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熱田の本気は伊達じゃない



「おい、見てくれよ。これ、オレが頼んで仕立ててもらった特攻服とっぷくなんだけどよ。やばくね? この南無阿弥陀仏なむあみだぶつ刺繍ししゅうとか神がかってね?」


「おおっ、すげえ! だが、おい、これも見てみるっぺよ。おれが仕立ててもらった学ラン! 昇り竜の刺繍とか、なかなかの仕上がりだべ?」


「おい待てよ。服の勝負なら――俺の勝ちだぜ? なにしろ、正道の兄貴が愛用している長ランとボンタンは、俺が仕立てさせたやつだからなぁっ!!」


「くっ、ま、負けたぁっ!」



 唐突に始まった、衣装自慢。

 舎弟たちは、己の衣装を誇り、競い合う。

 たまたま居合わせた商人たちは、興味津々だ。

 彼らが仕立てさせた衣装のデザインは、奇抜だが、だからこそ服にる数寄者に人気があり、真似をする者が後を絶たない。


 そんなことはつゆ知らず、舎弟たちは今日も我が道を行く。



「まったく、すげえよなあ、お前らは。オレがデザインしたのなんて、嫁さんのためにつくったセーラー服くらいだぜ……」


「お前が優勝だ」


「売ってくれ頼むから」


「俺の嫁さんにもぜひ一着」


「まてよ、体操服にブルマ……そういうのもあるのか」



 ちなみにセーラー服は松永久秀まつながひさひでも入手済みだ。





「まったく、馬鹿どもがァ」



 シゲルは毒づいた。

 外交などで功績を立てているにもかかわらず、正道は領地を貰おうともしない。

 熱田の商人たちに商売のタネをばら撒きながら、舎弟どもは一切見返りを貰おうともしない。



 おかげで、あいかわらず千秋せんしゅう家の世話になる身だ。

 戦国時代に八年あまりも居て、これではあまりにも情けない。


 と、シゲルは思っているが、もちろんそんなことはない。

 シゲルが気づいていないだけで、すでに正道率いる山田党は、伊勢湾一円に影響力を及ぼす強大な力を手にしている。


 戦国時代に来て八年あまり。

 山田党のメンバーも、半数近くは結婚している。

 その多くが地縁の有力者や、国内外の豪族に繋がる娘だ。

 信長や繁栄を極めつつある熱田によしみを通じたい思惑があったのだが、もちろん彼らにその思惑は通じない。


 ただ、単純な正道たちは、年間通して送られてくる莫大な量と額の金銭、贈答品の類をまったく手元に残さず、無造作にばら撒いており、それが図らずしも、妻の実家に直接、間接的に利益をもたらしている。


 結果として、山田党の影響力は尾張一国に留まらず、まさに伊勢湾海運の怪物ともいえる大勢力と化してしまっているのだ。


 当人たちは知らないが。

 そして普通の格好をしているせいで、山田党の一員とみなされていないシゲルに、いまだ結婚の話は舞い込んで来ないが。



「わいが、ビッグなアイデアで熱田商人とタッグを組んで、本当の銭の産み方を教えてやるんじゃーっ!」



 もちろん、山田党という信用のないシゲルの話を真面目に聞く商人など、いなかった。







 山田党が馬鹿をしている間に、信長の伊勢侵攻は、順調に進んでいた。


 北伊勢の諸豪族は地図と熱田の前に、早々にひざを屈した。

 残るは南伊勢の北畠きたばたけ家と親交の深い、神戸かんべ氏のみ。


 その神戸氏も落ちる。落ちざるを得ない。

 なにしろ、商工業者と人と物、すべてを集め巨大化した熱田の富は、伊勢国にあまねく流れている。

 さらに信長は堺、大津、近江草津など、伊勢から向かう重要な物流、商業拠点を手のうちに握りこんでいる。

 もし信長と敵対すれば、熱田はおろか伊勢国内の各港からもそっぽを向かれ、干上がって破滅するしかないのだ。


 それは、大湊おおみなとを抱える南伊勢の国司大名北畠きたばたけ家とて同様である。

 しばらくは頑強な抵抗を示していたものの、大湊の会合衆えごうしゅうや伊勢神宮内からまで突き上げをくらう始末。

 ダメ押しとまでに駆り出された信長率いる三万の軍勢の元、南北朝以来、南伊勢に根を張っていた村上源氏の名家は、信長の前に首を垂れることになった。


 地図と熱田の勝利である。



「おう、伊勢も織田のになびいたかァ。それはめでてェなァ」


「アニキ、伊勢っていえば伊勢神宮ッスよ! いっぺん伊勢見物に行きましょうッス!」


「ヤスゥ、おめえはさすがに学があるなァ。そうだなァ。ふみのために安産祈願でも行くかァ」



 張本人どもはまったく気づいていない。






 信長「すこし間が空いたが、二人目の子供か。夫婦仲がよいのはいいことだ」


 濃姫「(チラッチラッ」

 

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