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それでもあいつは嫌いになれない



 ――“山田党”



 正道たちは、そう呼ばれ始めている。


 熱田神宮に身を寄せる、異形異装の集団。

 尾張源氏か、伊勢山田の出か、はたまた信濃諏訪すわが出身か。

 いやいや、うわさに聞いたが……


 想像は彼らの出自を、すでに固めつつある。









 タイムスリップしてきた彼らだが、ひとまず生活の心配はない。

 桶狭間おけはざまの合戦に加勢した謝礼を、そのまま熱田神宮に納めて、かわりに社領内の屋敷で寝起きさせてもらっているのだ。


 しかし。



「こいつはァ……困ったぜェ」



 山田正道には悩みがあった。

 それは。



 ――ポマードが、残り少ない。



 ことだった。

 このままではリーゼントが作れない。



「そりゃあ大問題っスね。リーゼントはアニキのトレードマークッスから」



 舎弟のヤスが、深刻な表情で返した。


 ふたりは極めて真剣である。

 戦国時代でいえば、かぶとの前立てがなくってしまうくらいの重大事だ。



「……アニキ、これを使ってくださいッス!」



 おもむろに。

 ヤスが、ふところから取り出したものを、正道に差し出す。

 正道はグラサンで隠した目を驚愕に見開いた。



「――こりゃあ、ヤスゥ、テメエのポマードじゃねェか! これじゃァてめえのリーゼントが!」


「……へへっ。俺のことはいいんスよ。そんなことより、アニキがリーゼントをキめられなくなるほうが大問題っスよ」


「うおおおヤス、ヤスゥ! おめえってやつはァ!」


「頭ぁっ!!」



 涙を流しながら、手を取り合う二人。


 その光景を遠目で見る人物が居た。



「アホかい」



 シゲルだ。

 シゲルはすでにこの時代並みに、まげを結っている。

 服も、適当なものを調達して、外見だけなら立派な戦国人だ。

 堂に入りすぎて、山田党の一員と見なされていないことに、彼はまだ気づいていない。









 そんな事があってから、数日後。

 あっさりと、ガソリンがなくなった。

 チームの大多数が、毎日バイクであたりを駆けまわっているのだから、当然だ。

 おかげで熱田近辺では、山田党の名は、ある種の畏怖いふとともに認知されているが。



「あー、どうすっぺかなぁ」


「ガソリン無くなっちまったら、単車転がせねぇベ」


「ああ、バイク乗りてぇよう」



 有名な武闘派とはいえ、走り屋だ。

 バイクが動かせないとなると、フラストレーションもたまってくる。



 ――このボンクラどもがぁ。わいのガソリンまで盗みよってからに!



 心の中で毒づいたのはシゲルだ。

 万が一の時を考えて温存していたガソリンをあっさり盗まれて、恨み満載だ。



「そうだ! テツに頼もうぜ! あいつならガソリン作ってくれるだろ!」


「おお、テツがいたか! あいつガソリンスタンドでバイトしてたもんな!」


危険物取扱乙四種オツヨン持ってるし、ガソリンも作ってくれるよな!」



 壮絶な無茶振りがなされようとしている。



 ――このボンクラどもめ。ガソリンがそんなに簡単に作れるとでも思っとるんかい。だいいち原料がないじゃろうが!



 舎弟どもの会話を盗み聞きながら、シゲルは内心突っ込んだ。

 その間にも、話は進む。



「なあ、やってくれるよな、テツ!」


「あ、は、はいっス! 兄貴たちのために、オレ、ガソリン手に入れるっス!」



 テツは、顔を引きつらせながら拳を握り、答えた。

 年少で押しの弱い彼は、上からの頼みを断りきれない。



「おお、やってくれるか!?」


「期待しとるぞ、テツ!」


「は、はい! 取りあえず……さ、サハラ! サハラまで飛んでくるっス!」



 彼がそう言ったのは、単純に、ぱっと思いついた産油地がそこだったからだろう。


 サハラまでどうやって行くのか。

 行ったとして、どうやって石油を掘るのか。

 掘れたとして、どうやって日本まで運ぶのか。

 そして原油からどうやってガソリンを精製するのか。

 精製できたとして、どうやって保存しておくつもりなのか。


 おそらくなにも考えず、少年は身一つで飛び出していった。

 シゲルは、ポカンとその背中を見送る。


 テツはそのまま消息を絶った。

 熱田湊あつたみなとから、東に向かう船に乗ったことだけは確認されている。





 のちの石油王である。






 信長「あいつらの行動マジキチ」


 平手政秀@草葉の陰「おまゆう」




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