番外編5 男の夢は譲れない
これは、山田正道がまだ戦国時代に行くまでの話。
「はっはぁ。ヒートな夜だったぜェ!」
ひさびさの大きな集会の後。
県道を流しながら、三々五々と仲間たちは去っていく。
正道も気持ち良く愛車を転がしていると、ふと視線を脇にやって――にやりと笑った。
「悪いなお前らァ! ここでお別れだァッ!」
「オス! お疲れっス頭!」
「ヒャッハー! パラリラパラリラ!」
「アニキ! お疲れですっ!」
そんな声を背に、正道は車体を倒して急カーブを切った。
向かう先は、県道沿いのファミレスである。
「――よう」
店内に入ると、窓際のテーブルに座る男に声をかけた。
入ってくるのが見えていたのか、男は正道に向かって不敵に笑った。
「よお正道」
でかい。
長身ではなく、その男はただデカかった。
寸の詰まったような体つきに、丸っこい顔。そのすべてがでかい。
愛嬌のある顔には人懐こい笑顔が浮かんでいるが、目の淵や口には深い切り傷の痕がある。
「よーォ、ヤンマぁ」
正道は口の端を釣り上げながら、男の対面にどっかと座った。
「お、おい、なんだあの二人」
「ばっか、知らねぇのかよ。武論駆衆の山田にオニヤンマだよ」
遠くの席から、二人の威丈夫をみながら、客二人がささやき合う。
「ぶろんくす? おにやんま?」
「あーモノ知らねえなてめえ。あっちのグラサンリーゼントが県下最強の武闘派チーム、武論駆衆の初代頭、山田正道だ。百人を超える族を拳ひとつでまとめ上げる、ここいらじゃ負けなしのケンカのカリスマだ……で」
「あっちの着ぐるみみたいな体格した傷ダルマが」
「おい聞こえるぞ。あれがオニヤンマ。山本貫二だ。もう卒業したはずだが、湊商業高校の鬼山本っていやあ、ここいらの悪たれどもがビビって目もあわさねえって話だ」
「でも、そのオニヤンマ、スーツ着てるぞ。何事なんだ」
「知らねえよ。就職したんだろ」
「極道に?」
二人がひそひそと話していると、ふいに、話の当事者、山本貫二が声をあげた。
「おーい、そこの二人ぃー、聞こえとるぞーっ!」
二人が飛びあがらんばかりに驚くと、貫二は大きな口をニィ、とつり上げてピースサインまで送ってきた。
「はいっ! すみませんっしたぁー!!」
「失礼いたしましたぁーっ!!」
直立不動で起立して九十度で頭を下げる二人を見て、ヤンマが「ええわい、ええわい」と手を振る。
「ヤンマぁ。てめぇ、就職したってのによォ、厳つさは相変わらずじゃねえかァ」
「かかっ。なにを言うとるか。どっからどう見ても、おめぇ、おもちゃ会社の営業マンだろうがよ」
「見えねェよ――冷コーだァ」
話しながら、正道は注文を取りに来たウェイターにアイスコーヒーを注文する。
ヤンマも、ついでとばかりにカップに残っていたコーヒーをすすり、お代わりを頼んだ。
注文の品はすぐに届けられた。
二人はカップとグラスに一口つけ、息をつく。
「……よう、正道よ。おめぇいくつんなる?」
「ボケたか? ひとつ違いだぜェ……今年18だ」
「18か……おい、正道。おめぇ将来はどうするつもりだ?」
「将来ィ?」
唐突な話に、正道は腕組してあごをひねる。
「決まってるさァ……地球制覇だァ」
ぶぼっ、と、ヤンマが口にしたコーヒーを吹き出しかける。
かろうじてこらえたが、それが悪かったのだろうか。ヤンマは盛大に咳きこんだ。
「おいおいナニやってんだヤンマよォ」
「す、すまねえ。まさか真顔で言われるとは思わなかったもんでよぉ……だがおめぇ、本気だな」
「当たり前だぜェ。こんなこと、本気でなきゃ言えるわけねェぜ」
まったくの本気で、正道は言っている。
だからこそ、ヤンマも噴き出すのを我慢したのだが。
「夢だな」
「ああ。実現する、なァ」
「……その夢よぉ、いくつまでに叶えるつもりだ」
「あァ? わかんねェな。とにかくやるだけだぜェ」
アイスコーヒーに口つけながら言う正道を、しばらく凝視し。
ヤンマの顔が、ふいに晴れた。
「おめぇ、馬鹿だな」
「馬鹿は承知だぜェ」
「そうだ! 俺も馬鹿だがてめぇにゃ負ける! 天下無敵の大馬鹿だぜ!」
「おいおい」
「ほめてんだよ馬鹿野郎! おい、正道よ。俺と賭けしねえか」
「賭けェ?」
「そうだ! てめぇが三十になってもその夢忘れてなかったらよ! 頭ぁ下げててめぇの舎弟になってやるぜ!」
ヤンマは胸張り上機嫌に。
にやりと笑うリーゼント。
「言ったなァ?」
「言ったさ。そんかわり、出来なかったらよ、てめぇ俺の会社に来い」
「会社ァ?」
「夢なんだよ、俺の。おもちゃ会社たち上げて、世界中の子供に喜ばれるおもちゃを作るのがよぉ。今働いてんのもそのための勉強だ」
「そりゃあ……どっちに転んでも楽しそうな勝負じゃねェか……勝つのはオレだけどよォ」
「やってみろよ。俺ぁ楽しみにしてんだぜ? おめぇが変わらないでいてくれることをよぉ」
二人は笑う。
笑いながら、拳をつくり。
無言でそれを打ち合わせた。
「行くぜ。限界の向こうまでよォ」
「行って来い。正道」
それがそのまま、二人の別れの言葉になった。
山本貫二は夢のために働き続け、山田正道は時を越え、戦国の世に降り立った。
はるか、時の彼方の大地。
赤茶けた荒野を、山田正道は駆ける。
うなるバイクの駆動音。天突くドでかいリーゼント。
「ヤンマよォ。見てるかよォ」
インディアンたちを従えながら。
舎弟たちや信長、その配下の武士たちを引き連れながら。
山田正道は、金属バットを振りまわし、アメリカの大地を駆ける。
「――三十どころか、四十過ぎても、オレは大馬鹿らしいぜェっ!!」
「五十過ぎたわしのことも考えんかーっ!」
信長の声が、荒野に響いた。
◆
三郎「新大陸でインディアン追ってたらチョンマゲに襲われたとかで、イスパニアからものすごい勢いで抗議が……」
信忠「なにやってくれちゃってんの親父たちーっ!?」
次回、米国リーゼント!




