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こんな時代じゃわからない



「アニキ」


「どうしたァ、ヤスゥ」


「えーと、サカイとか言うとこから来たって職人が、アニキに会いたいって」


「またかァ。近頃多いなァ」



 正道は少々辟易した様子でこぼした。


 彼らの目的は、正道たちの愛車――バイクだ。


 熱田中を、見たことのない乗り物バイクが走り回っていた。

 あまりにもインパクトの強い事実は、噂となって凄まじい速度で拡散したらしい。

 噂は人を集め、それがどうやら見たことのない機械からくりだと知れ始めると、今度は商人や職人が、遠く近江おうみさかいからも来始めた。人が増えた、と、熱田の人間はみな実感している。


 ひと目見せてくれ、あるいは触らせてくれという人間も多いが、正道たちにとってバイクは命だ。

 おいそれとは見せないし、触らせない。


 盗みに入ってリンチにかけられる人間もいれば、長期戦とばかり、熱田に住みつく者もいる。

 商人連中は、この奇妙な連中とお付き合いできればと、付け届けを忘れない。

 正道はそれを気軽にもらうと、熱田社や付き合いのある人間に投げ与えた。


 バイクに比べると、金属バットやチェーン、鉄パイプなどはセキュリティ意識も低い。

 だから、職人たちが頼めば、山田党の連中も気軽に見せるのだが、それも十分に非常識な技術だ。

 時に脂汗を流しながら、感動したように見入る職人たちに、彼らも悪い気はしない。職人たちがなぜ感動しているのかは、理解できないようだが。



「製法は」



 もちろん職人たちの質問には、誰ひとりとして答えられなかった。





 ――馬鹿野郎どもがあ。



 シゲルは吐き出した。

 バイクを売ろうともしない正道や舎弟たちに対しての言葉だ。

 ガソリンがない以上、どれだけ大事なものでも、無用の長物だ。

 なら、売っぱらった方が得というものだ。


 手始めにバックミラーを高額で売り払うことに成功したシゲルは、つぎにバイク本体を売り払おうと、商人に打診する。



「またまた。山田党の鉄の神馬が、なんで手に入るものですか」



 この時代に馴染んだ姿のシゲルは、山田党の一員だと認識されていない。

 だからシゲルが持ちかけた話を、誰も信用しなかった。







「――風呂が、欲しいなァ」



 ある日、正道は、唐突にそんなことを言いだした。


 常にリーゼントの身だ。

 風呂に入らない訳にはいかないのだが、この時代、風呂はぜいたく品だ。

 風呂は、大量の湯を沸かさねばならない。浸かるタイプなら、なおさらである。

 とはいえ、そこは清潔な現代人。風呂に入りたいという欲求は、耐えがたいものがある。



「蒸し風呂もいいがなァ。熱い湯に浸かってさっぱりしてえってのは、人間だれもが思うことだぜェ」


「なら、ヘッド。俺に任せてくれよ」



 舎弟の一人、強面の平蔵が手を上げた。

 彼は風呂屋の息子だ。



「じゃあ、作るかァ」



 気楽に言ったが、どうやって作るかは考えていない。

 そこへ、平蔵が勢いよく発言した。



「よしっ! じゃあ銭湯つくりやしょう銭湯! オレが番頭で!」


「あっ、平蔵ずりぃぞ! オレも番頭やりてぇよ!」


「アホかっ! おれが番頭だ!」



 全員がダボハゼのように食いついた。


 結局。風呂はできたが、燃料の問題(金銭的なものと、物理的な面倒くささ)から、水風呂がメインとなったようだ。

 なお、平蔵たちはまだ銭湯計画をあきらめていない様子。




 秀吉「チェンジ。番頭ワシ」


 信長「なんか献上された鏡がパねェ」



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