるだろう。



「いいことじゃねェかァ」


「しかし、ご家来衆は見返りをお求めにならず、わたくし共は戸惑っております」



 この時代、もちろん特許などはないが、技術や商品を独占する手段など、いくらでもある。

 営業、販売権を握っている熱田神宮、そして大宮司代千秋季重せんしゅうすえしげと縁の深い山田党ならなおさらだ。


 それなのに、彼らは見返りすら求めない。

 不気味に思った商人たちの頼みで、図書助は山田党の真意を量りに来たのだ。



「いいってことよォ。俺たちはこの熱田に世話になってるんだァ。返せるものがあるのなら、ありがてぇってもんだぜェ」


「……ご高配、痛み入ります」



 悠然ゆうぜんと答える正道に、やはり意図を量りかねながら、図書助は頭を下げた。







 一方、千秋家の勘定の手伝いを始めた山田高道たかみちは。



「なんだこの帳簿は! 責任者呼んで来い!」


「ドンブリ勘定すんな! 見込みで帳簿つけんな! 雑な帳尻あわせすんな一発でわかるわ!」


「物納が多いんだから、ちゃんとカテゴリと質に分けて保管しろ! 売り時になったらためらわず売れ! わかんねぇなら加藤家にでも資産運用手伝ってもらえ! ここじゃあ銭は降って湧いてくるもんかもしれねえが、きっぱり忘れて銭を回せ! いいか、銭は増やせるんだよ! もっと上を目指せるんだよ! きっちり儲けようぜ!」



 完全にやりすぎていた。



「もう、全部山田様に任せればいいんじゃないかな」



 熱田神宮全体の勘定を任されるのも、時間の問題だった。




 熱田「今から本気出す」


 信長「なにそれ怖い」




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