表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国リーゼント  作者: 寛喜堂秀介


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/34

こいつを捨てれば男が立たない



 正道が、佐久間信盛さくまのぶもりを匿ったことを受けて。

 信長から正道に、信盛親子追放の要請が飛んで来た。



「すこし前なら、自分で来たろうによォ。まったく、耄碌もうろくしたもんだぜェ」



 正道はこれをにべもなく拒絶する。

 にわかに織田と熱田の関係が冷えた。


 伊勢湾に緊張が走った。

 湾岸諸都市の有力者からは、「織田に反乱を起こす場合は、ともに」と密使がつぎつぎにやってくる。

 伊勢長島の一向勢力も同心を伝えて来ており、そうなれば第二の本願寺戦争も十分起こりうる。

 織田と争っている毛利や上杉、それに宇喜多うきたや、追放された足利義昭からも、密書は続々と送られてくる。


 なにより、一番乗り気なのが。



「やってやりましょうぜぇ! ヘッドォ!」


「五分の兄弟とはいえ、兄貴ナメてタダで済むと思うよぉ!?」


「ヒャッハー! ぱらりらぱらりら!!」



 正道の舎弟たちだった。

 年甲斐もなく熱くなって、抑えが利かなくなっている。

 下手をすれば今にも安土の町で暴走行為をやらかしそうな勢いだ。



弥三郎やさぶろうォ」


「はっ」



 図書助の息子、弥三郎に、正道は声をかける。

 信長の馬廻りだったが、同僚を殺めてしまい、仲間とともに正道預かりになって久しい。



「いまの織田のが、オレとタイマン張ると思うかァ?」


「いいえ。おそらくは、あり得ないでしょう」



 正道はもう一度頭をひねり、再度弥三郎に問う。



「オレたちと織田がケンカすりゃァ、どうなるゥ?」


「織田の天下が揺らぎます……いや、滅びるかもしれない」



 弥三郎は即答した。

 熱田の富と、一向宗の人と、いまだ各地に残る反織田勢力。

 それに、信長に対して潜在的に危機感を抱いている、織田家中の諸武将。


 これらが有機的に結合すれば、空前の信長包囲網が形成されるだろう。

 そして信長は、三河一向一揆時の家康のように、身内からの離反者に悩まされるに違いない。



「そうかァ……」



 言って、正道は黙り込む。

 加藤図書助が不安そうに尋ねる。



「どうなさいますか?」


「わしのことならお構いなく。あなたの志だけで、もう胸がいっぱいです」



 佐久間信盛が気丈に言うが、正道は首を縦に振らない。

 すでにそれは意味を為さないことを、図書助は察していた。


 信盛は、ただのきっかけだ。

 問題は熱田の、織田信長への反抗という強烈なメッセージ。

 これに、信長に対する不満分子が、光に寄せられる蛾のごとく集中しており、すでに抜き差しならない事態にまで発展している。


 下手をすれば明日にでも、反織田の旗頭として担ぎあげられかねない。

 もはや事態は、正道の鶴の一声ですら、収まる状況ではなくなっていた。


 副ヘッドの佐々木歳三は、黙って目を閉じている。

 正道がどんな決断を下そうとも、黙って従うハラなのだ。



ふみィ」



 妻であり、信長の妹でもある彼女に、正道は声をかける。



「はい」


「家と子供は、頼んだぜェ」


「……はい。ご無理は、なさいませぬよう」



 文は静かに答えた。

 伏せた目の端から、涙がこぼれた。

 彼女は、夫がなにをしようとしているのか、完全に理解していた。


 つぎの日の朝、山田正道は熱田から姿を消していた。







 黎明れいめい

 朝もやの中、旅立つ正道の前に、ひとりの男が立っていた。


 加藤図書助だ。

 熱田の豪族にして大商人。そして二十年近く山田党を助けてきた男だ。



「とっつぁん。世話になったな」


「あなたは、何がしたかったのですか。熱田をここまで発展させて。しかもそれを簡単に捨てようとしている」



 図書助は、わからない、と言うようにかぶりを振る。



「――あなたはいったい何者なのですか」



 その問いに、正道は笑う。



「オレはオレだ。山田正道よォ。その名の通り、自分テメェしいと思った理を押し通す。それがオレだぜェ、なあ、とっつぁん」



 理解できない様子の図書助に、正道は続ける。



「――織田のがやった無道に対し、オレは筋を通す。オレがやってんのァ、ただそれだけなんだぜェ?」



 天下人にそむくこと。

 それに抗う力を持っていること。

 その上で、すべてを捨てて、争わないことを選ぶこと。


 ただそれだけ。

 正道が言ったことが、どれほど難しいことか。


 しかし、まったく執着のない様子で、正道は笑って言った。



「じゃあなァ、とっつぁん。舎弟どもと、嫁さんや子どもたち、それに佐久間のオヤジをよろしくなァ」



 そう言って正道は、背中越しにリーゼントを立てて、去っていく。


 その、後ろ姿に。

 加藤図書助は静かに深く、頭を下げた。







 舎弟たちは混乱した。

 目を覚ますと正道が居なくなっているのだ。

 前夜の熱狂から、一転青ざめて、状況を理解してまた熱くなる。



「冗談じゃねぇ! なんで頭が出ていかなきゃなんねぇんだ!」


「そうだ! 悪いのは織田の兄ぃのほうじゃねえか!」


「おれたち置いてくなんて水臭いにもほどがあるっぺよ!」


「そうだ! いまからでも頭を追いかけるぜぇ!」


「ぱらりらぱらりら!」



 男たちを止めたのは、副頭の佐々木歳三だ。



「落ち着きやがれテメエら! 正道からの伝言だ!」



 そう言って、歳三は正道の言葉を伝える。



「織田のとは、いずれサシでケリをつける。だから抗争するな。それからついてくるな。オレが不義理したぶん、テメエらはかみさんや子供を大事にしてやれ――だとよ」



 しん、と場が静まりかえる。

 信頼し、信望するヘッドの言葉とはいえ、とうてい受け入れられないものだ。

 とくに、乞われて羽柴秀吉の元で普請指導をしているヤスなどは、知ればがむしゃらに正道を追うに違いない。


 だが、舎弟たちと、その妻子と、なにより熱田を大事に思う正道の心遣いに、みな、なにも言えなくなった。

 そんな中で。



「――アホウじゃ。正道の兄貴は」



 ぽつりと、シゲルがつぶやく。

 お通夜のような場に、その声はよく通った。



「んだとシゲルぅ! もっぺん言ってみろ!?」


「ああ、何度でも言ってやるぞボンクラどもがぁ! 正道の兄貴はアホウじゃ。信長の妹婿で、なんもしなくても気楽に生きていけたのに、それを放り出して、金も身分も、舎弟も全部捨てて」



 でもよぉ、と、シゲルは続ける。



「――わいはそんな兄貴にあこがれて、だからこそ……越えたかったんじゃ」



 そう言うと、シゲルはさっさと身支度を済ませ、舎弟たちに背中を見せる。



「おい、どこ行こうってんだよ、シゲル」


「正道の兄貴を追いかける。幸い、わいには大事にすべき嫁さんも子供もおらんしのぉ。命令なんぞ最初から破れんわい。おまえら、兄貴のことはわいに任せとけやぁ」



 背中越しに手を振り、身軽な姿で。

 シゲルは行方もしれぬ正道を追って、旅立っていった。





 さまざまな人間の心にしこりを残しながら。

 熱田問題に揺れた天下は、ふたたび信長を中心に回り始める。






 信長「山田のが失踪!?」


 濃姫「(シャキーン」


 信長「いや、チャンス! みたいな顔されても意味わからないし」


 濃姫「(ショボーン」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ