それでも城にゃ違いない
越前の奪還、加賀侵攻。
中国侵攻に本願寺攻めと、織田家が多忙を極めるなか、信長から、正道に招待の手紙があった。
「兄上からの招待ですの?」
「あァ。安土の山に城ォ作ったから見に来てくれ、だってよォ」
妻の文に隣から尋ねられて、正道はうなずいた。
それを聞きつけて、子供たちが目を輝かせる。
「ちちうえ、近江に行かれるのか?」
「ちちうえ、行かれるの?」
「おォ、三郎、三重。ちょっと行ってくるぜェ」
娘の頭を撫でながら、正道はふたりにほほ笑む。
「はいっ。熱田の留守はお任せください」
「みえ、いっしょに行きたいの」
「こら、三重。父上は大事な用で行かれるのだから、我がままを言うでない」
「むー。ちちうえ、おみあげね」
いいお兄ちゃんしている三郎に苦笑しながら、正道は笑って三重に親指を立てる。
「わかったぜェ。織田の叔父さんによォ、いいもんもらってきてやるから、楽しみにしてろよォ」
「……父上、くれぐれも右大将様に失礼無きよう」
「わかったわかった……なにがおかしいんだ、歳三」
様子を見ていた副頭の佐々木歳三に、くすりと笑われて、正道は目を眇める。
「いや、よくもお前から、こんなにしっかりした子が生まれたものだと思ってな」
「うるせェよ……トシ、お前も安土に行くかァ?」
「よしとこう。武田との戦ではだいぶ無茶をしたからな。お前が出るなら、オレと三郎は残ったほうが、熱田の連中も安心するだろう」
そんな会話をしながら、ふたりは外をながめる。
その先には、繁栄を極める熱田の町がある。
「ぱらりらぱらりら」
馬鹿どもの元気な声が、今日も響き渡っている。
◆
琵琶湖の東岸を間近に望む安土山。
そのふもとには、おびただしい人で賑わう街が広がっている。
「ここが、安土かァ」
パーツをバイクに戻したため、多少まともな外見になった馬に跨り、リーゼントを風になびかせながら。正道はつぶやく。
「へー。ひょっとして熱田より人がいるんじゃないっスか?」
「おォ。なかなか面白いぜェ。さすが、織田ののやることだぜェ」
舎弟のヤスの言葉に、正道はうなずいた。
延暦寺を排除し、堅田を従え、さらには琵琶湖周りに配下諸将の城を造ることで、一手に握りこんだ琵琶湖水運の利権。
安土は人と銭の、一大集積地になっている。
「おお、山田さま。しばらくぶりでございます」
と、唐突に声をかけてきたのは、見知った顔だった。
「よう、藤吉郎じゃねェか。元気にやってるかァ」
「はっ。主に従い東奔西走の日々でございます」
正道が声をかけると、藤吉郎は元気に答えた。
藤吉郎は、現在羽柴秀吉を名乗っている。
出世に出世を重ね、今は信長の息子を養子に持つ一門武将として、播磨国を預かり、織田の中国攻めを指揮する立場だ。
「おう、藤吉!」
「ヤス、久しぶりじゃな」
親友と言っていい間柄のヤスが声をかけると、秀吉は親しげに肩をたたく。
「おう、お前らァ。つもる話もあるだろォ。オレァ織田のんとこへ行ってくるからよォ、どこかで時間ツブしてろよォ」
「あいや、これはお気遣い、いたみ入ります!」
正道の言葉に、秀吉は人好きのする笑顔をうかべ、頭を下げた。
「ではヤスよ。わしの屋敷に行くか。かみさんもよろこぶでよ」
「ああ、それならウチもヨメ連れてくりゃあよかったっスねえ」
「こりゃ。お主も主に従ってきたのだろうに……今度また来てくれや。実はまた普請のことで相談があってのう……」
◆
安土城にひときわ高くそびえたつ高層建築、天主。
その頂上へと案内されながら、正道は豪奢に飾り立てられた建物内部に感心する。
天主頂上の部屋に、政務をとる信長の姿があった。
「安土の町を見たぜェ。さすが織田の。やることがでけェ」
「山田の」
正道が笑って声をかけると、信長は筆を止め、笑う。
「それほどでもない。お主も伊勢湾に人を集めておろう。似たようなものよ」
正道の場合、人を集めた、というより、結果集まった、という方が正しい。
なにしろ熱田には金がある。
職人も商人も、商売のタネも無数にあるし、土木作業や道路整備など、行けばなにかしら職にありつける。
大半が正道たちの気まぐれと必要に迫られた事情からなのだが、結果として、熱田は東海に名だたる大都市となっていた。
「集まりすぎて、図書のとっつぁんも途方に暮れてたぜェ」
「溢れた人が、安土や岐阜にも流れているのだから、こちらも助かっている」
窓の外からは、安土の街並みが見える。
人々の営みを遠目に見やりながら、信長は語る。
「仕事があれば、人は来る。琵琶湖周辺に城を建てて回ったのも、水運支配はもちろんとして、まず、人を集めるためよ」
信長は安土における楽市楽座令を発している。
これも、安土に人を集めることを主眼に置いた政策だ。
「守るためじゃなく、人を集めるための城か……ヘンな城だ」
言いながら、正道は笑う。
「――だけどよ、織田のォ。やっぱり城にゃ違いねえなァ」
正道の言葉に、信長も笑った。
※
信長「町割はこの地図(全国道路マップ)の市街地を参考にお願い」
丹羽長秀「」
道路マップがあるせいで、
安土城じゃなくて近江八幡城を建ててる可能性が高い気がします。




