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戦国リーゼント  作者: 寛喜堂秀介


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知ってはいても活かせない



「まったく……ボンクラどもがぁ……」



 皆がヤスを絶賛する中、毒づいたのはシゲルだ。


 彼は中卒ながら大の歴史好きだ。

 当然、織田信長のことも知っている。


 シゲルは考えた。


 自分たちは戦国時代にタイムスリップしたのだ。

 歴史の知識がある自分は、この時代では圧倒的に有利だ。



 ――わいは、戦国の世でビッグになったる!



 そのためには、信長の部下になるのが近道だ。

 戦国の覇者となる彼につき従い、歴史知識を利用して、出世街道をひた走る。



「――そして正道の兄貴すら部下にして、天下人になったるんじゃーっ!」


「ラリってんのかシゲル、よけろ! なんか馬来たぞ馬!」



 夢想にふけっていたシゲルは、突進してきた馬に引っ掛けられて気絶した。







「――貴様、何者か」



 馬上の男が居丈高いたけだかに問いかける。

 後ろに五騎ほどを引き連れており、一見して身分の高そうな男だ。

 猛禽を思わせる視線は、迷わずチームの頭、山田正道に向けられている。


 じつは先ほどからの話題の主、織田信長なのだが、だれもそんなことは知らない。


 知らないままに、正道はバイクの上から答える。



「山田ァ、正道よォ」


「山田? 山田の者か?」



 ここでいう山田とは、旧の山田郡をさす。

 尾張源氏おわりげんじの名流、山田氏の本貫地はっしょうちであり、その一族かと尋ねてきたのだ。


 むろんこの場でそれが理解できる人間なんていない。



「知らねーなァ」


「では貴様、敵か味方か」



 信長は重ねて問う。

 言葉のはしに殺気がにじんでいる。

 しかし。それを正確に察しながら、正道の態度は変わらない。



「知らねーなァ」



 言いながら、正道はゆっくりとバイクから降りた。


 正道には、信長の言葉の意味などわからない。

 わかったのは、目の前の男が、でかい面して口をきいているということだけだ。



「――オレァ馬鹿だからよォ。殴り合ってみねぇと、なぁんもわかんねぇよ」



 ならば喧嘩だと、正道は拳を向ける。

 その、あまりにも頓狂な態度を前にして。



「……面白い」



 信長は、口の端を釣り上げた。


 刀に手をかけた供廻ともまわりの武者を手で制して、信長は馬を下りる。

 それから肌脱ぎになって、バシンと胸を打ち、自信に満ちた声で正道に言った。



「かかって参れ」


「あんたァ……ヒートだぜェ!」



 グラサンを外し、ポケットに納めると、正道は長ランを脱ぎ捨てた。


 タイマンだ。

 そう理解した舎弟たちは、手を出そうとしない。


 おたがい、ゆっくりと近づいていって。


 まず正道が一撃入れた。

 信長の体が、大きくズレる。



「――むうん」



 うなってから、信長は拳を返す。

 正道よりふた回りは小さい信長だが、拳の威力は等しい。



「――ぐむゥ」



 正道も、うなりながら返礼。


 それが十数度も続いたろうか。

 正道はふいに拳を止め、それから笑いだした。


 つられて信長も笑う。

 ふたりとも顔に青あざを作りながら、爆笑。


 しまいには肩を組み、笑いあう。

 文字通り、拳で理解し合ったのだろう。

 その姿に、見守っていたチームのメンバーたちも、なぜか涙を流して感動している。



「……いーいィ、喧嘩だったぜェ」


「おうさ。死ぬ前に、いい喧嘩ができた」



 さらりと返して、信長は笑う。



「……あんたァ、名前は?」


「織田……ふふ、信長よ」



 信長はあえていみなを名乗り、去っていった。

 それに従う騎馬武者たちに続き、徒歩の集団が、追いすがるようにばらばらと駆けていく。


 喧嘩で乱れたリーゼントを手櫛てぐしで直しながら、正道は口の端に笑みを浮かべる。



「――織田信長……ヒートな男だぜェ」



 場所は、熱田神宮あつたじんぐうの北。

 桶狭間おけはざまの合戦直前の出来事だった。









 雨が止んだ。

 太陽は西へ傾きはじめている。

 敵大将、今川義元いまがわよしもとの本陣は目の前にある。


 信長は、手勢を義元本陣に向けて打ち入れた。

 完全な奇襲だ。今川軍二万。本隊の兵力五千。信長の手勢は、それよりも少ない二千。


 天は自分に味方している。

 幸運と呼べるあらゆる条件が、信長にもたらされている。



 ――あとは、人の力を尽くすのみ!



 鉄火てっかの勢いで気炎を吐きながら、信長は修羅しゅらになった。


 奇襲から乱戦になった。

 信長、義元、両大将が自ら刀槍をふるう始末だ。

 信長の圧倒的有利に始まりながら、勝敗の行方は、まだ揺れている。


 そんな時、西の手より爆音が上がった。

 この世のものとも思えない音をたてながら、桶狭間の丘陵を駆け登ってきたのは、鉄パイプやチェーンや金属バットを振りまわす、バイクの集団。



「うおおおおおおおおっ!」



 先頭をきって特攻ぶっこんできた山田正道のリーゼントが、戦場で雄々しく揺れている。

 はためく白い長ラン。信長の眼には、それが白鳥のように映った。


 均衡は破れ、今川軍が崩れた。

 審判の刃が、そのほころびから義元の胸元に飛び込んだ。


 義元の首は取られ、勝敗は決した。

 信長と正道は、会心の笑みを交わし合った。






信長「ナニあの格好、ありえねえ超かぶいてる」


平手政秀@草葉の陰「おまゆう」




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