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戦国リーゼント  作者: 寛喜堂秀介


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身分や出自は関係ない



 雨の暖簾のれんをかいくぐるように。

 その日、信長はわずかな供廻ともまわりを連れて現れた。



「よう、山田の」


「よおゥ、織田のォ」



 出会ったふたりは不敵な笑みを浮かべて挨拶を交わす。

 千秋季重せんしゅうすえしげが、気をきかせて席をしつらえさせた。

 席は、信長の希望で東西にもうけられる。これは両者が対等であることを意味している。



「五分の兄弟ならよい、と、ぬかしたらしいな」



 ぽつりと、信長がつぶやく。


 以前、正道は、信長に仕えない理由として、舎弟に向かって言った。

 正道オレ信長ヤツのタイマンは五分ごぶだと。だから、五分の兄弟ならともかく、信長の下につく気はないと。


 それが漏れ伝わったのだろう。



「悪いかァ?」


「悪くない」



 美味おいしくもなさそうにさかづきかたむけながら、信長は正道に答える。



「――むしろ、なあ、山田の。まことに兄弟とならんか?」


「……えらく買ってくれるもんだぜェ」


「いかんか?」



 信長の問いに、正道はかぶりをふった。


 ヤスから教えられて、正道はすでに、織田信長が歴史に名を残した人物だということだけは知っている。

 そんな男が、自分を兄弟に、と言ってくれたのだ。うれしくないはずがない。



「いや、悪くないぜェ?」



 言いながら盃を傾け。

 それから、正道はしみじみと語る。



「――テメエと兄弟になれるんならァ――ああ、悪くねェ」



 その言葉に。

 信長は満足げにうなずくと、口の端を釣り上げた。



「ちょうど、似合いの年頃の妹がいる。残しておいてよかったわ」


「……おおゥ?」



 正道は、とっさに信長の真意を理解できず、ヘンな声をあげた。









 あれよあれよという間に縁談は進む。

 普段通りながら、どこかあわただしい、そんなある日。



「――なあ、トシよォ」


「なんだ、ヘッド



 山田正道は、信頼する副ヘッドの、佐々木歳三ささきとしぞうに相談を持ちかける。



「オレァ、結婚することになった、ンだがよォ」


「ああ。いきなりでびっくりしてるが……みんな喜んでるぜ? おまえホントにモテなかったもんな」


「うるせェよ」



 からかう歳三に、正道は顔をしかめる。

 そんな正道に、歳三は腕組しながら顔を寄せる。



「それで、どうした?」


「結婚すれば、あれだ……抱く、ことンなるよなァ? どうすればいいか、さっぱりわかんねぇんだぜェ」


「……ヘッド、ひょっとしてあんた、どうて――」


「うるせェよ」



 苦虫をかみつぶす正道に、歳三はため息をついた。



「ああいうのはな、なりゆきに任せりゃあなんとかなるもんだ。そうやって気にしてたら、かえって上手くいかないぜ?」


「……おゥ」



 脂汗を浮かべながら、正道はうなずく。

 山田正道、硬派こうは一筋十八年。彼は真性の童貞だった。









 尾張国おわりのくに清洲城きよすじょう

 やかたの奥の間で、信長が妹の一人と会っていた。



「おふみよ。お主の嫁ぎ先を決めてきたぞ」


「兄上」



 唐突に言われて、文は淡い驚きを見せる。



「――わたくしは、どこにも嫁がせないのではなかったのですか?」



 文の母は、ひどく身分の低い女性だった。

 だから、というわけでもないだろうが、奇行を繰り返し、兄弟姉妹に眉をひそめられていた少年時代の信長に、彼女はつねに好意的だった。


 信長もそれがわかるから、この八つ離れた異腹の妹を、ひどくかわいがり、「文はどこにもやらん」とつねづね言ってきた。



「くれてやってもいいと思う男ができた」


「ご勝手な」



 笑顔のまま、文は淡い抗議を口にする。



「――それで、わたしはいつ嫁ぐことになるのですか?」


「妙にうれしそうだな、お文」



 信長は眉をひそめた。

 館での生活に未練がないのは、それはそれで複雑らしい。



「兄上の認めた殿方ですもの。いいひとに決まっております」


「……言っておくが、素性のわからん相手だぞ」


「はい」


「昔のわし以上に奇妙な格好をして、徒弟とていを連れて無為徒食むいとしょくしている、ごろつきの様な男だぞ」


「はい」



 けなすだけ貶しても、文の表情は変わらない。

 信長は、つまらなそうに尋ねた。



「お文よ。なにゆえ、そう嬉しそうなのだ」


「だって。その上で、兄上がわたしの嫁ぎ先に、と見込まれた方ですもの」



 思うような反応を引き出せなかったくやしさからか、信長は口の端を曲げて、最後に言った。



「……ヤツは、わしの対等な兄弟だ」


「はい」



 文は、この言葉にも、笑顔で返した。









 式はしめやかに行われ、つぎの日、祭となった。

 正道の舎弟たちの多くが、この日初めて花嫁の顔を見た。


 妙にすすけた顔の正道。

 その後ろから、気恥かしげに姿を現した文に、舎弟たちは一斉に声を上げた。



あねさん!」


「姐さん!」


「姐さん!」



 姐さんの大合唱に、顔を真っ赤にしながらも、応える文。



「オレの嫁だぜェ……」



 正道が力なく紹介する。

 昨日はお楽しみだったのだろう、と舎弟の誰もが察した。

 みなの注目を浴びながら、文が顔を真っ赤にしながら言った。



「みなさんのご期待にえるよう、毎晩はげみます!」



 期待の方向性を誤解した、彼女の大胆な言葉に。

 男どもは大歓声を上げた。






 信長「励んでいるようだな。早く子供の顔が見たいものだ」


 濃姫「(チラッ」




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