番外編8 お前が居るなら心配ない
1587年初頭、メキシコ国境。
ここで日ノ本軍は、イスパニア軍と最初の大規模な会戦を行う。
「いくぜェ、兄弟! ヤス! 寂尊、譲司、紋郎! ジェロニモ! ――野郎どもォ!」
「おおっ!」
「行くっス!」
「ぱらりらぱらりら!」
「ヒィートォ!!」
戦闘が始まった。
敵はノビスパニア副王領(北中米のイスパニア領)のイスパニア軍三千。
山田正道率いるインディアン部隊三千は、堅牢無比な野戦方陣を布く敵軍めがけて突っ込んでいく。
「ええいっ! 駆動車鉄砲隊、後背を扼せっ! 行くぞ浅井のっ! 左翼に回って射線を通すのだっ!」
正道の、勢い任せの特攻を素早く繕いながら、織田信長はにやりと笑う。
「――それから、こちらからも駆動車出せいっ! 石油満載にして敵陣にぶちこんでやるのだっ!」
「楽しそうですな義兄上っ!」
そう言う浅井長政も笑っている。
信長は轡を並べる義弟の言葉を、一切の迷いなく肯定する。
「楽しい? そうかもしれぬな! 主らと居れば、どうしても昔の血が騒ぐわ! 山田のに言わせれば――最高にヒート、というやつよ!」
すぐに駆動車が用意された。
仕掛けとともに放たれた竹束つき駆動車は、狙いたがわず敵陣に突き刺さり、爆発、炎上する。
堅牢無比の野戦方陣にほころびが生じる。そこに、山田正道率いるインディアン部隊が雄叫びをあげながらぶち当たっていく。
会戦は、日ノ本軍の大勝で終わった。
この初戦の勝利は、信長たちに決定的な有利をもたらした。
新大陸での軍事的優勢を失ったイスパニア軍は、以後、砦や城市に篭もり、防御に徹して本国やペルー副王領(南米のイスパニア領)からの援軍を待つしかなくなった。
だが、待てど暮らせど援軍は来ない。
◆
イスパニア王フェリペ2世は激怒した。
必ずかの傍若無人なる異教徒どもを叩かねばならぬと決意した。
日ノ本は武士団を新大陸に送り、各地のインディアンを吸収しつづけている。
新大陸におけるイスパニアの版図を食い荒らし、我がものとする意図は明白だった。
――ただちに精強なるイスパニア軍を新大陸に向かわせ、野蛮なる異教徒どもを討ち伏せねばならぬ。
そう決意したフェリペ2世だったが、ことはそう簡単にはいかない。
現在、イスパニアはその戦力の大半を領国ネーデルラント(オランダ)の反乱鎮圧に割いている。
反乱を支援しているイングランドとも戦争状態に入っており、この方面からは、とてもではないが兵を引きぬけないのだ。
どこかで手打ちにして新大陸の問題を優先したいところだが、そうもいかない。
世は大航海時代であると同時に、大宗教改革時代。
新教派と旧教派の争いは、ヨーロッパ全土におよんでいる。
ネーデルラントの独立派も、それを支援するイングランドも新教派だ。
ネーデルラントで譲歩すれば、台頭著しい新教派の伸張を助長する。新教派と旧教派が争うフランスも、新教派の国になってしまうかもしれない。それは旧教の守護者であるフェリペ2世にとっては恐怖に値する未来図だ。
「ペルー副王にノビスパニアへの支援……それも、時流に乗った原住民による武装蜂起の危険を考えれば、多くは割けぬ。やはり、無理を押してでも、新たに兵を雇い入れざるを得ぬか」
世界帝国たるイスパニアの国庫とて無限ではない。
むしろたび重なる戦争と、新大陸開発の費用に、金はいつでも右から左だ。財政破綻経験すらある。
――だが、それでも新大陸は維持せねばならぬ。
王は思い悩む。
だが、そんなとき、彼のもとへ最悪の知らせが舞い込んできた。
「ポトシ銀山で働いていた原住民が反乱、銀山を占拠! 反乱は各地に広がり、ペルー副王より本国からの救援を乞う報せが!」
もはや言葉もない。
よりにもよって、歳出過多なイスパニアを支える重要な財源が、まるごと奪われてしまったのだ。
南米に漂着した伊達政宗が現地人を扇動して起こさせた反乱だとは、フェリペ2世が知る由もない。
反乱軍に潜んだ特大の悪意の塊――インディオに扮した伊達家の武士たちは、敵の意表を突くような首刈り戦術で南米の勢力図を描き換えつつあった。
フェリペ2世は天を仰いで嘆息した。
新大陸問題を放置すれば国家破綻が確定する。
ネーデルラント問題を放置すれば、旧教派の敵たる新教派勢力の伸張に拍車がかかる。
そのうえ、いずれも国家の総力を傾けねば解決がおぼつかない大問題なのだ。絶望するしかない。
だが、そんなフェリペ2世の苦悩をさらに深める事件が起きる。
示し合わせたかのようなタイミングで、イスパニア西部の重要軍港、カディスが襲撃されたのだ。
犯人は、これまでも略奪焼き打ちによってイスパニアをさんざん悩ませてきたイングランドの海賊提督フランシス・ドレーク。
悪魔の化身の異名をとる男が振りまいた災厄により、艦船数十隻を失う大損害を被ったイスパニアは、武力による早期解決の手段を失うこととなる。
そして翌年。
イングランドとの国運をかけた戦いに、イスパニアは敗北する。
アルマダの海戦において、無敵艦隊は無残に敗れた。以後、太陽の沈まぬ国は斜陽の季節を迎える。
◆
一方、日本本国では、短期的な措置として新大陸への移民が推奨され、領地を失い浪人となった武士や、キリシタン、その他あらゆる職種の人間が、新天地を求め、こぞって旅立った。
ハワイでは、稲作が始まる。
また石油の備蓄も進み、ハワイは森忠正の幸福な支配のもと、新大陸への中継点として機能し始める。
他方、ノビスパニア副王領マカオ(フィリピン)では、新大陸で衝突が始まったことにより、日本人排斥が起こる。
これを口実に、織田信忠は羽柴秀吉を大将にした艦隊を派遣、マカオを占拠する。
「このままどんどん征くでよ! わしらが攻めれば攻めるだけ、新大陸の大殿も楽になるって話よ!」
「そして南の海は兄上のもの、という寸法ですな」
「その通り! これからは海の時代じゃ! その海を制して、わしはまだまだ駆けのぼるでよ!」
弟、羽柴秀長の言葉に、秀吉は会心の笑みで答えた。
「――大殿! まん丸いってえ地球を西と東からぐるりと回って、暗黒大陸でお会いしましょうぞ!」
日の出の勢いの日本は、羽柴秀吉主導のもと、東南アジアの要衝につぎつぎと都市を奪取、建設。
シンガポールを中心に形成される海洋都市群は、後年のパレンバン油田発見もあいまって、以後海洋交易の要地として莫大な富を蓄えることになる。
◆
アルマダの敗戦、新大陸の失陥と、イスパニアの凋落が著しい。
だが、他の西洋諸国も、そのことを手放しに喜ぶわけにはいかない。
かの国を通してヨーロッパ全土に行きわたっている金銀の量は膨大だ。
人口の爆発的な増加とともに、それが商業革命で膨れ上がったヨーロッパ経済を下支えしていると言っても過言ではない。
――このままでは、ヨーロッパ全体が没落する。
多くの者が、それを恐れた。
その圧倒的な恐怖と危機感が、西欧諸国を立たせた。
政治的な思惑が複雑に絡み合いながらも、失地回復を謳い、新旧両教国家は足並みをそろえ、連合軍を結成、空前絶後の規模の超国家連合艦隊が、新大陸に向けて発せられた。
時に1595年。
日本とイスパニア、最初の衝突より十年近い月日が経っていた。
新大陸東の果て、ニューヨーク。
山田正道が建設したこの発展途上の都市に、日本の艦隊は集められている。
徳川家康、北条氏盛、上杉景勝、里見義康、毛利輝元など、本国からの援軍を加えた大艦隊の総指揮は、織田信長。
「実感するぞ」
旗艦の甲板で大洋を仰ぎながら、信長は語る。
「――世界は広い。日ノ本のことで汲々としていたあのころが夢幻のようだ……礼を言うぞ、兄弟」
「なぁに……織田のォ、オレの方こそ助けられっぱなしだぜェ」
正道は、信長に向かい、にやりと笑みを返す。
「なにを言う。わしらは、五分の兄弟……であろう?」
「ははっ、違いないぜェ」
笑いながら、正道は彼方に視線を置き、語る。
「――アメリカ取って、ヨーロッパに勝てば、間違いなく世界の天辺だァ。夢を、かなえるぜェ」
「わしも貴様も老齢だ。これが最後の大戦となろう。せいぜい、暴れてやるとしようぞ」
船が旅立つ風なびく。
紺碧の空を仰ぎ往く。
白い長ラン身にまとい。
グラサン白髪リーゼント。
船駆り笑い、肩抱きあうは。老いた英雄共白髪。
列強艦隊相手取り。大洋突っ切り大戦。
下天は夢か幻か。されど英雄ここにあり。
戦国覇王とリーゼント。アメリカの父と呼びにけり。
戦国リーゼント――完!
※
森忠正「ハワイは私の完璧で幸福な統治を受け入れております」
テツ「石油王っす!」
伊達政宗「南米王にわしはなる!」
羽柴秀吉「大洋をまたにかける貿易王じゃあっ!」
寂尊、譲司、紋郎「ぼくたち未来のプレジデント!」
濃姫「……(ピコーン!」
信長「よけいなこと思いついた!?」
みなさま、ありがとうございますっ!
戦国リーゼント米国編、これにて完結ですっ!
最期までおつき合いいただき、ありがとうございましたっ!
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